軟禁
ある日、わたしのともだちは、わたしにこう言った。
「今度実家へ帰ったとき、両親に、軟禁されるかもしれない。」
そして、そのともだちは、そうなったことを、間接的にわたしに知らせる手段として、
「○日になっても自分が戻って来なかったら、実家に知らないふりをして、電話をかけてみて欲しい。」
と言った。
ただならぬ雰囲気に、わたしは、黙ってうなづいた。
しばらく経っても、ともだちは戻って来なかった。
わたしは、頼まれた通りの電話をし、その応答の内容から、
(ああ、本当に、軟禁されたんだな。)
と、理解した。
ともだちは、その後、しばらく帰ってくることはなかった。
アパートは、空っぽのままだった。
そしてそのまま、ともだちは、卒業式に出られることなく、学生時代を終えた。
なぜそうなったかということについて、想像できたひとと、できなかったひとがいるに違いないので、遠回しに、理由を説明することにする。
ともだちが、軟禁された理由。
それは、その子がある団体に所属したことを心配したご両親が、軟禁して、洗脳と言われるものをときたかったからなのだった。
さまざまな想いが交錯して、こんなことになった。
ともだちは、...自身の軟禁を予期していたともだちは、それを受け入れたのだろうか?
わたしは、ともだちの本当の気持ちを知ることなく、歳月だけが過ぎた。
そして。
その後しばらくして、ともだちから、
「軟禁が解けたよ。」
と、連絡が来た。
それ以上、わたしたちは多くを語らなかった。
軟禁先が、家族が住む家庭内で行われていたことを知ったのは、そのともだちの、結婚式の前日だった。
ともだちに呼ばれて行ったわたしは、ともだちのご家族にもてなされ、ともだちの部屋へ招かれ、その部屋に泊まった。
案内されたともだちの部屋に入ろうとしたその時、ともだちは、部屋入り口のドアのところにある穴を指して、
「ほら、これ、軟禁の痕。」
と、言った。
それは、錠を取り去った痕だった。
その瞬間、わたしの身体に、電撃が走った。
(.....そうか。ここで、か。)
と、わたしは思った。
なぜかはわからないけれど、わたしは、軟禁は、どこか別のところで行われていたと、勝手に思っていた。
そうか、家庭内で、軟禁されていたのか.....
想像していたこととは別次元の重さと、闇の深さを、わたしは感じた。
軟禁された頃の話と、想いの変化について、ともだちは、ぽろ、ぽろ、と、語った。
(ああ、友よ。)
もう、なにも言えない。
言えることなんか、ない。
その話を聞きながら。
わたしはまた、黙ってうなづくのだった。
ともだちは、そうして、新しい家族との暮らしを始めた。
新しい家族が、ともだちの過去を知っていたかは知らない。
でも、ともだちはその後、何人かの新しい家族をつくった。
そうして、わたしのともだちは、その血のつながった家族とともに、いまも元気に、どこかで暮らしている。
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