「語ること」と「語りを聞くこと」と。
音声プラットフォームstand.fmで配信したコンテンツを、記事化してお届けするシリーズです。
「あなたのVOICEを聴くラジオ」、この番組は、マーケティングリサーチャーで脚本を書いているJidakが、ひと・もの・ことを通じて聞こえてきたVOICE・メッセージをゆるくお伝えしていく番組です。
「語ること」、普段意識していますか。
今日のテーマは、「インタビューって興味ありますか?」というような話です。
インタビューのみならず、「語ること」かもしれません。
ゴールを決めずにつらつらと話していきたいと思います。
私はモデレーターを生業としています。マーケティンリサーチを行う中で、qualitative(定性的)に調査すると言う時、人の話を聞いてメーカーさんにフィードバックし、商品開発、コンセプト開発の役立てているといった仕事をしています。定量的に「何%の人がこんなふうに思っている」という参考値もあれば、「その何%の人がそう思う背景は何なのか」と聞いていく時に定性調査、インタビューが行われます。
YES、NOの質問でデジタルで聴いていくことは不可能なんですね。
今後どんなにデジタル化して、AIが担っていく範囲が増えることになっても、「人に深く寄り添う・見つめる」という、この定性調査でカバーしている部分は、なかなかどうにも代替が効かず残っていくんだろうなと思っています。
その定性調査の、グループインタビューにおいてはモデレーター(聞き役・調整役・促進役)というのをやっています。
何人かご参加いただく方たちにお話を聴いていくのですが、自由に話して頂くのではなく、課題解決のための設問を設けていて、テーマを次々に投げかけつつ進行させていくというような役割です。
一人の人に聴いていくデプスインタビュー(1 on 1 インタビュー)というのもあります。一人の人に寄り添って、より深い話をその人の生活文脈とともに聴いていくというものです。
「語りに寄り添う」からこそ、浮かび上がる
「これを使っている理由はこれです」というだけではなく、「この方はこんなライフスタイルで、こんなお困り事があって、こんなところで満たされていると感じている。そしてこんなことを欲望していたりする。そんな方が、この商品A
を、この方のライススタイルの文脈においてはこんなふうに使っている、使いたいと思っている。そうなのだが、ここが今一つ、どうにもまだ自分の理想に達していないという思いがある」というようなことを教えてほしいわけです。
こういうことって、「ここが問題だ」と最初から言語化できるのであればいいのですが、なかなか顕在化しておらず、本人もわかっていないことが多いんです。
「この商品の使い心地ってどうですか?」
「これ、すごいいいですよ、満足してます」
ってパッと言ってしまうかもしれないんです。
なので、
「こちらをどんなふうに使ってますか?使い方を見せてください」
みたいに、その人の生活空間に入って行って、具体的に聴取する、エスノグラフィー(参与観察)という手法もあったりします。そうして
「あ、この商品は、まずここをパカっと開けるんです。で、自分の場合は妻が○△◇なので、この時点で一回折って使うんです、こんな感じで」
とか、教えてくださいます。
でもそれはメーカーサイドが意図していなかった使い方だったりするわけです。
こういうのは一人の方(家庭)にしっかりと寄り添わないと出てこないものなんです。
最初は「すごく良い。満足している」からスタートするのですが、いざ、じっくりとうかがうと、
「ここがね、必ず、うまくパカってならないんですよねぇ」
と、ポロッと不満が飛び出したりします。アンメット(未充足)の部分が浮かび上がってくるということが少なくないのです。これは、じっくり話していくからこそ浮かび上がる、滲み出てくるというものであり、ただ紙の質問紙に回答するスタイルではなかなか見つけられません。
調査のプロジェクトにおいては、そうやって浮かび上がってきたものこそが、次の商品開発のためのヒントとして抽出したい宝物たち、ということになります。
じっくり時間をかけて、その人に向き合う。
その人もそういう状況にならなければ普段意識すらしていない、自分がそんなことを感じていると自覚がない、捻り出そうとしても出てこないものだけど、‘対話’を通じて「自分はこんなことを思っていたんだ」と発見する感覚になっていくと思います。
まるで自分のライフスタイルの水先案内人のようになり、モデレーターと‘自分のライフスタイルを教えて上げる旅’に出て、自分のことを説明していく中で、改めて自分を見つめる・見つける、という感覚です。
「語る人」も「語りを聞く人」も、旅の同士なんです。
音声プラットフォームの可能性
話したからこそ見つけられるってことがあるんですよね。自分の声が自分で聞こえてくるから。
それを抽出して商品開発につなげるところまでがリサーチャーとしての仕事です。
私はその仕事に20数年、真摯に向き合ってきました。そして結果的に今となってはこの仕事をやってよかったなと、ここにはまっていて、ここが自分の居場所なんだなという、納得度が高い感覚を感じています。
今現在、「語りを聞く」という仕事上のスキルを、音声プラットフォームのstand.fm上で役に立たせることはできないかな、と思い始めているところです。
「語る」ことに向き合える、「語っている人の話を聞く」というこのstand.fmの環境そのものが、自分が普段大事にしていることと同じだと気付いたからかもしれません。
書かれた文字のSNSではなく、音声だからこその「語り」。コラボ収録とか、コラボライブとか、対話的なことが可能なSNSだからこその、「語る」ことに向き合えるんだと思い、自分の仕事のモードが何か使えるのかなと思ったのでした。
「語ること」への向き合い方
今、stand.fmで「100の質問に答えます」というものに、多くの方がトライされています。この「100の質問」というのも、自分を語ることの一つのやり方だと思ったんです。「語りたい」という気持ちの一つの表現方法というか。
