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ネパールのおにぎり屋のすべて

ネパールで農業関係の仕事をしているのですが、ここ数ヶ月は新しく始めたおにぎり屋さんに注力しています。

今回はおにぎり屋さんについて書きます。
今後、ネパールで何かしたいと思っている方の参考になれば幸いです。


なぜネパールでおにぎり屋なのか

まずはおにぎり屋さんを始めた理由についてです。

カトマンズでの「Japanese restaurant」の検索結果
ここに載っていない日本食レストランも数多く存在する

力試しがしたかった

まず何をやるか以前に大きな原動力がこれです。
私は去年8月からネパールに住んでおり、ネパールで自分で事業を行ってみたいと兼ねてから考えていました。
そして、現在の所属先である会社から新規事業をやりたいという話をいただき、おにぎり屋を始めることになりました。

そもそも何をやるかの前に自分の力でネパールで事業をやってみたいと思ったのが一番の原動力です。
(おにぎり屋を始めてからはそれとは別に本来の農業分野である日本品種の野菜販売も小さく始めました)

その上でなぜおにぎり屋なのかは以下に続きます。

おにぎり屋である理由

いくつかの要素があるので1つずつ分けて書きます。

  • 日本食は人気だが、手軽な日本食はなかった
    まず、ネパールにおける日本食レストラン市場についてざっくり説明すると首都カトマンズでは日本食の歴史は少なくとも20年以上あり、現在も日本食レストランは増え続けています。(カトマンズは人口150万人ほどですが日本食レストランは30店舗以上はありそうです)
    味はピンキリなイメージですが、例えば隣国のインドと比べるとレベルが高いと言われており、美味しいと言われる日本食レストランは確かに日本食としての再現度が高いと思います。
    在住日本人がそこまで多くない中で、これだけ増えているということはネパール人でも日本食を食べる人が増えているということになります。(最近ではテイクアウト専門の寿司業態も出始めました)

    その一方で日本食レストランというのは全て高価格帯の食事としてカテゴライズされており、それ自体は日本人として嬉しいですし、内陸国で色々な食材(特に水産物)が手に入りにくいことを考えると価格が上がってしまうのはしょうがないのですが、高価格帯であるが故に「家族もしくはもっと大きな単位のグループで行く豪華なディナー」のようなイメージがネパール人の中にあり、そうなると「日本食を食べてみたいがそこまでお金を出せない」という人もおり、そういった人を対象にしたもっとカジュアルでファストフードのような感覚で食べられる日本食業態があってもいいのでは思いました。

    一昔前の日本のイメージといえば桜・着物・富士山など日本の伝統を彷彿とさせるものが多かったのですが、最近はマンガやアニメなどサブカルチャーが日本のイメージとしてネパールでも浸透しています。
    そして若者はアニメやマンガを通して「おにぎり」を知る機会があり、日本のファストフードとも言える「おにぎり」は若者に刺さりやすいのではと思いおにぎりをメイン商品とすることにしました。

    ※「ファストフード」というのは決してジャンキーなものということではなく、あくまで「サクッと食べられる食事」というイメージです。ネパールにはもともと「モモ」と呼ばれる蒸し餃子のような最強のファストフードが君臨していて、そういった軽食全般を「カジャ」と言います。

  • ネパール人好みにもアレンジしやすい
    最近は日本でもおにぎり専門店が多いですが、おにぎりの凄さはなんといってもアレンジの効きやすさだと思います。

    極論、お米の中に何かを入れて握れば全てがおにぎりになります。
    ネパール人も主食は米のため、おにぎりは親しみやすく、具材や味付けをネパール人向けにアレンジすることも他の日本食よりやりやすいです。そもそもターゲットとしているのが「日本食には興味があるけどほとんど日本食を食べたことがない人」のため、日本食としての再現度を高めることとは別軸でネパール人に親しみやすい味にすることも必要であり、おにぎりであればそれが可能だと思いました。

    アメリカやフランスなど海外でもおにぎり屋が受け入れられる理由はこの辺が関係しているのだと思います。

うちのおにぎりラインナップ
チキンカレーや水牛カレーと言ったネパールならではのメニューもあります
  • 少額で始められる
    ここまでおにぎりがいかに魅力的かを書きましたが、もちろんリスクもあります。
    まずネパールにおける日本食レストランというのは、基本的にオールマイティに日本食が楽しめるお店が多く、単品に注力した業態はまだほとんど出てきていません。(「〇〇ラーメン」という店名のお店でもラーメン専門店であるということはまずなく、寿司も天ぷらも食べられます)
    さらにアニメやマンガでおにぎりの知名度が上がっているとは言え、おにぎりというのはネパール人の中で日本食の第一想起に上がってくるものではありません。
    やはり、知名度では寿司やラーメンには敵いません。

