東京ディズニーシーと水運・海運 ~なぜメディテレーニアンハーバーの船着き場は最初から「ザンビ前」にある?~
2/17のみつきさんとTamifuruDさんのコラボキャスの中で、"ソアリンができてから「ディズニーシー・トランジットスチーマーライン」の重要度がぐっと増した"という旨の話題がありました。そういやなんで開園当初からあの位置にあるんだろうね、というわけでこの記事を書いてます。
「ディズニーシー・トランジットスチーマーライン」は非常に地味ですが、パークの交通を支える重要な術の一つです。東京ディズニーシー最大の特徴であり、なおかつ最もキツい悩みである"立体的で複雑なパーク構成"を平面上でカバーする、素敵なアトラクションの一つでもあります。冒険とイマジネーションの"海"をテーマにするうえで、海上交通はなくてはならないものとされておりますが、そこには冒険だけでない、ちょっぴりリアルな味も隠されているのではないかと私は思っています。
「ディズニーシー・トランジットスチーマーライン」の船着き場は合計3つ。ゲートをくぐるとそこは港町"メディテレーニアンハーバー"、欲望と現実が渦巻く"アメリカンウォーターフロント"、冒険の最先端拠点たる"ロストリバーデルタ"、それぞれに個性があり、それぞれにストーリーがあると思います。これらを結ぶものは水・海上交通、すなわち「水運・海運」のストーリーです。
水運・海運とテーマポート
より"はやく"、より"あんぜん"な手段が増えても、安く大量に、かつ「大量」のレベチで長距離を移動できる水・海運は、大航海時代からずーっと変わらぬ独自の味を保って今日に至っています。自動車やエネルギー類なんかはもう説明不要レベルですが、食料品もほとんどが船で輸送されていると聞くとびっくりする方も多いんじゃないでしょうか。
船を使ってものを運ぶ最大のメリットは安価であることです。しかしながらその裏には、海峡など国家間の戦略ポイントをかいくぐりながら進まなければならないという大きな問題を抱えています。東京ディズニーシーにおいては、「テーマポート」という形でリアルな各国間の位置関係はぼやかされていますが、それでもハドソン・リバー・ブリッジやプエンテ・デル・リオ・ペルディードなど、パーク交通上なんかあったらアウトな箇所すら堂々と通過していくスチーマーラインは、まさしく冒険の精神にあふれていますね。
では、そのなかなかスリリングなルートを通じてまで運びたかったものとは、いったい何なのでしょうか?ここからはちょっとばかし妄想みたいなのが入りますが、マジックにはつきものなのでね。
ザンビ前に船着き場がある意味
タイトルを回収します。ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ前にスチーマーラインの船着き場があるのは、「ザンビーニ兄弟の事業の輸出拠点だったからではないか?」というのが私の考えです。
上記の公式ブログの通りこういった匂わせはいっぱいあるっちゃあるんですが、それだけだと味気ないのでいろんなお話を。兄弟たちの集団が近くのブドウ畑で作ったものとかオリーブオイルを輸出していることは、この記事にたどり着いた方ならすでにご存じかとは思います。
では「リストランテ」あたりで製造したものを、わざわざスチーマーラインのところから輸出しているのはなぜか?
私の考える最大の理由が「効率化」。あの船着場はザンビーニ兄弟が所有している土地なのか?と言われるとそこまで確証たるものがなかったりしますが、ワインやオリーブの中でも、できたものから即刻出荷する体制を整わせたかったのだと思います。A列車でマップ外に向けて大量に線路引いて豆腐(貨物コンテナ)を売りに行くのと同じ理屈です。
物流を支配するものが世界を支配すると言われる現在の世の中では、運ぶ中で製造と倉庫と船会社が別々に分かれています。ダニエラ姫の時代から脈々と続くこの地で、当時席巻していたオランダ船がどれだけの数使われてるのかは意外と知ることが難しかったりしますね。ハーバーの時代設定が媒体によってごっちゃすぎて、時を超えていってるのかもしれないというものこそありますが、この辺を補完する設定がでてきたら面白いなーと常々感じています。
製造所・畑・輸出拠点の三位一体。これらによって支えられているのがザンビーニ家の強みであると私は考えています。
三角貿易のような形で
テーマポート間のつながりを表すものに、「ワインの樽」があります。現在ではドックサイドダイナーに置いてあるこのワイン樽は、アメフロとメディテレーニアンハーバーを繋ぐ架け橋としてあまりにも有名です。
アメリカンウォーターフロントの乗り場はタラの缶詰工場の用地を使っていますが、ケープコッドという場所が場所なのでめちゃめちゃマッチしてるんですよね。現実のケープコッドがあるニューイングランド近海では、古くからタラの漁場として知られ、また暗い歴史としてこのタラを利用し奴隷貿易に関わって巨万の富を得たというお話もあったりします。もっと言うとラム酒もこの辺りに関わっているんですが…
これに大きく関わるワードが「転売」です。最終的に貿易商が回り回って手にしたのは「糖蜜」というもので、これを地元のラム酒業者へ転売するという形で一連のサイクルは終わりを迎えます。今も昔も、楽に「利益」を出せる転売。当時は社会全体に輪廻をもたらしていたからこそ、受け入れられたのかもしれませんね。
で、なんで今でこそありふれた魚であるタラがここまで重要視されてたのは、長期間保存が効くことと、キリスト教の肉食禁止日に取れる貴重なタンパク源であったためです。さらに言うと、ヨーロッパのワインも貿易で立ち寄るついでに購入されてたりするんですね。ケープコットからはるばる“ついで”にザンビーニ家のワインを買いに行く。スチーマーラインは、そんな今となってはファンタジーのような体験ができるわけです。
ルートをぐるっと回れば
さて。ここからはイタリアをちょっと離れて、ヨーロッパの河川交通とスチーマーラインのつながりを紐解いていきましょう。
東京ディズニーシーの水の大動脈がスチーマーラインであれば、ヨーロッパの水の大動脈といえばライン川になります。共通点の一つとして大きいのが「ほぼ滝がない」ことです。滝がなく作られたディズニーシーの水路は当たり前っちゃ当たり前なのですが、正直なこと言うと「デザインされたもの」です。それであるが故に、水上での輸送に関しては右に出るものがないくらい有利な地形となっています。
あえて一つ違いを挙げるとしたら「河川の幅」でしょうか。地上が立体的なつくりのため水上交通がものを言うディズニーシーにおいては、これ以上の増発が見込めないくらいの狭い幅であることは見てわかる通りなんですが、正直これは本当に致命的だと思います。おもっくそ比較で申し訳ないんですが、USJがパーク内の交通機関がないのにもかかわらず歩きやすいのは「坂がないから」だと思うんですよ。もっと改革に走るならまずここかなーと思っています。
おわりに
今でこそ陸上交通と飛行機全盛期ですが、これを機会に水上交通の素晴らしさに気づくことができました。最後に一言。
やっぱディズニーシーバケモンだな!
現場からは以上です。