見出し画像

ストーリーの力をラグジュアリーブランディングにもっと活用しよう

先日、第27回 GIA Tokyo GemFest: で、早稲田大学ビジネススクールの長沢伸也教授による講演「日本のジュエリーはどうすればラグジュアリー・ブランドになれるか」がオンライン開催されました。

なんとYOUTUBEで無料公開されていますので、おすすめです。

とても面白かったので、長沢先生の御著書も読んでみました。


勉強記録として、考えたことをシェアしていきます。

1 ラグジュアリー・ブランディングとは

本書は、早稲田大学2014年に開催されたシンポジウム「日本初、ラグジュアリーブランドへの挑戦」の内容をもとにまとめた書籍です。

ラグジュアリーブランド(いわゆるハイブランド)だけでなく、日本国内のものづくりを行う中小企業が、価格競争に踊らされず、きちんと価値を創造していくためにどうしたらいいかのヒントがたくさん紹介されています。

まず長沢先生は、これまでのマーケティング論が、必ずしもブランドを研究対象の中心に据えてこなかったことを指摘しています。

アメリカでさかんに研究されてきたいわゆるマーケティング理論が、ラグジュアリーブランディングにそのままあてはまるものではない。いや、むしろヨーロッパのハイブランドはその逆の戦略を言っているのではないか、という主張をされています。

第1章「ラグジュアリーブランディングの基礎」では、主要なラグジュアリーコングロマリットの基本的な紹介がされています。

宝飾時計ブランドに絞っておさらいすると、このような整理になりますね。

○ LMVHグループ

ブルガリ、タグ・ホイヤー、ゼニス、ウブロ、ショーメ、クリスチャンディオール、デイアス、フレッド

○ リシュモングループ

カルティエ、ヴァンクリーフアンドアーペル、ピアジェ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ジャガー・ルクルト、IWC、パネライ、ランゲアンドゾーネ、ボームアンドメルシェ、ロジェ・デュブイ、ラルフローレン

○ ケリンググループ

ブシュロン、ジラール・ペルゴ、ポメラート、ジャンリシャール、キーリン

ウオッチ&ジュエリーだけでなく、ファッションやレザーグッズ、ワインなど、複数の分野をもつこっとで良好・不作の年ごとのリスクをヘッジできることやブランドイメージなどのシナジー効果が見込めるということです。


2 日本人がよくやりがちな失敗例

この本では、具体的な社名を挙げて、失敗例を挙げているのが非常に面白いです。

くわしくは本書を購入していただいて読んで頂けたらと思いますが、おなじスペックの時計なのに、日本企業だととても安く売ってしまって利益が上がらない、欧州ブランドだと数百万円であっても売れている、という例がいくつも挙げられており、読んでいると「そりゃだめだよね」ということがわかります。

でもこれはとてもありがちなことで、ジュエリー分野でよく見るのは、

・ジュエリー作家も自らの労力や技術をまだまだ過小評価していること

市場調査をしすぎて、まわりに合わせてしまっている(まわりより高いと売れないのでは)

・そもそも、作り手自身が本当に欲しいと思ってくれるのか自信がない

などから、値付けをギリギリに付けてしまっているようなことがよくあります。

これでは売っても売っても利益がでないですよね。

これらは職人や作家の謙虚な気持ちからくることも多く、それはそれで大切なことなので、もしかすると作り手側と、経営者やブランディング・広報担当はうまく役割を分けたほうが良いのかもしれません。

とはいえ一人や少人数でやっているジュエリー企業も多いと思うので、クリエイティブモードと、経営・ブランディングモードで頭を切り替える必要があると想います。

3 じゃあどうしたらいいのか

長沢先生は、今のラグジュエリーブランドを見ているだけでは「自分たちはそんなふうにはなれないや」と想ってしまうだけなので、そうではなくて、彼らにも小さな工房でやっていた初期の時代があるのだから、彼らがどうやってラグジュアリーになっていったかを学ぶ必要があると言っています。

長沢先生の研究によれば、ラグジュアリーのためには以下のような要素が必要とのことです(本書108,109頁)。

チェックリストのような形で、自分のジュエリーブランド(私は宝飾小売店ののれんもサービスブランドだと思います)に備わっているかチェックしてみてください。


<ラグジュアリー戦略に必要なものの要素>

□ 夢

□ 憧れ

□ 希望

□ イメージ

□ 物語

□ 歴史

□ 個人(創造者、デザイナー、技術者、職人、大使、女神)

□ 原産国効果

□ 希少性

□ 真正性

□ 世界観

□ 情熱

□ 熱狂

□ クリエイティビティー

□ オリジナリティー


どうも似たような抽象概念が並んでいるのでわかりずらい部分もありそうです。

「こんな定性的なものをマネジメントをしていくのなんて難しそう、そもそもうちにはまだ歴史とかないし。」という声も聞こえてきそうなのですが、

フランクミュラーやリシャールミルなど歴史としては非常に短いブランドも短期間にラグジュアリーの仲間入りをしていることからも、必ずしも創業が古いことが必須の要件ではないようです。


4 ストーリー(物語)の力

私はこれらのうちの物語(ストーリー)の部分は、どんな作家やブランドにもあるもので、もっとやっていくべきだと思っています。

いかに価格と性能がすぐれているか、また資産価値があるかをロジカルに説明されるよりも、こんなふうにストーリーを教えてもらうほうが、「欲しい、どうしても買いたい」と感じるのではないでしょうか。

昔々、愛と宝石にまつわるひとつの物語がありました。すべては1895年のパリ、宝石商の娘エステル・アーペルと、宝石細工職人の息子アルフレッド・ヴァン クリーフが結婚したことに始まります。若いこのふたりは、革新を恐れぬ情熱、家族愛、そして宝石への愛といういくつもの価値観を共にしていました。 (エステルとアルフレッド:愛の物語 https://www.vancleefarpels.com/jp/ja/the-maison/articles/estelle-arpels-and-alfred-van-cleef--a-love-story.html )

私は、ラジオポッドキャスト『ジュエリー法務のインクルージョン』にて、宝飾業界に携わるさまざまな人のお話をインタビューしていますが、どなたも「なぜジュエリーの仕事をすることになったのか」「どうして今のような形になったのか」のお話には、それぞれの人生ドラマがあり、単に外からブランドのウェブサイトやインスタグラムをみていただけではわからない人間味がわかって、とても面白いです。


インタビュー前はみなさん「自分の話なんか面白くないと思う」と心配されるのですが、「自分にとって当たり前だったことは、他の人には当たり前じゃないので、絶対面白いです」とお話するようにしています。

自分のホームページで自らのパーソナルなことを書くのは恥ずかしい、なんか自慢みたいになりそうで、とおっしゃる方もいます。

ですが、

「うちの作品見てもらえたらわかるはず」

と思うのは甘いと思います。

作り手の想いやブランドのコンセプト(その商品の先に何を目指しているのか)を積極的に発信していく努力をし続けなければ、お客様にはなかなか伝わらないのではないでしょうか。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?