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「コオロギ由来の成分を食品に添加しても『アミノ酸』と表記されるのみ」は不正確【ファクトチェック】

「コオロギ由来の成分を食品に添加しても『アミノ酸』と表記されるのみ」という言説が拡散しましたが不正確です。消費者庁は「コオロギを加工して食品に『添加物』として用いた場合、成分規格に該当するものとは想定されないため、食品衛生法に抵触する可能性がある」と説明しています。

検証対象

ウェブサイト「RAPT理論+α」が「【危険】コオロギ由来の成分を食品に添加しても「アミノ酸」と表記されるのみと消費者庁が回答 消費者庁のトップは河野太郎」という記事を2023年3月に公開した。

この記事を引用したツイートが、現在145万回以上の表示と1.9万件以上のいいねを獲得している。また、複数のアカウントが、この記事を引用している。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は記事の3つのポイントについて検証する。

1.消費者庁が「コオロギ由来の成分を食品に添加しても『アミノ酸』と表記されるのみ」と回答。
2.コオロギ由来の成分が全体の5%以下の場合、食品成分表に「その他」と表示できる。
3.昆虫食は「アレルギー表示対象品目」の中に含まれていないため、食品パッケージに“注意喚起”を記載する必要がない。

検証過程

JFCは3つのポイントについて、消費者庁と厚生労働省に問い合わせた。

1.消費者庁が「『アミノ酸』と表記されるのみ」と回答について

この言説はさらに2つのポイントに分けることができる。「コオロギ由来の成分を『アミノ酸』と表記できる」という部分と「そのように消費者庁が回答した」という部分だ。

まず後者の「消費者庁の回答」について、消費者庁はJFCの問い合わせに「『コオロギ粉末を用いた際に、アミノ酸と表記できる』と回答した事実は確認できなかった」と述べた。

では、実際にコオロギ由来の成分を「アミノ酸」と表記して良いのか。

アミノ酸は添加物の一つであり、厚生労働省では種類ごとに純度や成分について遵守すべき項目を成分規格で定めており、成分規格に合わない添加物を使用したり、販売することはできない。

消費者庁は、もしコオロギ由来の成分を「アミノ酸」と表記しようとした場合「現時点では成分規格に該当するものとは想定されないため、食品衛生法に抵触する可能性がある」と説明する。

規格基準では添加物の製法が詳細に定められている。コオロギ由来など新たなアミノ酸を使用する場合は、基本的に指定添加物として新たに厚労省へ申請し、薬事・食品衛生審議会の審査を受ける必要がある。しかしながら、厚生労働省への問い合わせでは「現在、『コオロギ由来のアミノ酸』として添加物指定されたものはありません」との回答だった。

仮に、指定添加物としてすでに定められているものと全く同じアミノ酸を、規格基準に沿うように製造した場合は新たに申請する必要がない。しかしこれについては消費者庁が「現時点では現実的ではないと思われる」と回答している。

つまり、コオロギ由来のアミノ酸を「添加物」として用いることは食品衛生法に抵触する可能性があるとのことだった。

なお、食品衛生法13条2項は次のように定めている。

基準又は規格が定められたときは、その基準に合わない方法により食品若しくは添加物を製造し、加工し、使用し、調理し、若しくは保存し、その基準に合わない方法による食品若しくは添加物を販売し、若しくは輸入し、又はその規格に合わない食品若しくは添加物を製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、保存し、若しくは販売してはならない

2.食品成分表に「その他」と表示できるについて

この言説は説明が不足している。食品表示基準の第3条第1項の表では、5%未満の場合に「その他」と表示ができるのは、原材料の中でも「複合原材料」だけである旨の記載がある。複合原材料とはマヨネーズ、醤油など2種類以上の原材料からなる原材料を指している。

消費者庁は「原材料名を消費者庁で決定している訳では無いが、含まれる材料がわかるようにその最も一般的な名称で書くのが基本」と説明。下記の3つの場合は、複合原材料の原材料を「その他」と表示できたり、表示を省略できるとの回答だった。

①複合原材料に占める重量割合が3番目より下で5%未満の場合
②複合原材料自体の食品に占める重量割合が5%未満の場合
③複合原材料の名称からその原材料が明らかである場合

上記の条件を満たせば「その他」と表記できたり、表示を省略できる。一方で消費者庁は「現時点ではコオロギは高価な材料。製品に使用した側は積極的にPRするのではないか」とも述べた。

3.食品パッケージに“注意喚起”を記載する必要がないについて

消費者庁は「コオロギ由来のものについてアレルギー表示義務はない」と回答した。

その上で、将来的に表示が義務化される可能性については、こう説明した。「アレルギーの全国実態調査は3年ごとに行い、症例数を調べている。品目ごとに、症例数、重篤割合、増加しているかなどを総合的に判断して、食物アレルギーの対象品目に表示するか検討している」。

判定

コオロギ由来の成分を添加し「アミノ酸」と表記することは食品衛生法に抵触する可能性がある。また、食品表示にコオロギ由来であることが示されないケースは想定されるが、当該言説では説明が不足している。よって、全体では不正確と判定した。

個々の言説についての判定は、以下のとおり。

1は、消費者庁では言説のような回答を確認できなかった。また、コオロギを加工して添加物として用いた場合は食品衛生法違反に抵触する可能性がある。そのため不正確と判定した。

2は、複合原材料のうち、条件を満たした場合は「その他」と表示できる。しかし言説では説明が不十分なため、不正確(ミスリード)と判定した。

3は、コオロギ由来のものについてアレルギー表示義務はないため正確。

あとがき

今回のように、一つの言説の中に、複数の検証ポイントがあり、一部は正確で一部は誤りというケースもあります。ある一部分が信頼できるからと言って、全体がそうであるとは限らないということに注意が必要です。

検証:本橋瑞紀
編集:古田大輔、藤森かもめ


検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

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