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突然のにやにや

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ご覧いただきありがとうございます。
このお話は続編になります。
初めての方は是非第一話からご覧ください。

◼️突然シリーズ
第一話:突然の辞令
第二話:突然の仙台
第三話:突然の辞職宣言
第四話:突然の報告会

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“ 異動なの!?私も異動なの。”

ひゅっと息を吸った途端、空気と一緒に麺も気管に入り込んだ。
ゆうこが打った予想外の文字列に前に、身体はコホコホと素直に反応する。

早く咳をとめなきゃ。
周囲の視線が自分に集まっているのを感じる。
確かに突然のことではあったが、注目を集めるほど激しく咳をしているわけではない。
ここ最近、特に新型のウイルスが町中を蔓延ってからは咳に対する周囲の反応がかなり変わってきた。
ただむせただけ、といえばそうなのだが飲食店で咳き込むことに今までにはなかった申し訳なさを感じる。

“ 異動なの!?私も異動なの。”
心配そうに、だが少し笑ってるようにも見えるゆうこの手にある携帯には間違いなくそう書かれていた。

あり得ないことではなかった。
ここのところ同期の異動が続いていたし、同時に二人以上異動となることもなんなら普通のことだろう。
しかし私は自分のことばかりでその可能性を全く考えていなかった。

「いや…予想外すぎてびっくりしたよ、ほんと」
道外れた麺をやっとのことで定位置に戻した私は


「いやいや、私もびっくりしたよ。」
ゆうこはニコリと笑う。
「あと漫画みたいなタイミングでむせたのもびっくりした。」
ふふっと無邪気に笑うゆうこを見て私もまたふっと笑ってしまうのだった。


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まさか二人とも異動とはね。

ラーメン屋から出てすぐの第一声は二人とも同じだった。
ラーメン屋から会社までの短い道のりの中で、私とゆうこはそれぞれの異動先について話した。
二人とも外に出て気を使わなくなったせいか、はたまた予想しなかった出来事でテンションが上がっているためか、笑い声が大きくなっていた。

「ゆうこはどこに異動なの?」

「んー北九州。」

細い路地へと入りゆうこは私の前を歩きながらそう言う。
話を聞くと仕事内容も住むところもやはり本辞令出るまで詳しくはわからないとのこと。
異動場所が違うだけで置かれている状況はわたしとあまり変わらないことがわかった。

「旅行でも行ったことない場所だから楽しみではあるんだけど、知り合いもいないし実家からも遠いし、いざ住むとなるとちょっと不安なんだよね…」
前を歩くゆうこの顔が空を仰いだ。と、思った瞬間、ゆうこは後ろを振りかえった。

「でもね、北九州の名産調べてて楽しみなことが一個あるんだよ。」

振り返ったゆうこはニヤニヤしながらいたずらっ子のようにこちらをみる。

「え、なに。気になる。」

「ラーメンだよ、ラーメン。
博多ラーメンもそうだけど、長崎はちゃんぽんがあるし、九州は結構その県ごとに色々なラーメンがあるみたい!
だからね、横浜とは違うラーメンがたくさん食べれるんだよ!」

純粋に羨ましいと思った。
九州のさまざまなラーメンを食べられるは本当に素直に羨ましかった。

「…仙台だって牛タン食べ放題なんだから!多分!」
その羨ましさからか、若干の対抗心を出してしまった。
しかも部長と同じように食べ放題、と少し盛った。
言った後になんて格好悪いんだと後悔した。

ゆうこはふふっと笑い、そうだねーと言って前を向いた。
そして
「異動前にたくさんラーメン食べに行こうね。一緒に。」
と付け加えるようにそう呟いていた。


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その日からゆうことはお昼のラーメンはもちろん、焼肉を食べに行ったりと一緒にご飯を食べたり、遊びに行ったりと過ごす時間が多くなった。

そんな日々を過ごしているうちにとうとうこの日が来てしまった。

『人事異動のお知らせ』

退社まで後2時間を切ったところで全社員向けに連絡が来た。
予想よりも遅い連絡にやっときたか、と肩の力が抜ける。
お知らせを開くとわたしの名前、その下にゆうこの名前があることがしっかりと確認できた。
意外だったのはお知らせには私とゆうこの名前二人だけだったことだ。
これ、みる人によっては二人が何かやらかしたように見えるじゃんか…と別の不安がおしよせる。

ともあれ、辞令は降ったのだ。
住居や引越し準備、そして忘れてはいけない旦那の今後と結婚式のこと。
わたしは中でやらなければならないことと転勤への覚悟が決まっていく。
まず初めに、とわたしは自分のデスクにある電話の受話器をとった。



旦那と結婚して六ヶ月。
結婚式まであと四ヶ月。
わたしとゆうこの異動まであと一ヶ月半。

わたしと旦那様の波瀾万丈な人生はまだ始まった始まったばかり。

つづく。

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