ホローポ・オリエンタルとは?
ベネズエラ民衆音楽のホローポの中でも、特に「ホローポ・オリエンタル Joropo Oriental」と呼ばれるものについての非常にざっくりした解説です。
この記事の対象:ベネズエラ音楽を少しでも知っている・ホローポを聴いたことがある人(全く知らなくても動画を見るだけで楽しめます)
この記事が対象でない人:スペイン語を見ると蕁麻疹が出てしまう人
* YouTube動画が大量にあるので、YouTubeが見られる環境でお楽しみください。
1. ホローポ・オリエンタルの概要
ホローポ・オリエンタル:「東部地方(オリエンテ)のホローポ」
下の地図(出典: Wikipedia)の、Nueva Esparta~Sucre~Monagas~Anzoáteguiにかけてのベネズエラ東北部地域が、ホローポ・オリエンタルの本場。マルガリータ島などの島でも演奏されている(通常「ホローポ」と呼ばれる時の指示対象は、Apureあたりの、コロンビアまで続いている平原地方の「ホローポ・ジャネーロ」)。
使われる楽器は、マンドリン(またはバンドーラ・オリエンタル、またはアコーディオン)、クアトロ、マラカス、マラカス、太鼓、マリンボラ。 [石橋 2002; 265]。ホローポ・ジャネーロと違ってアルパは使われない。また、マルガリータ島にはクアトロよりも先にバンドーラが伝わったため、クアトロ無しでバンドーラ伴奏での演奏も行われる [Beto Valderrama との個人的会話より]。
2. ホローポ・オリエンタルの楽曲
カリブ海に近い地域だからか、キューバのソンや、メキシコ(ベラクルス)のソン・ハローチョにもとてもよく似ています。
《Polo Margariteño マルガリータ島のポロ》
ポロは民謡形式のひとつ。スペインにルーツを持ち、カリブ海域にて育まれた民謡形式が数多く残っているのがホローポ・オリエンタルの特徴と言えよう。
↑「ベネズエラの歌声」ことセシリア・トッドによる歌唱。
↑ こちらもポロ。オリエンテ地方民謡の名歌手マリア・ロドリゲス。
この他の民謡形式としては、「ホタ Jota」 、「ガレロン Galerón」などなど。
そして、ホローポ・オリエンタルの中でも、Joropo con estribilloと呼ばれるような形式がある。要するにこれは、「歌」の部分と「アウトロのインプロビゼーション」部分がある形式のホローポ。おそらく「アウトロ」部分はもともと人々が踊りに集中する部分だったと思われるが(サルサのモントゥーノみたいな感じ)、現代ではインストでよく演奏され、ここで演奏者たちが超絶技巧を見せたりもする。
↑若手の都市在住ミュージシャンによる、歌ありのJoropo con estribillo よく噛まずに歌えるなぁ。
↑この曲では、1:45で歌の部分が終わり、残りがアウトロ。
(非常に専門的な話だがおそらく日本語での解説はこの世に存在しないと思うので書いておくと、)このアウトロは、「Estribillo Menor」「Media Diana」「Golpe de Arpa Mayor」という3つの部分から構成されている。
急いで書いておくと、
・Golpe de Arpa : I, IV, V7, V7 / 表ノリ(a tres)
・Media Diana (アンダルシア進行) : Im, VII♭, VI♭, V7 / 裏ノリ(a seis)
・Estribillo : IV, I, V7, I / 裏ノリ (a seis)
(さらにわかる人だけにわかれば良い情報だが一応書いておくと、表ノリと裏ノリがスイッチングする際でもベースは(踊り手が足を踏み外さないために)一定のリズムを刻み続けるので、スイッチの際に1拍多く入ったり少なくなったりする。説明が難しい)
このうちの1形式だけで1曲演奏されることもある ↓下の動画はGolpe de Arpa Mayor
3. ホローポ・オリエンタルの演奏者(特にマンドリン奏者)
ホローポ・オリエンタルの重要な楽器として、バンドーラ・オリエンタルとマンドリンがある。バンドーラ・オリエンタルは4コース複弦・ナイロン弦の楽器であり、マンドリンと相互に代替可能である。
・リカルド・サンドバル Ricardo Sandoval
クラシックとベネズエラ民衆音楽の奏法を身につけている偉大すぎるマエストロ。マンドリン・コンクールの審査のためにたびたび来日している。伝統的なホローポ・オリエンタルの形式(裏表ノリのスイッチング、後半のアウトロ部分)にモダンなエッセンスを詰め込んでいる、現代ベネズエラ器楽曲のスタンダード。めっちゃっちゃかっこいい!!!回せマラカス!!!
・モローチョ・フエンテス Remigio "Morocho" Fuentes
(直接の面識はないが、)界隈では有名な、(いい意味で)音楽バカで、宴会の間中ずーーーっと楽器を弾いているらしい。どの曲もマンドリンのかっこよさが光っている。
↑この動画でクアトロを弾いているAlfonso Morenoはホローポ・オリエンタルのクアトロの名人。ホローポ・ジャネーロとオリエンタルの右手の違いを説明している動画↓
・チュイート・レンヘル Jesús "Chuito" Rengel
セシリア・トッドのバンドで活躍しているマンドリン奏者。音色がとにかく良いのと、メロディの選び方が非常に独創的。↓下の動画は筆者が好きで選んだが、ホローポではなくメレンゲ。
・ベト・バルデラーマ Alberto "Beto" Valderrama
マルガリータ島に住む、マエストロ・オブ・マエストロ。長老。めちゃめちゃ民謡に精通していると同時に、楽譜の素養もあり、多くの民謡を採譜している学究肌。
彼の書いたViolinista Oriental は、ベネズエラのバイオリン奏者たちがよく弾く超絶技巧曲。この曲もなにげにJoropo con estribilloの流儀に従っています。あとEl AvisperoもEnsamble Gurrufíoのアルバムに入っていたりして有名(グルフィーオについての説明は省略します)。
・グアルベルト・イバレート Gualberto Ibarreto
ベネズエラ中に知られた、オリエンテの声。ベネズエラ音楽でなにを聞けば良いか迷ったら彼の歌聴いておこう。
最後の方あんまりホローポ関係ないですが、以上です。
追記:さらに聴きたい人のためのディスクガイド
La bandola oriental en tres generaciones (2005)
三世代のバンドーラ・オリエンタル奏者の演奏の録音が収録されています。
YouTubeに全曲上がっています(たぶん日本では手に入らない)。
¡Y Que Viva Venezuela! Maestros Del Joropo Oriental (2009)
上述の、チュイート、モローチョ、ベトの三人の演奏が聴けるアルバム。こちらはApple Musicでも聴けます。M13のLa reina y el rey (チュイート作)は実はエゲツない変拍子曲です。
参考文献
石橋純, 2002 「ベネズエラの『国民音楽』ホローポ」, 『熱帯の祭りと宴』 260-282, 柘植書房新社.