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流血と救急車

少し遅めの夜。
同性の先輩と連れ立ってそれぞれの家へ向かう中で。

それは、突然にやってきた。

私たちは、見てしまったのだ。

電柱に片腕をかけ、もたれるようにしつつ、放心したまま頭から血を流す、一人の老年に近い中年男性を。

私の隣にいた先輩は、とっさに声をかけた。

「大丈夫ですか??」

私は、うっかり、その瞬間に、心の中で舌打ちをした。

(あーあ、やっちまった)

声をかけるということは、関わるということ。

長い夜が、始まったなと、心のどこかでそう思った。

先輩は、思った通りの行動パターンで。
声はかけ、心配はするが、何もしない。

そうなのだ。
そうだろうと、わかっていた。

しかしだな。

関わったからには、そのままでいるわけにもいかないのよ?
そこんとこ、わかってるの??先輩???

あの当時、まだ、公衆電話があちこちにあった。

初めて押す、「緊急ボタン」
その後、119へ。

(なんで私が)
と思いつつ。

事情を話す、初めての119。

予想外だったのは、通報者の氏名と連絡先を、聞かれたことだ。

「えっ?私のですか???」

思わず、電話口で叫んだ。

心配して、声をかけたのは、私じゃない。

あぁ、やっぱり。
だから、言わんこっちゃない。

善意だけの先輩を、少し憎たらしくも思った。

なのに、こうなったからは、放って置けない自分がいた。

自分も自分だ、と、今なら感じるが、当時は、
「しょうがねーなー」
の気持ち1つで動いていた。

その後は、想像通り。

救急車が来て、なぜかおっさんが、自分の家へ逃亡して、救急車に乗るのを拒否。
家へ追いかけて行った救急隊員が、しばし対応して、
「本人が大丈夫と言ってるから」
と、誰も乗せることなく帰っていった。

そして、残されたのは。

頭から流血しているのを見て、無防備に声をかけた先輩と、心で舌打ちしながら、救急車を呼んだ後輩の二人。

なんの結果も生み出さない夜...

なんだったのだろう。

私たちは、どうすればよかったのだろう。

そんなモヤる夜を過ごした。

_____

あれから数十年。

今なら、私は、どうするだろう。
どう感じるだろう....

(ある都会での新聞記事を見て、過去を思い出す)

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