    そんな事情がある中で、いかにリスクを抑えて=お金をかけずに始められるかというのも事業を決める中での重要な要素であり、その面でもおにぎり屋は優れていると思います。
    必要な調理器具はほとんど家庭用のもので揃いますし、商品数を絞っているため広い場所も必要ありません。

    結果として初期費用は数十万円で済みました。

  • オペレーションが組みやすい
    事業を考える上でもう一つ重要にしていたことが「属人性を排除する」ことです。
    通常のネパールにおける日本食レストランは専門の調理スタッフがおり、彼らはネパール国内やインドなどで日本食料理人として経験を積んでいるので日本食を作るスキルを持っています。

    一方、うちにいるスタッフさんは日本食はおろか日本のことも元々全然知らない人だったりします。
    そんな人でも具材の調理さえ覚えればできるのがおにぎりです。
    「握る」部分については日本の多くのおにぎり専門店と同じく型を使っているため、多少練習をすれば同じクオリティのおにぎりが提供できるようになります。
    何より、自分自身が料理があまり得意ではないため、難しいことはできないという事情もあります。

  • 結果がすぐ出る
    これはおにぎりというよりも小売・飲食にした理由になりますが、この部分もかなり重要視していた点です。
    というのも先ほど「力試し」と書いたのですが、良くも悪くも早く結果が分かりやすいことがしたかったというのがあります。
    私の本業は農業関係なのですが、農業関係の事業は結果が出るまでとにかく時間がかかります。そのためこちらはライフワークとして細く長く(時に太く)やっていけたらいいかなと思っているのですが、自分の力試しとしてはできるだけ最短で結果が出ることがしたいと思ったので小売・飲食業を選びました。

  • 日本人という利点を活かせる
    これは言わずもがなですが、ネパールで自分が持っているアセットの中で一番分かりやすいのが「日本人であること」なので、それをフルに活かせる事業を選びました。
    (ぶっちゃけ日本人であることを一番活かせるのは日本食ではなく人材・語学関係ですが、ここは興味がないのでやめました)

お店について

ここまでおにぎり屋を選んだ理由について書きましたが、ここからは自店のことについて書きます。

初のマーケット出店時の写真

ベンチマーク

まずどういったお店にしたいかと考えた時に、既存の日本食レストランと勝負することはないだろうと考えていました。
先ほども書いた通り、既存の日本食レストランは高価格帯で豪華なイメージがあるのに対して、うちはカジュアルなファストフードのような業態です。

そのため、どちらかというと日本食ではなく若者が好きな他ジャンルの小箱の業態を参考としています。
例えばタピオカ、アイスキャンディー、キンパブなどです。
中でも韓国の海苔巻きであるキンパブは同じお米を使った料理ですし、近くにめちゃくちゃ小さいけど人気の専門店があり、このお店はベンチマークとしてとてもいいなと思っています。

このお店は飲み物も他の食事も一切なく、現在は完全テイクアウト専門ですが、お昼に行くと必ずお客さんがいます。
味は正直、うちのおにぎりの方がネパール人にとっても美味しいのでは?と思っているのですが、立地もよくGoogleレビューもかなり多いため、うちも知名度を上げていき、このお店のようになれたらなと思っています。

経済の発展度合い的に中食文化が日本ほど浸透していないネパールでテイクアウト専門で「食べ物」を売るのはすごいことだと思います。

テストマーケティング

まず店舗を始める前にテストマーケティングとして週末などに行われるマルシェのようなイベントでの試験販売を行いました。
これにかけた期間は1ヶ月半ほどで、本当はもっと長く行うつもりでしたが早く店舗化したいと思い、早々に物件探しを始めました。

ただ、やはりテストマーケティングはやってよかったです。
ネパール人が好きな味や嫌いな味を知ることができますし、おにぎりの知名度や適正価格・見せ方・伝え方などこの辺は実際にやってみないと分からないことがたくさんあります。

カトマンズはこういった週末のイベントが結構盛んでイベントごとの集客力はピンキリですが、探せば色々なところでこういったイベントが開催されています。一回あたりの出店料も数百円から1500円くらいなのでそこまで高くありません。

