子どもの声を「きく」:5つのステップ
日常生活の中で、私たちは「きく」という行為を当たり前のように繰り返しています。しかし、「きく」にはいくつかの深い段階があり、それを意識することで、より豊かなコミュニケーションが可能になります。伊藤嘉余子先生は、5つの漢字と英単語を使って「きく」行為の違いを分かりやすく説明しています。特に子どもとの関わりにおいて、この「きく」の深さが重要になります。ここでは、その5つの段階について解説します。
1.【聞く Hear】
「聞く」は、最も基本的な段階で、音として相手の言葉を受け取るだけの行為です。子どもが話しかけてきても、忙しさから聞き流してしまったり、反射的に「ダメ」「後で」と返答してしまうことがこれに当たります。音は届いていても、心には届いていない状態です。
2.【聴く Listen】
「聴く」は、相手の言葉に耳を傾け、その意味を理解しようとする行為です。単なる音の受け取りではなく、話の内容や背後にある感情を感じ取り、相手の意図を汲み取る努力が求められます。これにより、子どもは「自分の話がきちんと聞かれている」と感じ、安心感を抱きます。
3.【訊く Ask】
「訊く」は、相手に問いかけることで、対話を深めていく段階です。「どうしてそう思ったの?」「何があったの?」と質問を投げかけることで、相手の考えを整理し、互いの理解を深めます。特に子どもは、自分の思いを明確に伝えるのが難しい場合が多いため、この「訊く」プロセスは非常に重要です。
4.【効く Effect】
「効く」は、子どもとの対話を通じて、お互いに納得できる結論や心地よい着地点を見つける段階です。大人は子どもの話を尊重しつつも、現実的な妥協点を探し、子どもにとっても意味のある形で会話を締めくくります。ここでのポイントは、単に話を聞くだけでなく、子どもの心にしっかりと響かせることです。
5.【利く Work】
「利く」は、話を聞いて理解したことが、実際の行動に繋がる段階です。子どもが「きいてもらった」経験を基に、自分の考えや行動に自信を持つようになり、自己実現に繋がります。また、大人にとっても、このプロセスを通して子どもの成長や変化を促し、対話が役に立つことを実感できる段階です。
聴けば聴くほど難しい「きく」
「きく」という行為は、単純に見えて実は奥が深いものです。特に子どもとのコミュニケーションにおいては、大人がただ言葉を聞くだけでなく、その背後にある気持ちや状況をしっかりと受け止めることが求められます。
伊藤先生は、子どもの言葉と態度の裏にある本音(本当のニーズや言いたかったこと)を「大人が正しく翻訳して受け止める必要がある」と述べています。
子どもに「なぜ? Why」と直球の質問をすると、答えられる子はほとんどいないそうです。説明がうまくできないために感情を爆発させたり、「もういい」と投げ出したり、「知らない」と避けてしまいます。
子どもは、語彙が少なかったり、適切な表現方法を知らなかったりするため、大人を相手にする際に特に困難さを感じます。幼児や障がいを持つ子どもであれば、なおさら言語化は難しいでしょう。しかし、こうしたことは誰が相手であっても起こり得ることです。
話をきくときには、らせん状に掘り下げて進むイメージを持つことが大切です。「それは、どういうこと? What」や「選ぶとしたら、どちら? Which」といった質問を使いながら、徐々に掘り下げていくことで、子どもの深層にある本音にたどり着くことができるのです。このアプローチは、相手が子どもに限らず、コミュニケーション全般に役立つ考え方です。
終わりに
この5段階の「きく」を実践することで、単なる情報交換ではなく、心に寄り添った深いコミュニケーションが可能になります。特に社会的養護の現場では、子どもたちの成長や安心感を支える大切なツールとなるでしょう。
感謝・引用元
この記事は、伊藤嘉余子先生の研修を受講し、参考に作成しました。
受講研修:令和5年度FH運営マネジメント研修(オンライン)
また、すべての図は、伊藤先生の【NPO法人デザイン国語】のホームぺージから引用しました。
掲載にあたり、伊藤先生へのご許可をいただきました。
伊藤先生ありがとうございました!