君 死に給ふ事 勿れ
かの与謝野晶子氏が 117年前の日露戦争の最中に発表した反戦の詩を思い出す。
この半月ほどの出来事が 117年前と何も変わっていない事が恐ろしい。
君 死に給ふ事 勿れ
あぁ 弟よ 君を泣く 君 死に給ふ事 勿れ
末に生まれし君なれば 親の情けは勝りしも
親は刃を握らせて 人を殺せと教えしや
人を殺して死ねよ とて 二十四まで 育てしや。
堺の街の 商き人の 老舗を誇る 主人にて
親の名を継ぐ 君なれば
君 死に給ふ事 勿れ
旅順の城は滅ぶとも 滅びずとても 何事ぞ
君は知らじな 商き人の 家の習いに無き事を
君 死に給ふ事 勿れ
すめらみことは 戦いに 御身づからは 出でまさね
互に人の血を流し 獣の道に死ねよとは
死ぬるを人の誉れとは 御身心の深ければ
元より如何で思されん
あぁ 弟よ 戦ひに
君 死に給ふ事 勿れ
過ぎにし秋を父君に 送れ給える母君は
嘆きの中に いたましく 我が子を召され 家を守り
安しと聞ける 大御代も 母の白髪は増さりゆく
暖簾の影に伏して泣く あえかに若き新妻を
君忘るるや 思へるや
十月も添はで別れたる 少女心を思いみよ
この世ひとりの君ならで
あぁ また誰を 頼むべき
君 死に給う事 勿れ
弟よ、死なないでおくれ。
末っ子の君は 私よりも両親に可愛がられて育ったわね。
その親が 世間と同じように 軍隊に入って戦って来いと言うけれど
戦争で死んで来いなんて 言えるはずがない。
だって24歳まで 大事に大事に育てたんだもの。
我が家は 堺の老舗で 貴方は親の名前を継ぐことになっている。
だから 弟よ、死なないでおくれ。
旅順の城が 滅んでも滅びなくても そんなこと関係ないのよ。
貴方は知っているかしら?
お国のために戦って死んで来いなんて 我が家の家訓になんぞ無いことを。
弟よ、死なないでおくれ。
いつの時代も 一番偉い人は 自ら戦いになど 出ては来ないものよ。
互いに殺し合い、鬼 悪魔になって 地獄へ堕ちろだなんて
そんな死に方が 名誉だなんて
本物の 崇高なリーダーならば 絶対に言わないわ。
そんな言葉が 心に浮かぶわけが無いわ。
弟よ、死なないでおくれ。
今は家業に懸命だけど 大事な我が子を召し上げられただけでなく
父さんを秋に亡くした 母さんは毎日 嘆いているの。
お偉い方の御代は安泰だと言われたけれど 母さんの白髪は増えるばかりよ。
暖簾の影で踞って泣いている 嫁いだばかりの奥さんのこと
貴方は 忘れてなど居ないでしょう?
10ヶ月も経たないうちに別れてしまった
まだ幼さの残る 彼女の心中を思いやってみなさいな。
この世にたった一人の 頼れる貴方が居なくなったら
彼女は どうして良いのか分からなくて きっと狂ってしまうでしょう。
あぁ だから 弟よ どうか どうか 死なないで。
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