最近はこういった毎週末のイベントには出ていませんが、店舗オープンしてから2ヶ月くらい前まではお店を知ってもらうために出ていました。

物件探し・立地選定

ネパールでは物件を探す際に(居住用であっても)不動産会社を利用するケースは一般的ではありません。
空き物件にはシャッターに電話番号が書かれているため、各所を歩き回り良さそうな物件があればしらみつぶしに電話をかけて大家さんと話をしました。

それまでネパールに住んでいて得た感覚で出店エリアはいくつかに絞っていたのですが、色々な人と話をするとエリアごとの相場がわかるようになり、最終的にここだと思える場所を見つけました。

うちのお店がある場所はエリア的には高級住宅や学校の多い一等地ですが、メイン通りではないため立地的には二等立地だと言えます。
ただそのおかげでメイン通りの半額ほどの家賃で物件を借りることができました。
そして、これは結果論ですが、フットワークの軽い目的来店のお客さんが多い業態なので立地はそこまで関係ないというのが今の結論です。

反対に、目の前に大きな私立の学校があり、ここの生徒や先生がよく来るだろうと当初は予想していたのですが、これはあまり当たらず、学校の規模に対して学校関係で来てくれるお客さんはあまり多くありません。
(2軒隣の大家さんがやっている駄菓子屋みたいなお店にはしょっちゅう生徒がいますが。。)

ちなみに徒歩圏内に日本食レストランが5軒はある日本食密集エリアですが、そこは気にしなかったというかむしろたくさん日本食があっていいエリアだなと考えていました。

内装業者が非効率な話し合いをしている

商品

ここまでおにぎり屋ということで書いてきましたが、うちはおにぎり専門店ではありません。
誤解を恐れずに書くと、おにぎり屋と呼ばれたいわけでもありません。
あくまで目指しているのは「日本食をファストフード感覚でカジュアルに提供できるお店」です。
そして、そのアイコニックな存在としてあるのがおにぎりなのです。
そのため、おにぎり以外のメニューも多くはないですが提供しています。

  • フード
    大きくフード・ドリンク・スイーツとカテゴライズしており、フードでおにぎりの次に人気なのは唐揚げ棒です。
    フライドチキンというのはネパールでも人気であり、スタバもマックもないネパールでさえケンタッキーはあります。

    先に唐揚げのことを話してしまいましたが、おにぎりは現在10種類のラインナップがあり、ネパール料理に近い味付けのものもあります。
    中でも一番人気はツナマヨで、ツナ缶自体ネパール人の中で常食ではないものの食べる人もいるようでネパール人にとっても親しみやすい味のようです。
    反対に梅やゆかりもラインナップにありますが、これは玄人向けというか、梅やゆかりの持つ酸味がネパール料理にはないため、かなり日本食を食べ慣れたネパール人でないと美味しいと思ってもらえない印象があります。
    ただ一部の根強いファンがいるためラインナップには載せています。

    ちなみに水産物を使えば一気に幅が増えるのですが、そうするとかなり高価なおにぎりになってしまうため現在はあまり使っていません。

  • ドリンク
    ドリンクで一番人気なのは抹茶ラテです。
    実は抹茶はネパールでも人気で、日本食とは関係のないカフェなどでも抹茶ラテはよく目にします。
    ただ、正直どこも高いです。確かに抹茶をネパールで買うと日本よりかなり高くなってしまうので高めの金額設定になってしまうのは分からないでもないのですが、それにしても高いです。
    大卒銀行員の初任給が3万ちょいであるこの国で、通常のカフェで提供されている抹茶ラテは400円ほどします。

    それと比べるとうちで提供している抹茶ラテはお得で、お客さんからも「あの店より安いのに美味しい」という評判を頂いています。
    抹茶ラテはうちの核となる商品の1つなので今後も積極的に推していきたいです。

  • スイーツ
    スイーツは先ほどの抹茶人気を引き継いだ手作りの抹茶アイスも人気なのですが、さらに言うとそれをモチで包んだ「モチアイス」が人気です。
    これは紛れもなく某雪◯大福を参考にした商品ですが、正直に言ってまだ改良の余地があると思っています。
    ネパールでも餅米は手に入るので、それを白玉粉にするところから自分たちでやっているのですが、どうしてもあの求肥のような柔らかさが再現できません。

    ただ、ネパールにおけるアイスクリーム全体の人気は凄まじく、高いものだと1カップで350円を超えるブランドもあります。
    そのため、その人気に乗っかっていくためにもアイスはこれからも磨きをかけたいです。