自分の中から自分に対する問いがそんなにポンポン出てこない。だから定型で100の質問を用意してもらって、自分では問えなかったようなことまで尋ねてもらって、それに対して答えていく、そこに感じるおもしろさはあるんだと思うんですね。
「収録にあげる」というのも、あとで聞き返して自分に語りかけることになると思うんです。
「ああ、自分の声ってこんななんだな」って思ったり、「話し方こうなんだ」っていうのもあるし、「自分が思っていた(言いたかったテーマ)ことをちゃんと話せてる!」だったり、「もどかしい。あと2割ほど言い足りていない!自分はもっとあふれる思いを持ってるのに!」というようなこともあるでしょう。それに気付けることが効用だと思うんです。
その次が、「対話」だと思います。コラボ収録とか。ライブ配信でコメントをしてくださった方とのやりとりも対話だと思います。アウトプットしてそれに対するリアクションをしていただいて、それをまた受け取って…というインランクティブな状況になっていって、どんどん変化していく自分を確認できる、ということだと思います。
「語ること」「語りを聞くこと」の効用
「自分が語り、自分がそれを聞く」こと。つまり、stand.fm(音声プラットフォーム)自体が効用にあふれているということなのかもしれません。
「語ること」「語りを聞くこと」の効用って何だろうということにもなってくるわけですが、すごく端的に言えば、語ることでどんどん自分を好きになっていくことが積み上がっていくんじゃないかと思うんです。
自分の思いを言葉にし、それを自分が聴いて、より自分のことがわかるようになる。
「あ、自分はこんなふうに考えていたんだな」と理解できる。
頭の中にある時って、自分で聞こえないし、わかっているつもりだけど言語化しないと概念として取り出せてないことになるわけだから、認められないんですよね。何を考えているか、聞こえてこない。
「自分の中にあるものを取り出す」というのが一人語りの収録だとすると、100の質問は「自分の中に問いかけをフォーマットを用意してもらってそれに沿って語っていくことで自分を発見していく」ということになると思います。
だから段階があるということですね。一人語りの収録で語り、それを自分に確認したり、人にも聴いてもらう。その次の段階が100の質問のような形で外部のリソースを使って、自分の中にあるものを取り出す、まだ自分が見ていないものを外に出すことをし、それを自分で聞いたり、人に聴いてもらったりして、自分を好きになる要素が高まる。
「インタビュー」の可能性
コラボで話す時にノンテーマの時もあるでしょうけれど、冒頭でお話ししたように「インタビュー形式」として、一方が聞く人、一方が答える人、という役割を設定してやってみるとまた違いが見つかると思います。
交互にやってもいいと思います。インタビューする役割に一度なってみて、対話を進めると、それはそれで発見があると思います。自分はこの人に寄り添いたいとか、この人が話していることに耳を傾けて、「あ、もっと話したそうだ」「この話のもっと奥に行くと、もっと見えてきそうだ」というようなことを見つけていくと楽しいです。
「あ、その話、もうちょっと教えてほしいです」とか、「他にもいろいろある中で、なぜそれを選んだんですか」など、一つの問いに対する答えをさらにもっと深めていく、もしくは横に広げていく。これこそが対話の醍醐味だと思うんです。
聞かれる側、ぜひみなさんやってほしいです。自分のことが大好きになると思います。
話しながら、「私、これを聞かれてすごくウキウキしてる!」と思ったり、「ああ、こういう話ってすごくしたかったんだ」とか「自分は饒舌じゃないと思ってたけど、あれ、今すごくスムーズに話してる!」とか発見があったりします。
「この分野は詳しくないと思ってたのに、『そんなにお詳しいんですね』とか言ってくれて、案外自分は専門性高かったんだ。もっと突き詰めればもっとおもしろくなるのかな」と気付けたり。新しい扉が開くということもあります。
「語りを聞く側」の難しさとおもしろさ
インタビュアーをするとなると、それはものすごく頭のトレーニングになると思います。
インタビュアーには「自分を見て!」と言う要素は一切ありません。
役割としてはシンプル。その人をいかに光ってもらうか、その人が光りたいと思う方向にライトを照らしてあげることです。
その人自身が「こっちにはあまり光がない」と感じていたとしても、外から見たら見たら光にあふれていることに気付いていないだけということもあります。なので「あ、そっちも光ってますよ」と伝えたり。
言葉としては、「通時的」「共時的」というような言い方をしたりします。「通時的」というのは縦に掘り下げる。その人の時間軸をもうちょっと深く、思考の深さとか。「共時的」は横ですね。同時代的にどう考えているか、その人の考え方は、今この時代の中で、普遍的なものなのか、その人のユニークネスで成り立っているのか。というようなことを考えながら、個性を追求していく質問を立ててみる。
インタビューにはいろいろな技術が必要ではありますが、目の前でどんどん変化をとげていく方を見ていると、とってもワクワクします。
このように、「語りを聞くこと」「語ること」の効用は聞く側にも聞かれる側にもどちらにもあるので、どちらの役も体験して頂きたいなと思います。
そして、最終的には、専門的なスキルを持ったインタビュアーからインタビューを受けるという体験もぜひして頂きたいです。
新しい世界が広がり、刺激になり、自分を好きになる要素がすごく増えるんじゃないかなと思います。
今回は、段階的に「語ること」の効用をお伝えしました。
※この記事は、音声プラットフォームstand.fmの収録から文字起こししたものです。
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