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舞台 『底なし子の大冒険』 配信版の見どころ

この記事は、渋谷悠さんがStand.fmで2022年3月20日に配信された
「【番外編】舞台 『底なし子の大冒険』 配信版の見どころ」
を文字起こししたものです。
(渋谷悠さんの許諾を得て公開しています)

こんにちは。劇作家・映画監督の渋谷悠です。
『底なし子の大冒険』、配信版の見どころと題して、限定ラジオを配信します。
もう、何がなんでもこの映像版を見てほしい。作・演出の私渋谷悠がですね、
見どころとこだわりを熱く語るというものでございます。
僕がどれだけこの作品を愛しているかを、聞いてもらって、
もう可能な限り同じような気持ちになってもらいたい。
正直に告白してしまえば、そういうことです。
では、さっそく解説にいってみましょう。


1. 昼と夜の公演のいいとこどりをした幻の映像

まずはですね、これは幻の映像なんですね。
いや、もうなんかその、主宰がね、すげー盛ってるんじゃないかと思われるかもしれないですけども、ある意味実在しない映像なんですよ。
どういうことか。
これは、昼と夜の公演のいいとこどり、混ぜて作ったものなんです。
どうしても、芝居って生物だから、昼公演と夜公演でちょっとずつ噛んでたりするわけですよ。
で、ちょっとカメラが入っているということで、やっぱ意識しちゃう人とかもいて、いつもよりもなんなら噛んだんですね(笑)。それで昼夜を組み合わせていいところを、それはもちろん、ミスを消すだけではなく、ここがすごくうまくいくっていう日がやっぱりあるわけです。生物だから。
だから、この人物の笑い方がすごく昼公演はよくて、でもその受け取りのほうは夜の公演のほうがうまくいってるとか、そんなようなことが起きるわけですね。
それをつなげていったら、つぎはぎになっちゃうよと思うかもしれないんですけど、

いやいやいや、そこは。

僕を誰だと思ってるんですか。

映画も作っているんです。
だから、この演技に対してこっちのリアクションを使ったら、どういうふうな化学反応になるかというのを、ある程度見越して作っているんですね。

ところがね、これはね、音楽が入っているところはできないんですよ。
ずれちゃうから。
音楽が鳴ってて切り替えした時に、別の映像を使ってそこにも音楽を使っていると、そこで「合わない」ってことがバレちゃうから。
だから音楽が入っていないところだけ、そういう抜け道があって、やれたんです。ちなみに、「幻の映像」というのは、さらにいうと、劇場ではできなかった演出っていうのも入っているんです。
たとえばですね、これ観てくださった方はたぶん知っていると思うんですけど、王様というキャラクターが出てきます。
現実と童話の世界を行ったり来たりする作品なんですが、王様、現場ではマイクの数とかの問題で、実は王様には声を大きく出して張ってもらってるんですけど、映像版では、王様の声、あと、童話パートにちょこっと、声にリバーブ、つまりエコーですね。
「わっはっは」とか笑った時にエコーがかかるように編集上でやっているんです。だから実際劇場では起きていなかったことをやったりしています。


2.メインテーマの音楽を選んだ理由

それからですね、音関係でいうとね、もう熱いでしょ。もう息ももうアップアップで話してますけれども、音楽で言うと、例えば、皆さんちょっと覚えているかもしれない、来た方はね、メインテーマ。

(音楽を流す)

覚えているかな。
これはですね。すごく作品を表現してくれる音を探しました。ちょっと聞いてみましょうか。
旋律の繰り返しがポイントなんですね。
ここからです。

(音楽を聴く)

とまあこのように、
ものすごく繰り返しが強調されているメロディで、重なってるんですが、これはですね、僕がこの曲にピンときたのは、やっぱりテーマが虐待で、虐待っていうのはその性質上繰り返して行われるんですよね。
それを表現してくれているなとも思ったし、この登場人物が、この物語が終わったあとも、自分のそういった難しい、そしてつらい過去と一回向き合えばいいってものじゃないと思うんです。
これからも何度も向き合っていかなければならない。
それをすごく音楽にしてくれていたと思ったんですね。
なので、この音楽自体にもメロディの繰り返しがたくさんあるし、作品を通して、たぶん3回かけています。
そんなようなことで、音楽を通しても、作品のテーマを強調しています。