販売経路

販売経路については店舗での手売り以外にイベントでの出店、デリバリー、卸売りを行っています。

イベント出店は年一とかで開催される割と大きめのイベントへの出店が最近はメインになっており、先ほど書いた毎週末のようなイベントと比べると出店料が格段に高くなるのですが、広告宣伝のような位置付けで出店をしています。

デリバリーは個人向けについては現在はインスタでオーダーを受けて配車アプリを利用して配送を行っています。
やはりお店が遠い方もいるのでそういった方はデリバリーでの注文が多いです。
ただオペレーションが少し煩雑なため、手数料はかかりますがウーバーイーツのようなサービスの利用も検討しています。
またそれ以外に法人向けのデリバリーもたまにあり、これは日本語学校などが主なお客さんです。

卸売りはうちのおにぎりが賞味期限を1日に設定しているため、なかなか扱ってもらいづらく、毎日納品しているお店が一軒あるのみです。
ただ、ここはおにぎり以外の商品で販路を見出せるのではないかと考えており、モチアイスなどが改良できていけばスーパーなどもっと大きなお店にも卸していけると考えています。

お客さんの層

よく人からお客さんは日本人とネパール人どちらが多いか聞かれるのですが、うちの場合は9割以上のお客さんがネパール人です。

既存の日本食レストランは高価格帯であるが故に顧客層も家族を持っている世帯であったりすることが多いのですが、うちについてはそれよりも若い層でアニメなどを見る人が多いです。
年代としては10~30代がメインであり、そういった方も手に取りやすい商品設計にしてあります。

彼らの移動手段はバイクがメインのためフットワークが軽く、インスタでお店を知ってもらうことが多いため二等立地のうちにも問題なく来てくれます。(逆に交通量が少ないからこそバイクを停めやすいなどの利点もあります)

ちなみに彼ら若年層は英語もかなり堪能なため、私がネパール語と英語をめちゃくちゃにちゃんぽんにして話しても理解してくれ(ようと努めてくれ)ます。
(私は初見では100%ネパール人に間違われるため「私はネパール人じゃないんだ」から会話が始まります)

集客

お客さんの層の部分で書いた通り、若い人が多いため集客のメインは完全にインスタになっています。
私自身、インスタの運用について決して詳しいわけではないのですが、広告も使いながら来客、デリバリー、フォロワーを順調に伸ばしています。

ただ他の有名な日本食レストランと比べるとフォロワー数もまだまだなのでここは伸ばせる余地があると思っています。

インスタを使った集客でいいなと思うのは、お客さんとこちら側で前提知識のすり合わせが自然とある程度できているということです。
浮遊客を相手にした場合は「タバコはあるか」とか「モモはあるか」とかを尋ねる、うちのお店のコンセプトを全く理解していない方が来ることがあるのでこういった方と比べるとコミュニケーションコストが全く違います。

元々ネパール人というのは情報が書いてあってもこちらに話を聞いてくるタイプの人が多いので、ここでかかるコミュニケーションコストというのは日本とは比にならないものがあります。

あとはお店を利用してくれたお客さんにGoogleレビューやインスタでのタグ付け投稿をしてもらえる施策を行えればより良いなと思っています。

集客というかSNSにおける課題としては、最近はいわゆるグルメ系アカウントからも連絡が来るのですが、ネパール人は基本的にアポ取りの概念がないため、私が先送りにしてしまうという機会損失を起こしているのがもったいないところです。
また、TikTokも使えばより効果的なのですが、全く使ったことがないためまだ利用できておらず、この辺りはこれから入るスタッフさんに任せていきたいと思っています。(インスタもプライベートではほとんど利用してこなかった。。)

お店のインスタアカウント

スタッフさん

あえてこの項目を章の最後に持ってきたのは、この部分は少し力を入れて書きたいからです。

ここまで淡々とお店の状況について書いてきましたし、見方によっては戦略を作っているという風にも見えるかもしれませんが、全てはここまで書いたことを遂行してくれる優秀なスタッフさんのおかげです。

うちのチームは現在、フルタイムのスタッフさん1名と主にイベント専門の期間限定スタッフさん1名、そして自分の3名で構成されています。

この二人がそれぞれ素晴らしい方達なので個人情報は伏せた上で少し紹介をします。

  • イベント専門スタッフさん
    まずは期間限定でジョインしてくださっているスタッフさんです。
    彼のホスピタリティスキルは素晴らしく、正直、ネパールでこれだけホスピタリティスキルの高い男性とはこれまで出会ったことがなかったですし、これからも出会うことがないのではないかと思っています。
    控えめにいって自分よりも全然気配りができる方です。

