そっと、「自分」を置いておく。
「わたしを見て!」とアピールするのが、すこぶる苦手だ。
そもそも、注目されるのが好きじゃない。
例えば同僚4人での集まりで「それで、松岡はどう思うの?」と話を振られ、みなの目がわたしを一斉に捉えるような時ですら、逃げ出したくなってしまう(たいていの場合は一言二言答えて、誰か別の人に話をパスし、一刻も早く注目から逃れようとする)。
そしてそれはプライベートの会話だけでなく、仕事においても同じ。
会社員だった頃は、さほど注目を浴びる場面がなかった。まだ新入社員だったし、経理部というお仕事柄、大勢の前に立ってプレゼンをしたり自分をアピールしたりする機会もなかったから、かもしれないけれど。
しかし、なんやかんやあって(主に心身の調子を崩して)会社を逃げるように辞め、勢いでフリーライターになってみると、状況はがらりと変わった。
フリーランスは、自分を知ってもらわないと仕事がもらえない働き方だ。
ひとつの仕事に複数の人が手を挙げるコンペがあったり、仕事をもらうために面談で「わたしを見て!選んで!」と自分をアピールしなければならなかったり。そんなのが日常茶飯事な「修羅の道」に、知らずに踏み込んでしまったのである。
ライターとして独立してから1年ぐらいは、そういう自分アピール競争の舞台で、必死に踊っていた。
自分からアプローチしてみたり、交流会的なものに参加して自己紹介をしてみたり、初めましてのクライアントさんとの面談で自分がやってきたことや想いを一生懸命話したり。
慣れないことを、慣れない自分で。でも、やらないとお仕事がもらえないし……という葛藤のなか、必死に。
どれだけやっても、自分をアピールすること / 注目されることは苦手なままだったのだけど、それ以外の方法も知らなかったし、生活のためにわたしは必死だった。
しかし、しばらくすると、少し風向きが変わる。
自分が何かアプローチしたわけではないのに、まったく知らない人からお仕事の依頼をもらうなんていうことが、ちらほら出てきたのだ。
そしてそういう人達とのやりとりは、なぜだか最初からわたしの基本情報を知ってくれていて、だからこそアピールなどをする必要もなく、スムーズに話が進むことが多かった。
不思議に思って「どうしてわたしに依頼してくれたんですか?」と、聞いてみる。
答えはさまざまだったけれど、まとめて要約すると「インターネット上にある情報であなたのことを知れたので、それで依頼したいなと思った」ということだった。
ブログやSNS、過去に書いた文章達が、自己紹介の代わりになったのだ。
「なるほど」と同時に「これだ」と思った。
そこからわたしは、自分が直接アピールしなくても、必要な人が見てくれれば良いのだという気持ちで、インターネット上に自己紹介を重ねていった。やってきたこと、思っていること、やりたいこと、好きなこと嫌いなこと。自分の生業である「文章」で、最新の自分を知ってもらえるように表現して、置いておく。
見たい人だけが、見てくれればいい。
この自己紹介方法は、わたしの気持ちをずいぶん軽くした。
たぶんわたしはこれまで自分の話をするときに「興味ないよね、おもしろいことも言えないし、お時間とってすみません」という気持ちが強かったのだと思う。
その点インターネット上にあるSNSやブログは、まさに見たい人がたどり着く「自分のスペース」だ。興味のある人だけが見てくれる分、気持ちがとても楽になった。
必要としている人に、見つけてもらえるように。
自分がどういう人か、知ってもらえるように。
それは仕事相手だけでなく、文章を読んでくれる人や、わたしに興味を持ってくれる人、つまりSNSで言えばフォロワーさんとか、そういう人たちにも同じ気持ちでいる。
わたしは「自分を見て!」とはアピールできないけれど、そっとここに「わたし」を置いておくので、見たい人は見て。そんな気持ち。
今はもうフリーライターではないのに、こんなことを書こうと思ったのは、最近何度か「どうやってお仕事や注文をもらっているんですか?」と聞かれたから。
今のわたしは、自分のお店である「じぶんジカン」を運営しているのだけれど、有名人でもないただの個人が、こんなにたくさん注文をもらえることや、時には大企業から数百冊という規模で発注があることを、不思議に思われることも多い。
また、例えば「こういうところにノートを置いてもらえたらな」と夢見ていた蔦屋書店に商品を置いてもらうことになったり、わたしがもともと好きだったクリエイターの古性のちさんとお仕事をすることになったり、他にも「こういう人 / ブランドとお仕事したいな」と思っている相手と、お仕事させてもらうことも多い。友人達にそういう話をすると、「どうやって?」と聞かれたりもする。
実は、前者の「どうやって注文をもらうか」も「どうやって仕事をしたい相手と仕事をするか」も、わたしの答えは一緒。
インターネット上に、たっぷりと自己紹介を置いておくこと。そして、必要としてくれる人に見つけてもらうこと。
じぶんジカンはどういうブランドで、何を大切にしていて、どういう人に届けたいか。商品達はそれぞれどんな性格なのか。そして運営者であるわたし達はどんな人間で、何を考え、どういうことをしているのか。
もちろん、自分が仕事をしたい相手や、商品を置いて欲しい場所に自らアピールする、つまり直接営業をするやり方もある。むしろそれが一般的だと思う。
でも、わたしは自分に関心がない(かもしれない)相手に対して自己アピールすることが、これでもか!というほど苦手で。できればやりたくない。というか、なるべく、やりたくない。
だから、そっと置いておく。
わたしはこういう人で、こういうことを考え、こんなことをしています。
「気になるぞ」と思ってくれた人だけ、良かったら見ていってね。
何かあったら、声をかけてね。
そんなスタンスで。
そうして、ここまで輪が大きく広がっているのだから、やはり自分にあったやり方は大事だな、なんて。
おわり
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運営しているブランド「じぶんジカン」では、自分と向きあう時間をつくるノートを販売しています。毎週月曜&金曜が発送日です。
エッセイ集も、ぜひ。のこり10冊ほどです!