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『シュバルツバルト -黒い森-』 (ラジオドラマ) w/脚本

’突然、ラジオドラマ’
『シュバルツバルトー黒い森-』
(『夢の国だから 』続編)
作・演出 Jidak

このラジオドラマは、2022年5月20日、Stand.fmにて配信されました。

『夢の国だから」は、別途noteにて公開しています。


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登場人物
森山 智子 (48歳)  絵本画家 
宮澤 映見 (39歳)  舞台企画、元夫の妹 
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出演:

森山智子役:うるさん


宮澤映見役: 海徳 桃代さん


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  『シュバルツバルトー黒い森-』(『夢の国だから 』続編)

   作・演出 Jidak


   SE 人のざわつき(書店)

智子 えーと、絵本・童話コーナーは、と…  あ、このあたりかな…
 
智子(M) 私、森山智子。絵本画家をしている。『風の音が聞こえたら』が今日発売されたので、どんな様子か出先のついでに大きな書店に寄ってみた
 
智子 あ、あったー! あ、大きな声出しちゃった、やば

智子(M)  この絵で、私は世界で最も権威ある「国際絵本原画コンクール」で最高の賞を獲ることができた。絵を始めて10年、遅いスタートと言われたが、ついに、ここまで、来れた。
 
   SE 本をめくる
 
智子 わぁ、天金なのか… サンプルからも手を入れたんだな。お、カバーの紙、オーダー通りにしてくれてる。これで色あせがだいぶおさえられるのよね。うんうん、背表紙とのつながりもバッチリ。さすが、夢の扉出版社だわ

   SE 足音
 
映見 智子…さん?
智子 え? あ、映見ちゃん! わぁ、久しぶり! すごい偶然!
 
智子(M) 映見ちゃん。2年前に離婚した誠司さんの妹…
 
映見 あ、クライアントさんがこの近くで。で、ふらっと寄ってみたら、なんと智子大先生に会えた!
智子 ちょっと言い方! やめてよ、もう
映見 いや、だってそうでしょ! 国際絵本原画コンクールでゴールデンユニコーン賞だもん! 快挙だよ。ほんとすごい! あ… すぐにお祝い言えなくて、ごめんなさい
智子 やだ、全然。逆に気使わせちゃってごめんね
映見 ね、授賞式いつ? ドイツだよね。私、メルヘン街道ぐらいしか知らない。あ、あと、クリスマスマーケットもあるか
智子 なんかね、コロナでいろいろ難しいらしくて、授賞式、一年延期になっちゃった。ドイツまでの道は遠いわ。いやぁ、それにしても会えて嬉しい! ね、映見ちゃん、時間ある? ちょっとお茶しない?
 
   SE カフェのざわめき
   SE コーヒーカップを置く音
 
智子(M) 誠司さんと別れた理由、映見ちゃんにきちんと話せてないままで、それがずっと心残りだった
 
智子 誠司さんに会ってる? 元気でやってるかな
映見 うん、時々LINEでやりとりしてるけど、元気そうだよ。海外出張が少なくなって、それで余裕ができてるみたい
智子 そうか。よかったね。新婚さんだからさ、時間に余裕があるのはいいね。歳はオールドだけど、新婚。あ、私が言うことじゃないか
映見 え? 兄は一人暮らしだけど
智子 うそ? 
 
智子(M) てっきり、一緒に住んでると思ってた。久美と。久美は私の親友で私の夫だった誠司さんの心を持って行ってしまった。今も親友なのかな。わからない。夢の国で、久美と香織と最後に会ってからもうすぐ1年。連絡もずっととってない
 
映見 やっぱり…  智子さん、そう思ってるって思ってた。久美さん、だよね?
智子 そっか、映見ちゃん、もう紹介されてるのね
映見 あ、違うの。半年ぐらい前に、用事で兄のマンションに行った時、ちょうど兄が帰ってくるところで。で、クルマで送ってもらってたんだけど、運転してたのが、久美さんだったの
智子 ふうん… 
映見 ほら、智子さん、前に写真見せてくれたじゃない。「夢の国デート行ってきた」って。だから、あ、この人なんか知ってるって思って、兄に聞いたら久美さんだって。でも、再婚するとか、そういう話にはなってないみたい。一緒に住んでもないし
智子 そうなんだ。てっきりそうかと
映見 いや、ほんとごめんなさい。私からも言わせて。「全部オレが悪い」とは言ってたけど、よりによって、智子さんの友達と…。ほんといい年して、バカ誠司が…
智子 あ、違うの。誠司さんだけが悪いんじゃないの。私のほうが先だったのよ、きっと
映見 ん? 何? 先って?
 
