ネパールにおける農業スタートアップ
こんにちは。ネパールで農業関係の仕事をしています。
ネパールはスタバもなければマクドナルドもない、外国企業にとってはとても魅力がない国のようです。
しかし、そんなネパールでもテクノロジーの波は熱く、配車・決済・ネットショッピングはカトマンズにいれば問題なくできます。
今回は、エンジニアが人気職種であり、国民の6割以上が農業に従事していると言われているネパールにおける農業スタートアップについて英文記事を参考にまとめてみました。
スタートアップ一覧
Agri Clear
ブロックチェーン技術を利用して農産物のサプライチェーンを追跡可能にするサービスを展開しているようです。
日本ですと個人の農家さんや生産法人がQRを載せているケースはありますが、それを1つの会社がプラットフォームとして展開しているケースはないのではないでしょうか。
日本の場合、農産物市場の多くを占めるJA出荷の農産物においては、JA自体が農薬の使用などの栽培履歴を管理しており、栽培方法等を誰も追跡できないネパールの農業とはそのあたりに違いがあるため、ニーズがあるのかもしれません。
GhamPower Nepal
Ghamというのはネパール語で日光のことです。
平たく言うと、太陽光パネルの設置会社ですが地方での電力供給に力を入れ、ソーラー発電で得た電力を使うことで水を汲み上げ灌水の加減に合わせて放出量を調節、設置デバイスやアプリを通じた農業技術支援などがユニークな点となっています。
ネパールでは電力供給網が脆弱ということで太陽光パネルは地方でもよく見かけますが、ソーラーパネルをモニターにすることで現地の環境情報をデータ化し農業に活かすというのは良いアイデアだなと感じました。
2024年2月現在でアプリは10000人超にダウンロードされているようで、試しにダウンロードしてみましたがアカウント登録の際にSMS認証がうまくいかずアプリの中身を見ることはできませんでした。
Smart Krishi nepal
いわゆる生産支援アプリです。
アプリのダウンロード数は10万を超えているようでGoogle Business Stories 2019 Finalistのようです。Instagramアカウントも有名です。
UIは全くもって褒められたものではありませんが、サービスが手厚そうに見えるため一定の支持を集めているのかもしれません。
Instagramでは自分もよく見かけるため参考にしたいサービスの一つです。
FreshKTM
Nepal’s first agritech start-upを謳っているこの企業はネパール国内で青果の集荷・販売拠点と輸送車両を持ち、産地から消費地までの流通網を作っています。
青果店も運営しており、カトマンズではよく見かけます。
ネパールでの農産物の市場経由率は分かりませんが、農家さんにとって販売の選択肢が増えることはいいことだと思うので広がって欲しいと思いますし、ネパールの農業の最大の課題は流通にあると考えているので、そこにアプローチしていることも素晴らしいと思います。
個人的に日本の中央卸売市場のような仕組みをネパールでも作りたいと考えているのでこの企業から学ぶことは多そうです。
またオーナーは日本への留学経験があるそうで、日本の技術を一部使っていると言っていますがどの辺で使っているのか詳しく知りたいため、今度コンタクトをとってみようと思っています。
aQysta
水力発電によるポンプを販売しているようで、インド、マラウイ、オランダに拠点があります。
創業者がネパール人ではないため、ネパールは事業拠点の1つなのだと予想されます。
ネパールは水力発電に国を挙げて取り組んでいるため、相性が良いのかもしれません。
Pathway Technologies
こちらも生産支援アプリですが、前出のSmart Krishiよりもデータとしての情報量が豊富そうで、より科学的なアプローチが期待できます。
自社アプリ以外の開発やデータ収集もサービスとして提供しているため、受託開発も行なっているかもしれません。
Ficus Biotech
組織培養技術を用いた有機桐・竹のメーカーと書いてありますが、Webサイトがないため実態はよく分かりません。(リンク先はTiktokです)
その名の通り、バイオテックでネパールの農業の可能性を拡げていく企業なのだと思います。
Unique Seed Company
こちらもWebサイトはないため詳細は定かではありませんが、F1種子を生産しているようです。
私の持っている情報ではF1種子を開発するメーカーはネパールには数社しかないため、この会社がそれにあたるのか、それともどこかのメーカーの採種拠点となっているだけなのか真偽は定かではありません。
温暖化の影響で世界的に採種地が北上していることや山間の地形により目的とする作物の交配がしやすいことはネパールでの採種を検討する上でメリットとなり得ます。
DV Excellus
KHETIという産直サービスを展開しています。
アプリはToBとToCがあるようでToBの方がダウンロードされていますが、エラーが起きてしまいアカウント登録はできませんでした(使いやすそうなUIで初めての英語版アプリでした)
ただユーザー企業を見ていると有名な飲食店もあったため意外と広まっているのかもしれません。(一方でネパールでも仲卸や小売店が納め屋として機能しているという声も聞きます)
日本との比較
カテゴライズしてみた
ここまでネパールの農業スタートアップを書き出しました。
カオスマップが作れるほどの量ではなく、まとめると以下のようなイメージになります。