    そして、そんなハイスキルの方なのにも関わらず腰が低く、年下の女性からもちゃんと仕事を学ぼうとしますし指示にも従います。
    これができるネパール人は本当に稀有な存在だと思います。
    「自分は新しいこと学ぶのが好きだ」といい、言ってしまえば雑用のように見える仕事でも誠実にこなしていただけます。

    そして周りに労いの言葉もかけてくれて、お客さんにだけでなく全方位に対して謙虚で誠実であるのが分かります。

    できることならずっとうちにいて欲しいのですが、ご家族の事情でネパールを離れなければならず、今回は期間限定という形でジョインしていただいていますが、とても感謝をしているのと同時に彼のような人格者として完成された人はどうやったら生まれるのか非常に気になります。

  • フルタイムのスタッフさん
    うちのお店を語る上で彼女の存在は絶対に欠かせない、まさにうちのお店の要です。
    彼女はこれまでの仕事や家庭での経験から料理や掃除などのスキルにかなり優れ、全ての仕事を要領よく、マルチタスクを同時並行で進めることができます。

    元々日本料理のことなんて全く知らないし、なんなら日本人とここまで対峙したのも私が初めてだと思いますが、ちゃんと私とコミュニケーションをとってくれて、全てが初めての日本食の調理や販売に対しても本当に真面目に一生懸命に取り組んでくれています。

    彼女とのコミュニケーションはネパール語で、私のネパール語スキルは高くないため、私の使うネパール語は本当にメチャクチャなのですが、それでもしっかり私の言うことの意図を汲み取ってくれていて、彼女のネパール語も私が100%理解しているわけではないのですが、その意図を理解できるようになっていて、阿吽の呼吸というのは言い過ぎですが、毎日仕事をする中で何も言わなくても意思の疎通ができるようになってきているのを実感します。

    そしてスキル的な部分だけでなく仕事への姿勢も素晴らしく、本当にちゃんと真面目に仕事をしてくれますし、こちらの期待の120%ぐらいで仕事をしてくれることも平気であります。
    (最近は私が彼女からダメ出しを喰らうこともありました笑)

    だからこそ彼女に甘えてしまっている部分もあると感じていて、待遇や働きやすさの面はもっと改善していかなければと思います。

    彼女については先ほどのイベント専門スタッフの方と違い、良い意味でちゃんとネパール人だなと思う部分もあり、そこのギャップというか人間らしさも面白いなと思います。

    ただ自らの学歴へのコンプレックスを持っており、確かに勉強的な知識が必要な業務は苦手なようで、それが原因でうちの仕事を辞めてしまいそうになったこともあります。
    しかし最近ではその辺も前よりできるようになって来ており、彼女以上に私が嬉しく思っています。

    仮におにぎり屋がなくなったとしても新しい仕事をする際には絶対に声をかけたいと思っています。

二人に共通して言えることは、スキルの高さもさることながら何より人として信頼ができる誠実な人であるということです。

これから人が増えてもここの軸はぶらさずに採用をしていきたいです。

工夫した点

ここから今回のおにぎり屋で工夫した点について書きます。
先ほどから書いていることと重複した内容もありますが悪しからず。

インスタでいただくお客さんの声1

ミニマムな経営

経費をかけないということですが、ここで大きいのは家賃と初期費用です。
家賃については先ほど書いた通り二等立地を選びましたが、家賃を下げることで浮いた分を広告などの集客に回せたことは今考えると大きいなと感じます。
目的来店の多い業態なので、立地はそこまで気にする必要がなく、そうであればコントロールできずに毎月払わなければいけない家賃はできるだけ小さくして、残りをコントロールできる広告宣伝費に充てた方が間違いなく良いです。

初期費用については、居抜き物件のような形で物件を借りました。
そしてお店の正面もペンキ塗りや看板ではなく、それより安く済み飽きたら変更もしやすいポスターを貼っています。
そのためポスターをめくればうちの前に入っていたお店のペンキ跡がそのまま見えます。
調理器具も炊飯器以外は全て家庭用のもので、とりあえず家庭用で始めてスペック不足だったら業務用に変えようと考えていましたが、今のところ家庭用調理器具で問題なさそうです。

