柔らかくて形を変える器があった。
水を差す者はいなかったが、たまたまそこには水が落ちていたので、徐々に水で満たされていった。

ある時柔らかい器は考えた。
一体どこの誰かしらがここに水を落としているのか。彼からは水が落ちてくるところは見えるが、そもそもその水がどこから来ているのかは見えなかった。
器はそれを見たかった。どうしても見たかった。

神というものがいることを知り、髪に祈った。ところが髪というものは器の思いを聞き届けてはくれなかった。

器が絶望しかけた時、ある者の靴が飛んできて器を破壊した。
器はもう器ではなくなったが、土になじみ、風にさらわれ世界を渡り歩くことができた。

水は全て大地に沈んだかに見えたが、方方にちり、水は水で世界に広がった。

いつしか元器は世界を旅し、信じられないような光景を目にした。
ところが、ふと自分がそもそも水の出どころを見たかったことを思い出した。
そこで元器は元いた場所に戻り、自分がいた場所の上の方を見てみた。

そこには水道の蛇口があり、水がずっと流れていた。
自由を知った器四郎重実は、流れっぱなしの水の蛇口を閉め、もともと自分がいた場所に戻りただずんだ。

そこにいることに変わりはなかったが、もと器は外に行きたいとは思わず、ここにいたいと思った。

かつて器は終生そこにいたそうな。

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