フライフィッシャー犬 ジャムの巻 2
あと一カ月ほどで、渓流釣りが解禁する。
渓流で、岩魚や山女魚を釣るには、釣り券が必要だ。
記憶に間違いがなければ、中学生以下と後期高齢者以上は無料だったかな?
以前は待ちきれずに、一月末には釣り券を予約して、3月1日を待ちわびていたが、釣り場と住む場所が近いと、いつでも行けるから焦らなくなった。
近いというより、目の前の用水路に岩魚がいついている。
近くの川で釣ってきた岩魚を十数匹放しておいたら、何時のまにか居ついた。用水路の洗い場に行くと、岩魚が泳いでいる。
カジカもいたが、最近はすっかり見なくなった。
この時期になると、思い出すことがある。
3月の天気の良い日、後部座席にジャムを乗せて釣り場に行く途中、駐在のミニパトがついてきた。速度違反もしていないし、たまたま一緒の方向だろうと流していたら、長い下り坂で突然サイレンが鳴って、前の車左寄って止まりなさいと来たもんだ。なんだろう、こんな田舎で何か事件かと思いながら停車して窓を開けたら、免許証を見せろという。違反をした覚えがないので理由を聞こうとしたら、後部座席のジャムが突然激しく吠えた。
その吠え方は、いままで見たことも聞いたこともないほど激しかった。
前に熊を見たときは、見て見ぬふりしをていたくらい、おとなしいレディなんだけど、この時は狼を彷彿とさせた。なにしろ40kg近くある。
すかっり怯えた警官は、今さら後に引けないとばかりに、「例え制限速度内でも雪道を走る時は、安全運転をしないといけない」と言われた。
おそらく犬をけしかけたと思ったんだろうが、サイレンをガンガン鳴らして、スピーカーで前の車止まれと叫ばれれば、普段は猫みたいに静かなジャムだって、驚くし腹も立つ。
すったもんだして、結末は積雪路の運転に対する注意書の発行だって。なんじゃこりゃあ!結局、30分近く、あーだ、こーだとかかった。
権力と拳銃を持った、官憲の怖さを味わったジャムと釣り人であった。
釣りをする気分は消え、すごすごとボロ屋に戻り、近所のお歴々に、釣果報告のかわりに、事の顛末をたっぷりと報告した。こんな駐在の居るところに移住してきて最悪だと言ったら、「こったな田舎さ飛ばされて、おもしゃくねんだべ。点数上げないとなあ、警察も大変よ」と諭された。
いまだにジャムがなぜあんなに激しく吠えたのかわからない。
態度が悪いし、拳銃持っているので極悪人に見えて、ご主人様の一大事だと思ったのかな。でも、住んでるとこの駐在さんが来たときは、とてもフレンドリーに接して、遊ぼうとしていたから、警官が嫌いなわけではない。
レビーが逝って、ジャムも逝ったら、自然に釣りの足が遠のいた。
それでも、この時期になると、あの時のジャムのことを思い出す。
川で遊んだことを思い出す。