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AQC 2024 に参加しました!

執筆者:Jij Inc. Researcher (研究者) 坂井 涼

 2024 年 6 月 10 日から 14 日にイギリスのグラスゴーで開催された Adiabatic Quantum Computing (AQC) 2024 に,研究開発者の坂井がポスター発表で参加しました.2022 年開催の AQC 2022 には西村,後藤,松山が参加しており,その記録がこちらで公開されています.
AQC とは量子アニーリング・断熱量子計算の国際会議で,この分野に取り組む研究者が理論・実験を問わず,また大学・企業といった所属を問わず集い,研究成果の発表と議論を行ないます.
今年の特色としては,学生の方の発表が多く見られたことと,最終日に実施されたパネルディスカッションが興味深かったです.パネルディスカッションでは分野の専門家に限らないパネリストが数名招待され,主に聴衆からの質問に応える形で,量子計算の未来を俯瞰するような議論が行なわれました.大学と産業界の協働といったテーマも積極的に話し合われ,この分野・研究会の間口の広がりを感じる試みでした.

グラスゴー

今年の開催地であるグラスゴーは緯度で言えば樺太の北端と同じくらいで,開催期間中の気温もおよそ 7—17 ℃と涼しめでした.空き時間には街中の壁画をはじめ複数のアートギャラリーや美術館で芸術を楽しんだ人が多いようです.また観光客が多く,学会やワークショップも近隣で複数開催されていたようで,到着したときにはお祭りのような華やいだ印象を持ちました.物理に因んだところではジェームズ・ワットがゆかりを持つ地のようです.

George Square
会場の University of Strathclyde


Gallery of Modern Art
壁画1
壁画2
ジェームズ・ワット像

講演の紹介

いくつかの興味深い講演についてごく簡単に紹介させていただきます.

Compressed space engineering for constrained combinatorial optimization (Dr. Tatsuhiko Shirai, Waseda University)

こちらは講演者の方らによる過去の論文で議論された,解空間を変形することで局所解から脱出するという考え方を QAOA に応用したものと言えそうです.QAOA の言葉ではミキサーハミルトニアンに工夫を加えることで解空間を圧縮するという言い方ができますが,実際に圧縮された空間での QAOA が通常の QAOA より高いパフォーマンスを示すということが説明されました.私は個人的に前述の論文に興味を持っていたのでより楽しめました.

Advantages of multi-stage quantum walks over QAOA as approximations of quantum annealing (Mr. Lasse Gerblich, University of Strathclyde)

こちらの講演ではある種の単純化の下で多段階量子ウォークが同じ層数の QAOA を上回るということが示されました.この「ある種の単純化」は後述の我々の結果における線形化と関連していそうで,より掘り下げて比較するのが面白そうです.実際に講演者の方がポスター発表を聞きに来てくれて,比べたいねという旨のコメントを頂きました.

Implementing a cooling protocol on a programmable quantum annealer (Mr. Gregor Humar, Jožef Stefan Institute)

熱浴を繰り返しリセットすることで系のエネルギーを段階的に下げていくというプロトコルが示されました.このプロトコルは既存のハードウェアで実現できるということが強調されていました.私はこの分野での研究歴が浅いので,このように研究者が何を重要視しているのかという点が伝わる発表は勉強になりました.

Scaling Advantage in Approximate Optimization with Quantum Annealing (Prof. Daniel Lidar, University of Southern California)

こちらは arXiv:2401.07184 [quant-ph] に基く招待講演でした.量子と古典の比較において,厳密アルゴリズムから離れて近似アルゴリズムの枠組みの中で量子加速を示す,という趣旨の講演でした.近似アルゴリズムは量子加速を示す上で「美味しい」領域だということが強調されていて,今後示されていくであろう他のセットアップでの比較結果も楽しみです.

Jij からの発表

Jij からは,研究開発者の坂井が「Similarity and transferability in linearized QAOA parameters」というタイトルでポスター発表を行ないました.こちらは Jij のメンバーと大阪大学/理化学研究所の藤井啓祐さんとの共同研究で,arXiv:2405.00655 [quant-ph] に基く発表です.
こちらはパラメータを単純化・固定化した QAOA の性質を調べた研究と言え,QAOA から古典的な最適化手順を省略することを大きな目的の一つにしています.元々論文を読んで知っていたという方が数名質問してくださり,今後の展開に重要な示唆を与えていただきました.
多くの方が質問してくれたのは

  • 主にノイズのないシミュレータにおける結果が示されているが,実機 (ノイズ下) での性能はどうなるか

  • 模型 (解くべき問題) に対する依存性はあるか

  • 背後にどういった物理があると考えているか

といった点で,今後はこれらへの解答を与えるべく更に研究を進めて参ります.

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