百田尚樹-KAZUYA騒動の本質は「安倍ロス」では?
保守論者がアメリカ大統領選で対立する意味
作家の百田尚樹氏と保守系政治ユーチューバーのKAZUYA氏で抗争が勃発。百田陣営に有本香さんも参戦しています。一体、何が原因かと思いきやアメリカ大統領選結果をめぐってのことだそうで。
KAZUYA氏が保守派に蔓延する陰謀論(不正投票など)を問題視したことにトランプ支持を続ける百田氏が激怒したというわけです。
両者とも大変、人気がある論者です。だから支持者も多い。お前如きが口を出すなというかもしれない。しかしそんな人でもちょっとだけ考えてみましょう。
「保守派がアメリカ大統領選の結果について対立するってどうなのよ?」
安倍政権が終わり、そしてコロナ禍は続きます。安全保障問題もある、拡大するポリコレ社会、雇用問題、課題は山積していませんか。ところがSNS上でもいわゆる保守論者という人々が「トランプがー、バイデンがー」と繰り広げていました。
もちろんアメリカ大統領は日本にとっても重要です。しかしどなた様が大統領だろうが結局、この国の針路は日本人の意志と選択が問われます。ところがトランプに執着するというのは逆にアメリカ依存を露呈したことに他なりません。保守派のあり方として正しいのか悩ましいです。
安倍ロスで行き場の無くなったエネルギー
この百田KAZUYAバトル、一見はアメリカ大統領選の見解をめぐっての対立に見えますがそれは表層的。安倍前首相が辞任したことでエネルギーの発散先を喪失したように思えます。過去を振り返ってみます。
小泉政権から安倍第一次政権辺りはまだ保守派も「親米・反米」「市場主義・保護主義」「大きな政府・小さな政府」「上げ潮・財政再建」といった議論が保守論壇でも活発でした。2007年に佐伯啓思京大教授(当時)が正論大賞を受賞したのも大きなメッセージと言えます。
しかし安倍第二次政権によって保守派の大目標が「安倍政権を支える」という点に陥ってしまいました。もちろん朝日新聞や東京新聞などの人格否定とも言えるヒステリックな報道は個人的にも嫌悪感を抱きますが、しかし単に安倍賛美であってもいけない。やはり物事は是々非々ですから。
ところが本来、向き合うべき政治課題よりも「安倍政権を支える」ということに終始しました。中には中西輝政氏のように歴史認識問題をめぐり安倍氏と距離を置いた人もいます。私も中西先生の判断を支持しました。
論壇誌を見てもとにかく安倍を守れの声が圧倒的。第一次安倍政権時の状況を鑑みれば心情的に理解できますがあまりに行き過ぎました。ところがその精神的支柱の安倍氏が辞任。突然、精神的支柱を失ったのです。
もし立憲民主党が強大な野党ならば、行き場を失ったエネルギーも向かう先がありました。しかしただの活動家の集まりに旧民主党のような熱狂や影響力はありません。また赤字で希望退職者を募集する朝日新聞に敵意を向けたとしても何ら解決になりません。どちらも仮想敵としてはあまり弱い。
するとエネルギーのモヤモヤは「疑似安倍」と言うべきトランプVSバイデンに向かいました。トランプに安倍を投影したのでしょう。それに反トランプを鮮明にする米メディアはちょうど朝日、毎日新聞とオーバーラップします。トランプ支持の保守派の高揚は安倍氏への郷愁ではないでしょうか。すなわち安倍ロス。安倍政権が終わり左派の間で「安倍ロス」が始まると予想しましたが、実は支持者の間でも起きていたことになります。