智子(M) 黒い森。私の心の中にそれがある。暗くて深くて、誰も入れない森。ここ数年、絵に向き合えば向き合うほど、その森はどんどん黒く大きく成長している

智子 たぶん、私の心が先にいなくなったの、誠司さんの前から。きついよね、子供はいない、若くもない。それなのに、妻はまったく自分を見ようとしない。だからしょうがないのよ。誠司さんが他に、その、何か自分を満たしてくれる場所を求めたってこと…

智子(M) 国際的な評価を受け、たくさんの人が私の絵を求めれば求めるほど、黒い森はますます勢いをつけ、暗く強く覆いかぶさるように、私を支配していく

映見 (笑って)うーん… だいぶ難しいぞ!
智子 (笑って)だよね。うまく言えてないね、だめだね
映見 で、どこに行ってしまったの? 
智子 ん?
映見 智子さんの心。どんな男?
智子 あ、違うのよ、男じゃないの。それだったらわかりやすかったね。ただ描きたいの。描く世界にだけ私がいる感じ。その気持ちがグラグラ煮えたぎって熱いのよ、怖いぐらいに。で、描く以外の生活が、なんかパズルがはまらないような、違和感だらけになってきて…

映見 わ… やば…
智子 ね、失格なのよ、生きることの
映見 え、違うよ。すごいよ。もうゾワっとしちゃって。アーティストなんだね、智子さんは。
智子 え? 
映見 私、仕事でクリエイターの方とご一緒することが多いんだけど、今、その人たちと一緒にいるって錯覚しちゃった。
智子 あれ、映見ちゃん、今、仕事って…
映見 あ、ちょっと前に転職して、今、舞台をプロデュースする会社の企画部にいるの
智子 へぇ、相変わらずたくましいな、映見ちゃん
映見 38歳、宮澤映見。仕事でいい波ぐいぐい来てます!
智子 (笑って)元気でよろしい
映見 あ、それでね、俳優さんとか映像作家さんとかとご一緒することが多いんだけど、みんな智子さんみたいで
智子 (笑って)私みたい?
映見 うん、見えてる世界が私たちと違うっていう…。アーティストフィルターっていうのかな、なんかそういうのがあるんだなって、いつも思ってる
智子 アーティストフィルター、か…

  SE  コーヒーカップ置く音

映見 モノを産み続ける覚悟ができてるんだね、智子さん。そして兄は不要になった…
智子 ちょっと、映見ちゃん、言い方
映見 あ、ひどいか、確かに。
智子 でもね、だから私が壊したの、きっと。それを映見ちゃんに言いたかったんだ。変わったのは私。あなたの兄は悪ではないのだよ、って
映見 そんなこと… でもありがとう、気にかけてくれて。っていうか、私、今ビリビリきちゃってて
智子 え、ビリビリ?
映見 うん、かっこいい、智子さん
智子 おかしいな。 私、自分のダークサイドをカミングアウトしたつもりだったんだけど
映見 え、そうだったの? あ、今企画中のイベントで、智子さんにスピーカーやってもらおうかなぁ
智子 やだ、いいよ、やめてよ。私はただ描くだけ
映見 (食い気味に)だめだめ。智子さんの覚悟を聞いて、ビリビリ来る人多いはずだから!
智子 ええ、そんなこと言われても
映見 (食い気味に)いいからいいから。 話、進めて正式にオファーするね。えっと、イベントのテーマはね 、「グローバル時代の多様性について」なんだけどね、
智子 えー、それ、私じゃなくない?
映見 え、何言ってんの! 智子さんだからいけるって!(FO)

(M) そう、私はずっとビリビリしてる。作品を描けば描くほど、そのビリビリは強くなる。熱も上がり、闇はますます深く暗くなり、私を虜にしていく。黒い森、シュバルツバルト。それは、本当の私の姿

(終わり)

★無断転載はご遠慮ください。
★使用・上演についてのご相談は別途お願いいたします。



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