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【検証】自転車ヘルメットは果たして本当に有効なのか?統計を使って考えてみる。

自転車乗車時のヘルメット着用が努力義務になり約1年半が経過しました。ヘルメット着用率はあまり上がっておらず、政策の実効性が問われる事態になっていると感じています。


インターネットで検索すると、自転車乗車時のヘルメットの有効性が書かれた記事がいくつもヒットします。しかしこれらはどれも、ヘルメットの非着用により死亡率が◯◯倍となったという内容の紹介のみのことが多いです。

そこで過去のデータから、自転車乗車中のヘルメット着用の有無でどのような違いがあったのか、またその有効性を統計を用いて検証してみようかと思います。

(筆者は統計の専門家ではないので、記載内容の正確性は保証できません。間違いを見つけた方は教えてください。)
(この記事の内容は自由に転載していただいて構いませんが、その際は出典を明記してください。)

自転車事故の際のヘルメット着用別の死亡率

まず、入手した自転車事故数のうち、ヘルメット着用別の死亡率について考えます。

警察庁のデータでは、2023年の自転車事故の件数は7万2339件です。自転車が当事者の死亡・重傷事故は7461件で、そのうち346人が死亡しています。174人が頭部を損傷し、そのうちの9割(159人)はヘルメット未着用だったとのことです。2018年から2023年までで、自転車事故で死亡したのは1898人おり、そのうち未着用は1780人とのことなので、着用率は93.8%ということとなり、例年9割くらいの方が非着用なのでしょう。
また死傷者数7461件を簡易的に7461人ということとし、2023年のヘルメット着用の全国平均は13.5%だったため、未着用が7461×0.135=6454人だったと仮定します。

●2023年の自転車事故による死傷者数
ヘルメット着用あり:1007人
ヘルメット着用なし:6454人
●2023年の自転車事故による頭部外傷での死者数
ヘルメット着用あり:15人
ヘルメット着用なし:174人

・ヘルメット着用者の頭部外傷での死亡率=15÷1007×100=1.49%
・ヘルメット非着用者の頭部外傷での死亡率=174÷6454×100=2.70%
となります。

ヘルメット着用と非着用のリスク比


ここで、相対的なリスク(リスク比)を求めると、
1.49%÷2.70%=0.55
となります。つまりヘルメット着用すると、頭部外傷による死亡リスクが45%低下すると解釈することができます。逆にいうと、
2.70%÷1.49%=1.81
と、ヘルメット非着用により頭部外傷による死亡が1.81倍になるとも言えます。これがよくネット上で見る記事で多い内容ですね。

ではここで一歩踏み込んで、このリスク比が統計的に有意かどうか(間違ったとしても計算的に20回に1回(5%)以下となるので、そのくらいの確率で起きるのなら正しいとみなす)、リスク比の統計的有意差を示すP値(0.05)を求めることができるカイ2乗検定で計算してみます。

X1   X2 カイ2乗検定のP値

ヘルメット着用 あり なし
死亡      15  174   p値:0.0348
死傷者数    1007  6454

そうすると、P値は0.0348となりました。0.05以下なので自転車のヘルメット着用は、有意に頭部外傷による死亡を減らすと言うことができそうです。

では、ヘルメットはどの程度着用することで効果を発揮することができるでしょう?

その場合、まずリスク差を計算する必要があります。

リスク差とNNT(Number Needed to Treat)

リスク差を計算するには、自転車事故のうち、頭部外傷での死亡による死亡率を調べる必要があります。
頭部外傷による死亡者数÷自転車事故総数×100=頭部外傷による死亡率
174÷72339×100=0.24%

この数字に先ほど計算したリスク比をかけると、自転車事故のうち、ヘルメット着用者の頭部外傷による死亡率になります。

ヘルメット着用者の頭部外傷による死亡率=0.24%×0.55=0.132%

リスク差はこの2つの数字の差となるため、
0.24%-0.132%=0.108% となります。自転車事故のうち0.108%の人が、ヘルメットを着用したことにより死亡しなかったと解釈できます。
このリスク差の逆数をNumber Needed to Treatと呼び、1人を頭部外傷による死亡から救うために、何人がヘルメットを被ればよいかという解釈になります。
この場合の逆数は、1÷0.001080=1250 となるため、「1人を頭部外傷による死亡から救うために、自転車事故を起こした1250人がヘルメットを被る必要がある。」ということができます。

ヘルメット着用努力義務化は、誰のための政策なのか?

こう考えると、今のヘルメット着用努力義務のままだと頭部外傷による死亡事故を減らす効果は少ないと言えるのではないでしょうか。ヘルメット着用率は徐々に上昇してきているとはいえ、いまだ17%(2024年度)に留まっています。

しかし、ヘルメット着用は今後も罰則付きの義務化はとはならないでしょう。なぜなら、これは私の推測ですが、自転車のヘルメット着用努力義務化は、特定小型原付(街で見かけるLUUPなど)をヘルメットを被らずに乗れるように、その規制を緩める代わりに、自転車も辻褄合わせにヘルメットを努力義務化したからに過ぎないからです。

シェアサイクルやLUUPなどは、ヘルメット着用が完全義務化されれば利用率が著しく低下することが予想されます。政治的な経緯で特定小型原付という区分を作った一部の利権政治家と、そんな政界と癒着した企業が、自らの利益を手放すような政策を認めるとは到底思えないからです。

こうやって統計的に検討すると、ヘルメット着用は、普及率が相当程度高くなる=罰則付きの着用義務化でようやく効果が現れると言うことができます。しかしこのまま努力義務で推移する限り、自転車利用者の健康と命のためではなく、一部の政治家と企業のための政策だったのではないかと思わずにはいられません。

(もちろん、一人ひとりの命を救うために、ヘルメット着用が大事なのは言うまでもありません。)

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