ここで日本の農業スタートアップのカオスマップと見比べると、ネパールにはまだないジャンルが見えてきます。
(「農業インフラ開発」は逆に日本にはないと思います)
メディア
農業関係のメディアというと日本では新聞・雑誌・ウェブメディアなどかなり幅広くありますが、ネパールではそこまで聞いたことがありません。
Smart KrishiのSNSアカウントはメディアの役割を果たしていると言っても良いかもしれませんが、日本のような網羅性が高いコンテンツとは言い難く、消費者をターゲットとしたようなものは特に見かけません。
スマホを使う層が日本より若年であることが予想されるのでSNSを媒体とした方が良さそうです。
移住・就農サポート
そもそも新規就農という現象が途上国ではあまりないため、こういったサービスがないことは当たり前かなと思います。
人材雇用
ネパールでは一般的な就活においても日本のようなESを書いて、面接をして。。というプロセスは浸透していないため、農村部ではそこをIT化して行おうという風にはならないと思います。また地方では人々の地縁的なつながりが強いため、インターネットを凌ぐ強力なネットワークがあるような気もします。
ただ、地方では人材不足の声もあるため、いつしか必要になるかもしれません。
圃場・作業・環境データ管理
生産支援アプリについてはアプリ側から利用者への情報提供がある一方で、農家さんが自らアクションを起こしてデータを溜めていくようなサービスはなさそうでした。
日本よりも農家さんの年齢が若いネパールでは、データの意義を理解してもらえればニーズがあるかもしれません。
作業簡略化・自動化
この辺りは金銭的な投資が必要なので、機械化が進んでいないネパールの農業界ではまだ受け入れられないかもしれません。
画像診断
これは結構可能性があるのではないかと直感的に思いました。
ネパールでも病害虫は発生しますし、農薬も使います。
しかし、農薬パッケージの情報はかなり見づらいため、防除の方法と画像診断を組み合わせることができれば拡がるような気がします。
また、サグリ株式会社がインドで展開しているように衛星データを用いた圃場診断を行えば行政を顧客にでき、農家個人を顧客とするよりもやりやすいかもしれません。
貸し農園
最近は外国人だけでなくネパール人でもグリーンツーリズムを楽しむようになっていたり、ガーデニングをしたりしています。
ただ、土地を借りてまで行うかどうかは微妙で、こう言ったサービスが普及するには農業がもっと都会人から離れた存在になる必要がありそうです。
会計ソフト
農業に限らず、一般的なビジネスにおいてもネパールの会計ルールに則ったサービスがあるのかどうかは不明です。(エクセルを使っているイメージ)
ネパールではAuditor(監査人)が決算書類作成などを行い、その度に賄賂や不正が発生しているため、ここをITツールで解決することは色々とハードそうです。
資材調達
コンシューマー向けのオンラインショップはありますが、業者、特に農業者向けの資材をオンラインで調達することはできません。
オンラインショッピングに対する信頼性がないことや地方への配送コストが高いことが問題だと思われますが、JAの購買事業のような共同購入や予約注文の仕組みを揃えることができれば可能かもしれません。
農業スタートアップにありそうな課題
最後にネパールの農業スタートアップにありそうな課題を考えてみます。
ユーザーのITリテラシー
まず一番に考えられるのはこれです。
そもそもスマホを持っていない人や識字能力がない人も地方にはたくさんいます。
そしてITリテラシーのなさはデータ化の意義への無理解などとも大きく関連しています。
課金してくれない
ネパールの農家さんは種子については自家採取から購入へ切り替わりつつありますが、まだまだ財布の紐は固いです。
そのため農家さん個人個人を顧客とすると全く歯がたたないと思うので、自治体の補助金などを活用できればいいのですが、そういった制度もネパールにはあまりないため、消費サイドを巻き込む、広告収入モデル、抱き合わせ商品ありきにする、JICA等を活用する必要があるかもしれません。
規格等の概念がない
ネパールには野菜などの規格の概念がありません。
そのため農産物の出荷や取引データを詳細に取ることが難しく、結果的に技術支援や消費サイドとのマッチングがうまくいかない可能性があります。
日本でも産地と消費地や産地によって規格がバラバラなためこの辺りのデータ化の難しさがありますが、食文化が高度化・食の外部化が進めば必ず起こりそうな問題な気がします。
インフラ不足
これは途上国ならではかもしれませんが、電波・電気・水・道などが脆弱なことは特に農村部ではよくあります。
テクノロジーは安定したインフラありきなので、そういった意味では「農業インフラ開発」を軸にしたサービスはスイッチングコストが高く、より農家さんのコアに入り込めるかもしれません。
与信判断ができない
口座を持たない人がいることを考えると、購買系の事業はこの辺りが課題となりそうです。
現金取引を原則とすることや、金銭以外の計測可能な何か(作物の生産量など)で判断する等の必要がありそうです。
最後に
上記をまとめると、テクノロジー系の農業スタートアップでは「農業インフラ開発を軸にした画像診断」サービスが一番狙い目かもしれません。(分かりませんが)
今回は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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