見出し画像

公共施設の断熱改修とファシリティマネジメント ~学校断熱ワークショップ後の展開を考える

NPO自治経営の三宅香織です。1月29日 米子市 「オンライン講演会 学校を断熱しよう!」が開催されました。今年の夏休みに小学校の断熱改修を実施するのを踏まえて、関係者含め全国の多くの視聴者が参加し、津山市での学校断熱ワークショップの内容について断熱二郎こと川口義洋(NPO自治経営FMアライアンスメンバー)が紹介し、エネまち社の断熱男こと竹内昌義氏からは日本における断熱の現状について説明がありました。地元の方々が主催し、米子市長やPTA連合会長からも前向きな取り組み宣言も出て、住宅断熱改修について全国的にも主導している鳥取県にある米子市ということで、今後に非常に期待がもてる内容でした。

川口が講演の中で、自治体の財政状況とFMについて話をしておりましたが、その内容については、私も自治経営のnoteにまとめております。

note 地方自治とFM(ファシリティマネジメント) 後編
https://note.com/jichi_keiei/n/nd3e672f7bea8?fbclid=IwAR1QISzsxT7g9rLdg7GuFy59AGs76Gz_GpE6hx33wYjciHZJpTkf8UoVMQo

今回は、公共施設の断熱改修を進めていくにあたっての具体的な課題をここで整理しておきたいと思います。

1 公共施設の断熱改修に必要な費用はいくら? 試算してみよう。

 小学校の断熱改修ワークショップでは、最上階の1部屋の天井と壁に断熱材を入れ、2重サッシの内窓をつけるという内容で、津山市(約40万円)や倉敷市(約70万円)で実施した際には、ほぼ材料代だけで事前準備と当日の労力はゼロ円ベースでした。これを行政の公共事業として発注して行うとすると、100万円以上かかります。天井断熱は最上階だけなので、まあ100万円かかるとしましょう。(かなり控えめな単価ですが)

倉敷市の場合、小学校の学級数 1,096 中学校の学級数 483 合計 1,576学級 なので、100万円×1576学級=15億7,600万円(職員室や特別教室は含まない)の予算が必要となります。

津山市の場合、小学校の学級数 283 中学校の学級数 113 合計 396学級 なので、100万円×396学級=3億9600万円となります。

これは、相当ハードルが高い金額で、すべての教室の断熱改修をワークショップ形式でやるというのも非現実的な感じです。米子市のセミナーでも触れてましたが、現在、ほとんどの自治体で1970年代に整備した多くの公共施設が更新時期を迎えており、劣化や老朽化が進んでいて、その修繕費用の捻出 ができずに困っているのに、こんなに学校ばかりに予算を投入するなんて考えられないわけです。

限られた予算でやるとなると必ず浮上するのが、「公平性」問題です。一部の学校だけではダメ、一部の学年だけではダメ、全部の児童生徒に平等に!!という話になると、全く検討が進まない状況になってしまいます。よくある話ではありますが。

【問い】市全体で、集約化や複合化、長寿命化で乗り切ることができるか、という議論をしているところで、自治体が定める「長寿命化計画」とか「立地適正化計画」とかとの整合性をとりながら断熱改修する予算がとれるのでしょうか?
【問い】改修してすぐ倒すことになったらもったいないのでは? 対象施設はあと何年使用する予定ですか? ⇒だから、全体の計画ができるまで保留にしますか?

​2 俯瞰して見る公共施設マネジメントの視点から学校断熱改修を考える

 公共建物だけでなく1970年代には、道路や橋梁、水道や下水など多くのインフラ整備を行っていて、これらの更新や修繕も問題となっています。最近、水道管や下水管がまちなかで破裂する事例もニュースなどで見られますよね。どこかの会議室で水漏れしてもたいしたニュースにはなりませんが、水道管が破裂すると住民生活に直結する「大事件」になるのです。

【問い】自治体での優先順位を考えると、学校断熱改修よりもインフラ整備の方が大事なのではないか?