3. 気付いて欲しい演出

次はですね。気付いてほしいことがたくさんあるんですけど、この収録に一つ選ばせてもらうとしたら、’気付いてほしい絵’っていうのがあるんです。
どんなことかっていうと、
この話って、すごーくすごーく残酷にまとめてしまえば、
「手を伸ばすのがとっても怖い人が、最後に手を伸ばす、その瞬間で終わる」
という、そういう話なんです。
冒頭の一番最初、プロローグのシーンで、主人公の幼少期を象徴する‘底なし子’というキャラクターが、3回、自分の好きな人物に対して手を伸ばすんです。
だけども3回振り払われるところで、プロローグは終わるんです。
で、最後、この人物にとって好きな人に手を伸ばすってことは死ぬほど恐ろしいことです。
で、この作品というのは、別にこれを言ったところでネタバレにはならないんですけど、それができる瞬間で終わるんです。
で、実際にその手をつかんでもらえるってところは、もう見せてもいないですし、その前に照明を落としてもらっているんです。
なぜなら、伸ばす瞬間が最も勇気を振り絞った瞬間で、それ以上のピークは訪れないからです。


4. カメラ4台必要な理由

ええ、こんな感じの、僕の思いあふれるものを撮るとなった時に、この収録では、なんと4台のカメラを入れています。
これね、4台入れたかった理由というものがありまして。
もちろん、演劇を撮る人たちはちょっと知っているかもしれないんですけど、まともに撮ろうとしたら4台とか5台、どうしても必要になってきちゃうんです。
だから、最低4台入れたかったんですが、じゃ、どうしてそれが必要かっていうのを、ちょっと簡単にお話させてください。

劇場で見てる時って、人間が勝手に目がズームインしたりズームアウトしたりして、その時気持ちいいサイズ感で見てるんですよ。
あ、これは3人のシーンだから、ちょうど3人が収まるようなサイズ感で見たりとか、そういうふうになっているんです、人間の目が。
なので、それを表現するためには、全体を映している‘引き’の映像の1台、それから劇場の右と左側にカメラを1台ずつ置いて、人物、役者さんのアップを撮る専用のカメラ、これは‘寄り’のカメラっていうんですけど、これを2台入れていて、そしてグループ、さっき言ったような3人とか2人とか、言い合っているところで、これを全部まさかいちいち寄りを切り返すわけにはいかないようなサイズ感で見せたいのをグループショットって言うんですけど、このグループを抑える4台目のカメラがあります。
同時に、それだけだったら、自分が劇場にいる感覚と同じに過ぎないので、映像ならではの細かいところも見せたくて、結構ね、みんな見るとやってくれてんですよ。
稽古場だと僕は最前列に近いような位置で見てるから、口の動きとか目の動きとか指先の動きとか、そういった細かいところでいろいろお芝居してくれているんですが、この配信版では見れる!
最前列に座っていても見逃したかもしれない動きが、やってくれてるやつは可能なかぎり、僕、編集で拾ったので、それはね、ぜひ見て欲しいと思います。


5. 演出意図とは情報の順番

ま、そんなふうにして、この映像版はですね、演出意図がめちゃめちゃ反映されているんですね。
で、演出意図って何かって言ったら、ちょっとせっかくなので、音楽でも流しましょう。

(音楽流れる)

