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VUCA :地球課題の壁がイノベーター達を突き動かす
今回はVUCAとイノベーションについて書いてみます。
VUCAというワードは、少し前は結構頻繁に使われていたのですが、現在はすでにあまり使われなくなってきてしまっています。VUCAは 造語です。
・Volatility=不安定性
・Uncertainly=不確実性
・Complexity=複雑性
・Ambiguity=曖昧性
の4つの言葉の頭文字をとったものです。
とにかく先がわからない世界になっていることを象徴する言葉ですね。
では、なぜVUCAの時代になっているのでしょうか?
1.過去60年変化
以下に、1960年代~現在におけるさまざまな分野で起きてきた変化をまとめてみました。皆様も生まれた世代の差はあるにせよ、どこかの時点から、これらの変化を実際体験してきているはずですよね。そして我々は、現在その変化の先端に位置し、便利な機器やサービスを普通に利用しています。しかしながら、改めて60年を俯瞰すると、その変化のスピードと大きさに驚かされます。SF小説や漫画で描かれた未来の姿が次々当たり前の生活に取り込まれてきました。もし、銀河鉄道の夜を書いた宮沢賢治が、今この時代の人だったら、いったいどんな小説を書くのでしょう。
多くの人々にとっても身近な機器である電話に着目しても、1960年初頭は交換手に連絡し電話番号を伝えてつながる電話が実際に使われていましたが、現在は誰でもスマートフォンを持っているのが当たり前になってきていて、むしろ持っていない方はいないといった前提で公共機関のサービスなども設定・運用されつつあります。私は昭和生まれの人間ですが、正直当時この状況は全く見えていませんでした。想像を絶する変化です。
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これらの変化に見て取れるもう一つの特徴としては、もともと別々のカテゴリであった電話と音楽機器がスマートフォンの出現で一つのカテゴリになってしまっています。いわゆるボーダーレスです。スマートフォンによって、破壊されたカテゴリは音楽機器にとどまらず、カメラ・カーナビゲーション・電子辞書・地図等々多岐にわたっています。今や、スマートフォンは既に単なる電話ではなく、あらゆるサービスのゲートウェイとしての存在となっています。
更に、改めて変化全体を俯瞰してみると、一つのカテゴリーで開発された技術が、他の技術と融合し新たな世界を作り上げるという典型的なイノベーションの構図も見えてきます。ゲーミングPC用のグラフィック処理向けに開発された半導体GPUとコンピューター技術、クラウド技術、機械学習アルゴリズム開発などが組み合わさり、第3次AIブームにつながっているのです。生成AIはすでに身近なものとなってきていますよね。そして、そのAI技術は国家間におけるグローバルな課題となってきている状況です。
では、この変化は誰によって引き起こされてきたのでしょうか?
2.イノベーションを主導するイノベーター達
fig.1上の製品や企業ネームから浮かび上がってくるのは、著名なイノベーター達です。ビルゲイツ、スティーブジョブス、ジェン・スン・ファン、イーロン・マスク、・・・数多くのイノベーターが新しい世界を作ってきています。イーロン・マスクなどに至っては、政治の世界に積極的に踏み込む勢いです。
これ等のイノベーターが、この変化のイニシアティブをとり世界を変えてきたのです。時流をよみテクノロジーの進化に注目し「知」と「知」を結び付けることによって能動的に化学変化を起こし、世界を変えてきているのがイノベーターです。
もともと、イノベーションという言葉を生み出したヨゼフ・シュンペーターは、イノベーションを『新結合』と呼びました。そして「イノベーションは新しい結合によって生産者側から生みだされる」と定義しています。イニシアティブは生産者側にあるので、前述のイノベーターが世界を変えてきたといっても過言ではないですね。
そして今、これからの世界を変えていこうとするイノベーターの卵達が著名なイノベータの後を追って増殖しつづけていてます。あらゆるところで、様々なチャレンジが行われていて、正直どこから何が生まれてくるのか全く読めない状態ですね。こういった事情も、VUCAの主要因の一つですね。
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3.世界のメガトレンド
では、イノベーターを目指し動いている起業家たちは何を目的としているのでしょうか?その多くは、「世界」にフォーカスし、そこにある問題の解決に取り組んでいます。客観的数字などから世界の向かいつつある方向を読み解くと、そこにはメガトレンドというもの予測値があります。
fig.3に、世界のメガトレンドとそこで見えてきている問題の図を記載しました。あくまで代表的なものをあげているだけで、現実にはもっとたくさんの課題が存在しているでしょう。
世界が『SDGs』を掲げ、課題解決に向けて動き出してはいる事実はあるのですが、実際のところ大国の足並みもそろわず、正直解決に向かって順調に進んでいるとは言い難い状態ですよね。
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世界はこれまで人間が行ってきたイノベーションの数々によって便利になった一方、そこから発生した様々な変化によって、予想外に地球環境を変えてきてしまっています。
第一次産業革命後に始まった地球温暖化の問題も世界生態系に影響を及ぼすプラスティック問題も、当初は世界を便利にするためのもので、それによる素晴らしい成果が得られた一方で当初は見えていなかった影響が起こってきているのです。それらは地球に存在するすべての生き物に垣根なく影響を及ぼします。
更には、インターネットやSNSによって情報の伝達スピードが高速化し、世界中どこの情報であっても音や写真・動画によって数時間で手元に届き、個人個人の感情や考え方に影響を及ぼすようになりました。一方で、これ等を使って人々の心を動かすという印象操作という邪悪な手段も生まれ、正しい情報の見極めも益々難しくなってきています。
また、航空機などの交通手段の発達により人の移動も増えCovit19のようなパンデミックが容易に起こり、人々の命にとどまらずあらゆる産業に影響を与えることも浮き彫りとなりました。
fig.4にも示しましたが、メガトレンドは「人口構成」・「都市化」・「気候/環境」といった数値で予測できる傾向と、「国家権力のシフト」・「技術革新」、あるいはパンデミックや地政学リスクなどの予測しがたい要因、そして人々の意識や感情の変化が重なりあって、全く先の予測がつかない状況に陥っています。
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4.イノベーションは一人では起こせない
確かに、今は一寸先がよめないVUCAの時代です。しかしながら我々は、「VUCAだから仕方がない」とあきらめて、この先生まれてくる命や地球環境に対する責任を放棄してはいけないと考えます。
我々は地球上の生物の代表であり、これまで起こしてきた変化や、これからバトンを渡すことになる命に対する責任があるのです。だからこそ、受け身で待つのではなく、行動を起こさなければいけないはずです。
技術革新とイノベーションが、この60年でこれだけの変化を生み出したのであれば、我々人類が、知恵とそれらを組み合わせたイノベーションで解決することは不可能ではないはずです。
現在、多くの起業家がこれらの課題解決に向けたイノベーションにチャレンジしています。イノベーションは一人では起こせません。必ずともに取り組むステークホルダーが必要です。最近はクラウドファンディングなどによって、直接的に個人でサポートすることも可能となってきています。
また顧客として『目先の利便性だけでなく「地球環境課題解決への効果」なども踏まえてイノベーションを選択する』といった高いリテラシーと意識を持つことは大変重要です。
地球規模の課題を、他人事ではなく一人一人が自分事として認識し、イノベーターから提案されている製品やサービスを適正な判断基準をもって選択していくことが、次の命そしてあらゆる生物への責任を果たすことに繋がるのです。