 ここ数年で、全国の小中学校へのエアコン設置が進みましたね。どれくらいのお金がかかったんでしょうか?
エアコン設置費 150万円 年間電気代 90万円 全国の小中学校学級数 389,043校
とすると、全国のエアコン設置費は約6,000億円となるのですが、電気代が一年あたり約3500億円となります。15年くらいでエアコンを更新することになると思いますが、設置する金額よりも電気代の方が財政をジワジワ圧迫するのがわかります。設置費には国の補助金があっても、電気代などの維持管理費は当然自治体負担となっています。

そもそも小中学校へのエアコン設置は、熱中症で児童が死亡するという事件をきっかけに、学校の環境改善に対する声が大きくなり、国が一斉に設置するための補助金を措置したことで一気に進みました。確かに、小中学校の建物は、ペラペラの天井・壁・窓という劣悪な環境だったので、改善が一気に進んだことはとてもよかったと思います。

ほとんどの自治体が定めている「公共施設等総合管理計画」では、全体の公共施設の保有量を削減するために、複合化や集約化を進めようという内容になっています。人口減少社会を踏まえて、保有する全ての施設管理の最適化と環境改善のために行うファシリティマネジメントの観点から考えてみると、閉鎖するかもしれない施設に対しての投資は無駄になる可能性があります。

【問い】断熱改修してから、適切な能力のエアコンを設置すべきなのは、当たり前の話なのです。そうすれば、初期投資も電気代などの維持管理費も小さくできるはずです。なのにそうできなかったのはなぜでしょうか?

また、すべての公共建物における学校の占める割合は、ほとんどの自治体が約4割(床面積)となっています。ですが、公共建物には、公営住宅、保育園、病院、消防署、保健所、老人福祉施設などもあり、これらの施設は、学校に比べて稼働時間が長く、施設によっては24時間稼働しているものもあります。断熱改修で効果をあげようと考えるなら、稼働時間の長い施設の方が投資回収も早いということも考えるべきだと思います。

では、学校断熱改修は意味がないのか? というと、そうでもありません。倉敷市で行ったときには、参加された地域の工務店の方が、「参加した子どもたちにモノヅクリのカッコよさを伝えられて嬉しかった」と仰ってました。加えて、断熱効果を実感として体感し、エネルギーのことや地球環境について学び考え実践することのできるワークショップは、教育的効果と啓発という点では、非常に効果的な手法であることは確かです。断熱改修ワークショップは、CO2削減に向けて「断熱」が効果があるということを、住民と共通理解としてもつことができる貴重なイベントです。

3 学校断熱改修を進める手法を考える

せっかくワークショップをやっても、それが他の公共施設へも波及していかないのであれば、やっても仕方が無いのではないかとは思うものの、2050年にカーボンニュートラルを達成しないといけませんから、厳しくとも進めなくてはいけないはずです。ではどうするか。

(1)学校断熱ワークショップは、みんなでやれる ~KaBOOMを参考に
 アメリカで「KaBOOM(カブーム)」という貧困地域へ子どもたちのための公園を作るため、「全米のすべての子どもたちにバランスのとれた遊ぶ機会を」をビジョンに、1995年に設立されたNPO法人があります。2017年までの22年間で、全米で3000を超える公園の開設に貢献し、2021年現在までに、17,000以上のプレイスペース、150万人以上の人々が関わり、1,100万人以上の子供たちに遊び場を提供してきたという実績をもつ、公園エキスパート集団です。

詳細は、「公園づくりのレシピ公開、全米でムーブメントに」(公共R不動産のプロジェクトスタディ」)
https://www.realpublicestate.jp/post/kaboom/

学校断熱改修をこういった手法でどんどん拡げていくことができないでしょうか?1970年代に建設された学校の教室は、仕様がほとんど同じなので、たとえば地元産の木製サッシにポリカーボネート2枚挟んだ、低廉な価格の教室用の既製品をつくるとかもできるはずです。学校という場を、「教育の場」と捉えて、積極的にKaBOOMのようなやり方で、改修費用も抑えながら、環境教育とセットで展開することができないでしょうか?

(2)天井だけ一斉にやる
 断熱改修WSでは、①最上階の天井にグラスウールなどの断熱材を入れる ②壁に断熱材をいれる ③内窓をいれて3重サッシにする という3点セットで行います。この3点セットを全部の学校教室に適用することは、財政的に相当難しいことは、先に述べたとおりです。
 では、①の天井断熱を先行してやるのはどうですか? あるいは、③の内窓だけを先行してやるのはどうですか?

画像3

 現実的に公共施設の断熱改修を進めていくには、このように具体的なアプローチを考えることが大事で、そういう今後の展開を見据えながらワークショップをやるべきだと思うのです。学校断熱ワークショップをまず1部屋やってみて、効果を体感して、データを集めて、試算して、すべての学校や公共施設へどう展開するのかを「考える」ことが大事なんだと思います。もう、公も民もなく、みんなでやる手法を編み出し、学校断熱改修実施計画を作成し、資金調達を考えることは、まさに「ファシリティマネジメント」なのです!!

