勇敢な女性の思い出
朝の満員電車。
中学・高校の頃、3本電車を乗り継いで学校に通っていた。
そのうちの1本は、もう自分のバッグがどこにあるのかわからない、なんだかもはや浮いてるかもしれない、っていう状態になるくらいの混雑具合だった。
きっと痴漢にあっていた。何度も。
だけど、混んでいるから、意図的じゃないのかもしれない。
大声を出すなんてできないし、その電車はたった3駅しか乗らなかったから、気のせいだと思うことにして、やり過ごしていた。
それについては、いまでも、何が正解かわからない。
もし自分の娘が同じような目に遭ったら、声を上げなさいと言いたい気持ちと、それで反撃にあったらどうしようという気持ちがないまぜだ。
そもそも、そんなことが起きることが許せないことではあるのだが。
これは、この先も考え続けていきたいと思っている。
3本のうちの一本は、ギュウギュウというほどではなく、私は始発駅からの乗車だったので、毎朝座っていた。
中学1年生のある日、ちょっと不審な男性が車内を歩いてきて、私の前で止まった。おもむろにズボンをおろして、制服のスカートから見える私の膝に、自分の膝を擦り合わせてきた。
私はびっくりして息をのんだ。
前をふさがれて、立ち上がって逃げるということもできず(いや、できたはずだけど、動けなかったんだと思う。)、どのくらいの時間だったかわからないけれど、椅子に深く座るようにあとずさりしながら、俯いて耐えていた。
まわりの大人たちは、寝ていたり、見て見ぬふりをしていたり、そもそも気づいていなかったり。
どうしよう…!!
そう思ったとき、「スパーン!」と音がした。
「嫌がってるじゃないですか!」
顔を上げると、斜め前のつり革につかまって新聞を読んでいた30歳前後の女性が、その新聞を丸めて、男性の頭を見事にスパーンとやったのだ。
男性はいそいそと降車した。
まもなく私の降りる駅がきて、女性に一礼して電車を降りた。
かっこよかったな…
本来であれば、心に傷を負ったであろうこの件は、私にとっては、新聞を読んでいたOLさんがそれを丸めてやっつけた!という、勇敢な女性の思い出にすり替わった。
いつかそういう場面に出くわしたら、私もああいう人になりたいな、と思った。
とはいえ、そういったことが起きたことは20年以上経った今でもモヤモヤしているし、自分はどうするのが正解だったのかとか、いざ自分の娘に置き換えた時にどうするように伝えるのが良いのかとか、いまも答えは見つかっていない。
しえる(36歳・二女の母)