演出意図って、何かって言ったら、基本的には、
「どこをどの順番で見て欲しいか」
ってことなんです。

「ストーリーって何?」って聞かれた時に、非常にドライで、誰も感動してくれない定義があるんですけど、
「情報の順番だよ」
って僕は、特に教えている時、生徒さんから聞かれるとき、そう教えるんですが、それは演出でもおんなじで、それをいかに気持ちよく、混乱させず、でも、飽きさせず見せているか、そこが腕の見せどころなんです。
主に何を用いて、この順番、人の目線とかを誘導していくかっていうと、二つ要素があって、一つは人物とか物とかの動きですね。
人間の目は動くものをやっぱり追っかけて行くようになってます。
もう一つ、光です。
人間の目は明るいところを見るようになっています。
なので、この2つの要素を駆使して人の目線とか気持ちとか、観客のね、誘導しているんで、よかったらそこも注目してもらえたらと思います。

また、映像版のメリットはですね、これね、いや、当たり前なんだけれども、劇場ではできないよってのが、

巻き戻せる! 

もうね、この、この構成が、特に一度見てくれた人なんかは知ってると思うんですけど、構成が結構シンプルなように見えて入り組んでます。
混乱はさせない、だけれども入り組んでいます。
なので、2回とか3回とか楽しめるように僕は作りました。
構成、ほんと命がけです。
だから見ながらでもつながりが理解できる箇所もあれば、見終わって帰り道とかぼやっと考えていると、「あ!あそこつながってたんだ」ってわかるような場所もあるわけです。

たとえば。
王様の手下が、コン棒を出して、それに名前がわざわざついてるんだよね。
それを「宇宙の背骨」っていうふうに呼ぶんですけど、これなんでか最初わかんなくて、童話パートの中ではちょっと浮いた名前として出てくるはずなんです。
で、これ、あとで、もう結構あとなんですけど、現実パートで主人公の彼氏が同じフレーズを使っていることがわかるんです。
そうすると、「ああ、主人公は自分の彼氏がいつも言っているフレーズを自分が書いている童話の中に、コン棒の名前として入れたんだ」ということがわかるわけです。

でね、それだけじゃないんですよ。
これ、2回目見ると気付いてくれることっていうのが、どんなことかっていうと。自分の連載にそんなことを入れてしまうってことは、彼氏に読まれたら、
「俺のことをネタにしてるのか」
と普通だったら言われるわけですよね。
ところが主人公のはづきは、直感的に彼氏が自分の書いているものは読んでいないってことを知っていて、これからも読むことはないだろう、自分はそこまでこの人に気にされていないっていうことを知っているから、それをやるんですね。
ある意味気付いてほしいから入れる、何か言われたい、ぐらいの気持ちでやっていたかもしれないけど、だからこそ入っているんです。

そういった細かいところは、巻き戻してこそわかるような場所かなと思います。
まだまだ、まだまだ解説したいところはたくさんありますが、でもね、僕の作品に対する愛情は伝わったかなと思います。

6.観てくれた人へのお願い

最後に、公演の時にちょっと起きたことを話して終わりにしたいと思います。
作中、吸血鬼が言うセリフがあります。

「底なし子の血の味、それは生き残るために戦ってきた、強い意志の味」

というところがあるんですけれども。

それを実際に虐待経験のある観客の方が観た後、
「その瞬間に涙が止まらなくなった」
という話を聞きました。出演者の一人からね、聞いたんですけど。
つまりこの物語は、人によっては本当はフィクションじゃないんだなって感じました。
自分はフィクションとして作った。で、誰か、必要としている人に届けたいっていう気持ちも、もちろんありました。
でも、本当にこういうリアクションが起きるかどうかは、舞台の上で、作ってみるまで僕にはわからなかったことなんですけど、今は、確信を持って言えます。
この物語を必要としている人は、確実に世の中にいます。
もしね、この放送を聞いて、あるいは作品を観て、誰か届けたいと思ってくれる人がいたら、その手助けをしてほしいというふうに思います。

最後まで聞いてくれて本当にありがとうございます。
牧羊犬の作品、そして『底なし子の大冒険』、今後ともよろしくお願いします。

(終わり)

『底なし子の大冒険』動画配信、4月15日まで購入できます。
(4月22日まで視聴可能)


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