また細かいところで言うと節電もしていて、前の店舗が取り付けてそのままのオシャレな電灯があるのですが、それは電気代を食うためただ飾りになってしまっています。

ネパール人向けの味付け・見え方

ネパール人向けに提供するおにぎりのため、オリジナルの日本食に近づけること以上にネパール人にとって受け入れやすいおにぎりにすることを意識しています。
そのため、味付けは日本で食べるおにぎりと比べると濃いめです。

これについてはテストマーケティングの段階からかなり細かい変更を繰り返し今の形になっています。

一例を出すと海苔があります。
まず海苔はネパール人が食べ慣れない食材なので、そもそも海苔を使うおにぎりのラインナップをあえて少なくしています。
海苔を使っていないおにぎりは混ぜご飯のようにして提供するため見た目から中身がわかりやすく、色のバリエーションも出すことができます。

そして海苔を使ったおにぎりについては、たくさんの海苔を使うよりも、いわゆるアニメなどで登場するおにぎりの海苔のようなおにぎりの底面の一部だけに巻きつけるタイプの海苔の巻き方を採用しています。
こうすることでおにぎりに対しての既視感をネパール人に持ってもらいやすくなります。

そして海苔の味についてもただそのまま焼き海苔を使うのではなく、ごま油と塩を使って味のりを自分たちで作ってからおにぎりに使用するようにしています。
こうすることで海苔への抵抗感をより少なく食べてもらうことができます。
ちなみに最近では海苔だけを追加で頼むお客さんもいるので、海苔増量のオプションなどをつけても良いかなと思っています。

インスタでいただくお客さんの声2

商品数の増やし方

うちのお店はオペレーションをいかにシンプルに保ちながらお客さんの満足度を上げるかを考えているので、商品を増やすことに対しては特に慎重になります。
その中で考えたのが、いかに同じ材料を使ってメニュー数を増やすのかということです。
例えば分かりやすいのはドリンクで、アイスクリームを乗せるフロート系のメニューを増やすことでオリジナルドリンクにオリジナルアイスという組み合わせでメニューを増やす、かつ差別化を行うことができます。

またフードについても唐揚げやコロッケなどは一度作ったもの冷凍し、提供時に再度揚げるなど日持ちすることを前提に考えているので食材ロスはかなり少ないです。

ちなみにおにぎりについてはさすが前日の売れ残りを販売することはできないため、冷凍してスタッフさんや自分の間食としており、売上的にはロスですが、これも捨てたことはありません。
(一時期は毎日おにぎりばかり食べていました笑)

仕組み化

自分は元々ブランディングやマーケティングが優れているタイプではないため、どちらかというと一番力を入れているのはこの部分かもしれません。

経営者さんの本や動画を見る際も経営に仕組み化を取り入れている方の考えを参考にすることが多く、これこそが表には出ずらいうちのお店の強みなのではないかと考えています。

仕組み化については良し悪し言われることがありますが、仕組み化がよくないのは組織の成員のレベルが高い時であって、守破離という言葉もある通り、まず初心者にはこれまでの蓄積であるベストプラクティスを提供できる体制を作った方が圧倒的に教育コストは下がると思います。

自分がいなくてもお店が回る状態を1日でも早く作ろうと考えているので仕組み化は絶対になります。

そして仕組み化と切っても切り離せないのが数値化・可視化だと思っているので、ここについてもできる限り工夫をするようにしています。

毎朝のtodo管理、開け閉め時のチェックリスト、売上報告、時間ごとの行動マニュアル、レシピの明文化と数値化など当たり前っちゃ当たり前かもしれませんが、家族経営のお店が多いネパールではこの辺が可視化されていないことが恐らく多いです。
プレーヤーとマネージャーを切り離すことを前提に考えた時には仕組み化は必須の仕事であり、ネパールにはない習慣のため最初こそ慣れないかもしれませんが、プレーヤー側の働きやすさにもつながると考えています。

ネパールは日本と比べると、みんな簡単に転職をしていく国なので、そういった意味でも教育コストを下げられる仕組み化はリスクヘッジになると思います。

オペレーション>集客

これは特に初期ですが、全ての来てくれたお客さんに対して同じクオリティのサービスを提供するため、オペレーションを構築し、それに慣れてもらうまでは積極的に集客施策を行っていませんでした。
(集客方法が分からなかったというのもありますが。。)

