パラレルエコノミーを作ろう
来年、深掘りしてみたいなというテーマが見つかったのでご紹介。
そのテーマというのは「パラレルエコノミー」。
これは、私が作った造語です。
この記事は、私が所属しているコミュニティ、ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会(通称:ノンプロ研)の『ノンプロ研 Advent Calendar 2023』 21日目の記事です。
インスピレーション
このコンセプトのインスピレーションはこの書籍でした。
この書籍で紹介されている、スペインの「雇用なしで生きる」ムーブメントは、2008年の金融危機以降、高失業率に苦しむスペインで、従来の雇用関係に依存しない生き方や働き方を模索する動きです。
スペインでは2000年代初頭より住宅価格の高騰が続いており、住宅ローン残高も急増していました。金融危機以降、職を失った人々を中心に、返済が困難になる人も増え、住宅ローン問題が深刻化しました。
職と住を同時に失った人々が、従来の社会や経済のルールに疑問を抱き、オルタナティヴな生き方として生まれたのが「雇用なしで生きる」ムーブメントです。
雇用なしで生きる
雇用なしで生きるをそのまま解釈すると、会社員ではなく、フリーランスで働こう!みたいなコンセプトに聞こえます。
ただご存知の通り、フリーランスは収入も不安定ですし、身分保証も脆弱。さらには将来の社会保障にも不安があります。単純に会社員を辞めて、フリーランスになろうと言う話では無いはずです。
スペインの例で言うと、生きるという基盤を会社や今の資本主義社会に頼りすぎないで生きようと言うコンセプトだと思いました。
ここでふと湧き上がったのが、今日本でも話題になりはじめた「パラレルキャリア」との関係性です。
サブからパラレルへ
これは私が勝手に考えている定義ですが、単に副業といった場合は「サブワーク」というイメージで、収入をはじめ何かを補完する存在です。イメージとしては点のような存在。
これが「パラレルワーク」となると本業の仕事と並行して存在する意義のある仕事、次に繋がる仕事となります。点から線の存在へ。
となると「パラレルキャリア」は「パラレルワーク」の上位概念のはずで、自分にとって意義のある仕事が連なっていき、人生を形作るもの。つまり本業で形成された生活やコミュニティ、アイデンティティとは別の人生を持つことだと思います。線から面の存在へ。
このパラレルキャリアは、もともとは、経営学者のピーター・ドラッカーさんが提唱された概念とのことで、「パラレルキャリアとは、もう一つの世界をもう一つ持つことである。」とおっしゃっています。
パラレルキャリアでも足りないかも
パラレルキャリアが、メインの人生とは別にもう一つの人生を持っておくこととすると、これは人生をバックアップしてるんだなと。これはとても重要な人生戦略だと思いますし、多くの人が、パラレルキャリアに関心を持ち、育んでいくことで、幸せになれる確率が上がると思います。
ただ、スペインの例を読んでふと気づいたのが、「パラレルキャリアだけでは足りないかも」ということです。
パラレルキャリアによって、もう一つの世界、もう一つの人生を持つことができたとしても、生きるための基盤となる社会のルールには従わなければなりません。
自分の人生の外で起こったことで、自分の生活が大きく影響受けるということは、ある程度の頻度で発生します。
そういった際に、ひとつのルール、ひとつの社会に依存していると、パラレルキャリアもバックアップとして機能しないかもしれません。
パラレルキャリアをアップデートしたもの、面を立体にする概念が必要だと思ったのです。
それが「パラレルエコノミー」です。
現代社会のルール
勝手に現代社会のルールを言語化すると「生きるために必要なものをお金(価値)を介して交換する社会」だと思います。
お金が便利に使われているのは、個々人が生み出した価値を一時保存することができる点とその保存された価値が交換可能であるという信頼が社会の参加者で共有されているからだと思っています。
お金の本質は何か…みたいな話は、今日の本題ではないので避けますが、「お金を介した価値の保存とその信頼」が、現代社会の基盤と仮定して、この後を続けます。
お金の価値とその信頼が揺らぐ時
問題もあるけれど、便利でもあるし、多くの状況で資本主義は機能しています。しかし、稀にこの基盤が揺さぶられる出来事が起きます。
1929年の世界恐慌
1973年のオイルショック
1987年の世界株価大暴落
2001年の9.11同時テロ
2008年のリーマンショック
2011年の東日本大震災
2020年の新型コロナウイルス感染症の流行
加えて戦争や政変、革命なども「価値の保存と交換の信頼」を揺るがす出来事です。
前述したスペインの出来事は、まさに、「真面目に働いてきた人々が、自分たちの人生の外で起こった出来事で生活が脅かされた」例となりました。
こうした、予測不可能であり、非常に大きなインパクトをもたらす事象のことを、ナシーム・ニコラス・タレブは、ブラックスワンと呼びました。
ブラックスワンは、いったん起きてしまうと、あたかもそれらしい説明がなされ、最初からわかっていたような気にさせられます。しかし、実際には、ブラックスワンは予測不可能であり、事後的にしか説明できないものです。
パラレルエコノミーを準備する
経済基盤が脅かされるような出来事が起こった時、パラレルキャリアは、リスクヘッジになるでしょう。
ただ、そのパラレルキャリアも「生きるために必要なものをお金(価値)を介して交換する社会」だけを前提に形作られているとしたら、それまでの生活が脅かされる事態も起こり得るでしょう。
そこで、キャリアや人生のバックアップだけでなく、社会構造のバックアップを用意できないかと考えたのが「パラレルエコノミー」です。
「生きるために必要なものをお金(価値)を介して交換する社会」のオルタナティヴである「生きるために必要なものを別の価値を介して交換する社会」を準備できれば、個々人の人生で最も重要である幸せな暮らしを守れるのではという仮説です。
価値の保存と信頼
パラレルエコノミーの課題の一つは、個人が生み出す価値が保存できるものでなければならない点です。
ありがちな例ですが、釣り人が釣った魚は、魚が腐ってしまう前に何かと交換できなければ、その価値が失われます。
腐らないモノとモノの交換であっても、多くの人が欲しがるモノとニッチなニーズのモノの交換はなかなか成立しないでしょう。
やはりお金のような「何か」で価値を保存する必要があります。そして、そのお金とは別の「何か」での価値交換を、参加者が同意するという信頼関係が必要です。
平常時は、お金を使うのが便利なので、こんなことを考える必要はありません。ただ、他の手段を事前に用意しておかないと、また信頼関係を醸成しておかないと、危機が起こった時に突然切り替えるなんてことはできないと思います。
先のスペインの例では、この価値保存の手段として、時間銀行や地域通貨が紹介されていました。
これらはどれも、信頼関係の醸成までに時間がかかる取り組みだと思います。だからこそ、普段から準備しておかないといけないなとも思うのです。
パラレルエコノミーとは何か?
お金を介した経済社会とは別に用意しておくもの、それが「パラレルエコノミー」です。
それはコミュニティでもあります。
人間は一人では生きていけません。幸せに生きるためにはあまりにも多くの財やサービスが必要です。
誰かの人生が別の誰かの人生と交錯して、私たちは生きています。これをパラレル(並列)化しておこうという取り組みです。
パラレルキャリア(自分のもうひとつの人生)という面を他の人のパラレルキャリアと重ね合わせて、立体にすれば、既存社会が危機に瀕した時も嵐が過ぎ去るのを耐えることができるのではと思っています。