4 大事なことは「自分事」として行政課題を捉える住民や民間事業者の声

お金の話ばかりになりますが、先立つものがなければ、何もできないので大事なことです。
自治体の予算は、各担当課が要求を積み上げて、財政部局が全体を調整し、議会での承認を得ることでやっと使えるようになります。どんな小さな額の予算でも、この手続きを経ることになっています。「学校の断熱改修を拡げる」というのは、「未来の子どもたちのために!」ということなんでしょう。いいことをやろうとするにも、当然資金は必要で、他の福祉や教育、保健、観光、インフラなどの予算も必要な予算なので、全体を睨みながら考えなければいけません。

【問い】保育園や病院など、稼働時間の長いもっと効果が出る公共施設を優先すべきでは?
【問い】道路や橋梁、水道や下水道の維持管理の方が喫緊の課題なのではないのか?
【問い】教室をやるよりも、避難所となる体育館の断熱改修をやった方がいいのでは?

といったような意見もあることを踏まえて、議論を整理していく必要があります。
これは、自治体内のいろんな部署が連携して動くために必須な点でもあります。各部署が「うちの方がそちらより大変なんです」と主張し合っていたら、人口減少で税収が減って財政状況が悪化しているなかで、予算の「選択と集中」なんてできないのです。

なので、学校断熱ワークショップは、公共施設のCO2排出ゼロを達成するためのロードマップを作成するためのあくまで「きっかけ」であるということを考えて、先を見据えて、行政主導だけでもダメですし、民間主導だけでもダメで、連動できるよう公民連携事業として戦略的に実施することが肝要だと思います。

学校断熱改修ワークショップはいろんな多様な立場の方々が参加するようにして、必ず「学ぶ」時間をとって、しっかり広報や結果の共有を図ることが大事です。そして、データをとって試算をして、その後の展開について必ず皆で話し合いましょう。自治体財政に今まで何ら関心を持たなかった住民が「自分ごと」として考えて、断熱改修が体感的にも財政的にも効果があることを理解できる機会を作る貴重な事業にするべきだと思います。


5 NPO自治経営ができることとは

スクリーンショット 2022-02-04 11.10.20

NPO自治経営FMアライアンスは、自治体において公共施設マネジメントの推進、断熱改修ワークショップの企画実施、公共施設低炭素化推進指針策定などを担当した経験のあるメンバーで構成されたチームです。全国ほとんどの自治体がカーボンニュートラル達成に向けた公共施設マネジメントに悩んでいることと思いますが、FMアライアンスのメンバーがその知見を活かして、一緒に伴走してその自治体の実態に応じた対応策を考えていきたいと考えています。

断熱性能の詳細な測定や調査、改修工法の提案などについては、NPO自治経営FMアライアンスのパートナーとして、全国で多数のエコハウス施工実績のある(株)エネルギーまちづくり社が一緒に行うこともできます。

公共施設断熱改修について、何を、どこから、どのレベルまでやるべきなのか。それをどう行政組織内や議会のコンセンサスにもっていくのか。上記にあるそれぞれの【問い】に答えられるような議論を役所内で横串を通してする必要があるのです。職員研修や勉強会、実証実験の実施など、何をやるかは、自治体によって違いますので、そのあたりの組み立てについて、NPO法人自治経営がご相談に乗ることができると考えています。学校断熱ワークショップも「みんなでワイワイ楽しかったし、勉強になったわぁ」で終わらせるのではなく、戦略的な脱炭素化への道筋をつけるきっかけとしてやりたい!といった自治体と一緒にどんどん進めていきたい!というのが私たちFMアライアンスの願いです。

4月には、オンラインセミナーを開催する予定で、その中で、学校断熱WSでの仕込みのことや、その後の進め方などをお話して、個別相談会もしようかと考えています。NPO自治経営のサポーターやアライアンス会員になっていただくと、随時情報が得られますので、是非参加をご検討ください。

NPO法人自治経営HP https://www.jichikeiei.com/

また、エネルギーまちづくり社は、第5期!エネルギーまちづくり塾を開催しています。毎回20分程度のオンライン講座を受講して、いろいろ相談や意見交換ができる、手軽でわかりやすい講座となってますので、おススメです。
株式会社エネルギーまちづくり社 https://enemachi.com/354/

どうせやるなら前向きで楽しくやった方がいいので、そういう意味では、学校断熱ワークショップはとてもいい取り組みだと思います。全国でどんどん一斉多発的な展開となることを願っています。みんなで考えながらやりましょう!!