開店時にも大々的な告知は一切せずひっそりと営業を始め、来てくれた少ないお客さんの反応を見ながらメニューを増やしたり改良したり、オペレーションを改良したり、スタッフさんのみのワンオペの時間を作ってみたりする中で、ある時点でアクセルを踏むと決めて集客に力を入れ始めました。
逆にそれまでは売り上げが少ないため、自分が各地のイベントに出張販売に出向くこともかなり多かったです。

とはいえ、現在でも根底にあるのは「オペレーション>集客」の考え方であり、自分たちのキャパシティを超える来客は起きないように調整しているつもりです。
具体的には大型の注文については一部断ったり(それでも徹夜しておにぎりを作ることもありますが)、目標売上を大幅に上回るペースであればあえて広告を止めたりという感じです。

基本的にコストをかければ売上は増えますが、利益率は下がるのでそこの一番ちょうどいい部分を見極めて過度に労力を増やさないような方法を模索しています。

できるだけ持続的に事業を続けていくためにも毎月コンスタントに利益が出ていくようなお店を目指したいと思っています。

インスタでいただくお客さんの声3

競合との差別化

現在ネパールでおにぎり屋はうちしかないのですが、もし上手くいっていると判断されたら競合が出てくる可能性もあるかなと考えています。

正直、競合がどんな出方をして何を模倣するかによって差別化の取り方も変わってくるのかなと思いますが、一般的なネパールの飲食店と比べたときに強みになりそうなのは以下のあたりかなと思います。

  • ミニマムであること
    まずはうちのお店がミニマムであることは差別化になるかなと思います。
    例えば既存の日本食レストランもおにぎりを販売していますが、価格はうちより高めかつ食材費はうちより低そうですし、彼らの固定費を想像するとおにぎりでビジネスを成り立たせるのは難しいと思います。
    また、ネパール人は新規店舗の内装などにお金をかけてしまうケースがよくあるため、そうなると回収までにかかる期間や費用も圧倒的に変わってきて、結果としてそれが自分で自分の首を絞める結果になると思います。

    ちなみに寿司業態であれば、おにぎりより全然高価格帯で勝負できるのですが、生魚のため、ある程度客数を取り続けられる状態でないと食材ロスがかなり起きると思い、自分はそういうリスクは取りたくないので寿司を出さないのかよく聞かれますが寿司は作らない方針でいます。

  • 新メニューの開発力
    散々「おにぎり屋」と自称していますが、先ほども書いた通り、うちは純粋なおにぎり屋を目指しているわけではありません。
    そのため、サイドメニューのクオリティの高さがかなり肝になってきます。
    そしてその点では、私がネパール人の舌をある程度理解している日本人であるということが差別化にかなり寄与すると思っており、これまで考えてきたメニューはいずれも「ネパール人が好きそうな日本食」です。
    このアイデアはネパール人にはなかなか出てきませんし、アイデアがあったとしても再現するのも大変だと思います。
    一方で自分はレシピサイトでレシピを見て作ってみることができますし、できた料理のオリジナルのクオリティも理解しているのでネパール人にもうまく伝えることができます。

    ちなみに直近で作ったメニューで安定して売上があるのはサータアンダギーで、サータアンダギーは個人的に好きですし、比較的日持ちもし、フレーバーでバリエーションを増やせるので人気商品の1つになっています。

    本当はパフェとかも日本のクオリティで再現したく、一時期販売をしていたのですが見た目的にイマイチだったので今は一旦メニューから消しています。(おにぎりからどんどん離れている)

  • 仕組み化やマネージメントなどの部分
    ここはどちらかというとバックオフィスや守りの部分ですが、ここのクオリティが根底では一番差をつけられると思います。
    ネパール人は若者が多いため、正直SNSや魅せ方の部分であればうちより優れているお店は五万とあります。

    ただ、ビジネス上でそういったお店の方などとやり取りをしていると、管理の部分は弱いのかなと思うことが多々あります。
    日本人の細かいところへ求めるクオリティの高さなどはこの部分でかなり強力な武器になると考えていて、例えば予実管理や在庫管理、日々のキャッシュフロー管理などネパールではそれができるだけでも抜きん出た存在になれると思います。(一方で小さい組織が多いのでそこから具体的な施策の提案・実行にまで持っていける必要はありますが)

    いずれにしても他店舗化やプレーヤーとマネージャーの分離を考えるのであればここは強い差別化要因になると思います。

そして、仮に競合が出てきたとして考えるのが、そもそもネパールにおける「おにぎり市場」がどれくらいあるのかということです。
私のこれまでの所感では、まだ具体的には掴みきれていないものの現在では5店舗もあれば飽和すると思っています。
というのは韓国の海苔巻きであるキンパブがメインの飲食店の数を見た時に思うことで、韓国料理でキンパブが主役ではないように、日本料理でもおにぎりが主役になる日は来ないのではないかと思っています。

またネパールで他店舗化をする飲食店というのはほとんどがカトマンズと第二の都市ポカラに出店が集中しており、日本食以上に受け入れられやすいカフェやタピオカであっても大手ブランドは全体店舗の8割以上がカトマンズにあります。

要はおにぎり店がカトマンズ以外に出店するのはかなり難しく、それだけ市場が限定的であるということです。

そのため、仮におにぎり屋が増えた時は、一般的な日本食レストランの方向性にシフトしていくか、変わったカフェ業態のような形でオリジナリティを出していくかの二択になると思われますが、そうなるとうちのお店は後者の選択肢を取っていくことになると思います。

今後について

最後に今後の展開(というか私自身の今後)について考えていることを書きます。

結論から言うと、数ヶ月以内にこのおにぎり屋はネパール人のみで経営できる状態にし、自分は第一線から早々に退こうと考えています。

元々、おにぎり屋を始めるに至った経緯が「力試し」であり、まだ「成功」とは言い切れませんが単月黒字を安定して出せる状態まで持って来れたので、早々にネパール人だけで回せる状態に持っていきたいと考えています。

正直、本当に自分が抜けて安定した経営が続くのかかなり不安ではあるので、まずはオーナーやスタッフさんにも相談をして数週間以内に結論を出したいと考えています。
とはいえ自分もまだ数ヶ月は残るつもりなので、仮に自分が離れるとしてもその間で新たな体制を作っていく予定ですし、やめた後も一定期間は数値管理的な部分は自分が巻き取ろうと思っています。

ではなぜ離れようと考えているのかについてですが、もっと自分の想いを反映させた事業を行いたいと思ったからです。

最近まではおにぎり屋を他店舗化することも考えていましたが、特にビジョンを持って始めたわけでもないこの業態を広げるために自分の時間を使うことにどれだけ意味があるのか考えるようになりました。

自分がネパールで今考えている「出稼ぎしない人の選択肢をつくる」というところだと、先ほどの市場規模の話にあった通りおにぎり屋で生み出せるインパクトはかなり限定的なものになります。

日本食は長らくこちらでやられている日本食関係者の方々のおかげでネパールの食文化の1ジャンルとして確かな地位を築きましたが、それでも欧米料理ほどのメインストリームにはなっていないのが現状で、そもそも手に入りにくい魚がメイン食材であったり、ヒンドゥー教徒が食べられない牛肉を使ったメニューがあったり、ベジタリアンへの対応も難しいことから今後もメインストリームになることはないと考えています。

そのため、日本の良さは活かしながらも日本食からは離れた事業を行いたいと思っています。
具体的なことはまだ書きませんが、より多様な人を巻き込めることをしたいと考えており、そのためには自分の今のスキルセットだと不足していると感じているため一旦日本に帰国しようと考えています。

ですので、おにぎり屋もネパール人で運営できる体制を早急に整える必要があると考えているのです。

今、全体業務の洗い出しを行い、それぞれの業務を誰が担当しているのか整理し、自分がメインになっているところを洗い出した上でどんな方に働いてもらうのか考えているところです。
それでも遠方からできるバックオフィス業務は自分が巻き取る形で考えており、仮に来年初めに帰国しても、同年中に一度はネパールを訪問する予定なので、そのタイミングで必要であれば立て直しや再強化を図ろうと考えています。

これを書いている今は、ネパールはダサインという1年で最大のお祭りシーズンで多くの人は帰省をしているため閉まっている店舗も多く、うちのお店も閉めています。
今回のnoteはそんなまとまった時間が取れるタイミングで引き継ぎについて考えるために一度、頭の中を整理したいと思い書きました。(予想以上に長文になりました)

本当に帰国することになったら1年半ほど住んだネパールを去り、全く異業種に飛び込むという全く計画性のないキャリアプランになりますが、最低限こっちで生きていける自信はついたので、まぁこれもいいのかなと考えています。

ということでこれからもたまに更新していくのでよろしくお願いします。

今日は以上です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


Twitterでも農業やネパールについての情報を発信しているので良ければ見てみてください。

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