水引と、出会い直す旅
とうとう、かねてより行きたいと願っていた長野県飯田市に行ってきました!
長野県飯田市は、日本で一番と言われる水引の産地。インターネットで検索すると、いくつかの製造・販売をしているお店が上がってきます。私は2018年、書店員をしていた頃に出会った主婦の友社の「水引飾り はじめてセット」がきっかけで水引作品をつくり始めました。主に自分で身につけるアクセサリーです。
ボランティアでお手伝いしている「まちライブラリー@ざま ほしのたに文庫」にて月に一度のペースで『水引セラピー』というワークショップをしています。文庫のひと箱本棚オーナー仲間で11/26(日)のマルシェに出店することになり、いよいよ手持ちの水引の在庫では満足できなくなっていました。
私の生活圏内で水引を買うとなると、3色各5本ずつが丸められた500円前後のアソートパックがほとんどです。欲しい色を買うにも不要な色もついてくるため、使わない色がたまっていくのです。ああ、実際作っている土地へ行って、まっすぐな状態の水引を好きなだけ買いたい! という思いが日に日に私の中で募っていきました。
夫は運転が苦ではないため「近い内に私を飯田へ連れていって」と何度か夢を話す内に、思い切って行こう! ということになりました。
満を持して、9/30(土)の朝、長野県を目指して出発!
最初の驚きは、中央自動車道、八ヶ岳PA。夫と信玄餅ソフトクリームを買って、外のベンチに腰かけた時です。
窓越しのフードコートのカウンター席に等間隔に並ぶ、水引の花、花、花……! 私は、はしたなくも信玄餅ソフトにかかったきなこを飛ばしまくり、興奮が抑えられません(もちろん飛ばしたきなこはきちんと拭き取ってきましたとも)。
白い可憐な花(種類はわかりませんでしたが葉もたくさん、大作でした)、いくつもの赤い彼岸花……。なんと、白い花には虫がとまっているではありませんか! 何やら必死に脚をすりすりと動かしています。蜜を吸おうとしているに違いありません。ソフトクリームをなめながら、夫はおもしろがっています。
フードコート内のカウンターで食事中の人々は、水引の花たちには誰も注目していないように見えました。気づいてさえいないかもしれません。人間は自分の見たいもの、見ようとしたものしか見えないということを実感しました。
ソフトクリームの包み紙を捨てようと、ゴミ箱を探してきょろきょろしていると、厨房の中から女性の店員さんが「ゴミですか? もらいますよ~」と声をかけてくださったので、迷うことなくたずねました。
「あの水引のお花は、どなたがつくっていらっしゃるのですか?」
「うちの従業員なんですよ。今日はお休みで、いないんですけど。つくってるんですか?」(と、私のピアスやマスクチェーンに視線を)
今回の旅行の目的をかいつまんで説明すると、「ああ、その人も飯田へ水引を買いに行ってると話してました」とのこと。夫曰く「長野に近づくにつれて、こういうことがあるんじゃないかと思ってたんだ」。調子いいなぁ(笑)。つくった方にお会いできなかったのは残念ですが、お話した店員さんが「(私と話したことを)伝えておきますよ」とおっしゃったので、今頃その方にも伝わっているでしょうか。
この日は、途中の塩尻市の健康センターで温泉に浸かって仮眠室で雑魚寝です。私はとにかく水引にお金をかけたくて、いろいろ手配を買って出てくれた夫に「泊まるところは最低限でいい」と伝えました。とはいえ、あまり眠れないかもなぁと少々覚悟はしていたものの、うまい具合に女性専用仮眠室の一番奥、壁際の寝床を確保できた私は案外よく眠れました。一方の夫は左右の方のいびきでほぼ眠れなかったんだとか……。
翌朝、再度温泉に行き露天風呂に出ると、なんと雨が! あの耐えがたいほどの猛暑の日々が嘘のように肌寒いような朝でした。用意していた半袖を、急遽長袖のワンピースに変更。
さすが強力な雨女のワタクシ、嬉しいと雨が降ります。6年生の遠足、雨。中学の卒業式、雪! 高校の卒業式、嵐! 結婚式は、なんと大雨! 雨降って地固まると申しますが、いくらなんでも結婚式の日はひどすぎる大雨でした。
今回の旅も、念願の飯田市に入る日は、朝から降ったり止んだりのぐずついたお天気ではありましたが、私の心は晴れやかでウキウキでした♬
まず最初にお邪魔したのは、水引工芸館 髙山さん。
お店に入るとご夫婦らしきおふたりがいらして、猫をかぶったまま商品の並んだところを一周して「あの~、水引の材料じたいって……」とモジモジしながら聞くと、奥さまが奥の売り場を案内してくれました。そして、見たこともないような色とりどり、何百種類もあろうかという水引の長いままの姿に感激し、はぁはぁ言っているアヤシイ私を見るなり「上手に作っているね」とほめてくださったのです♬。
この日は松結びのバレッタをはじめ、ピアスやブレスレット、リングとマスクチェーン、スマホのストラップなどなど、自分でつくったものをいろいろつけていました。
ふだんの生活の中で水引のものをつけていても、水引と言わなければわからない方も多いですし、言ったとしてもピンとこない方もいます。でも、さすが飯田! そのあと行ったJR飯田駅前のお土産物屋さんでも、観光案内所でも、皆さん「自分で作っているんですか? すてき~」とほめてくださいました。嬉しい!
水引工芸館 髙山さんで、人生初の爆買いをしたあと、「さすがに腹減った、丼々恋ってあの看板が気になる」という夫の言うままランチとなりましたが、ふだん大喰らいの私が珍しくレディースセット的な、小さな丼メシで済ませました。たくさんの美しい水引たちを見て胸がいっぱいで、不思議とお腹が空いた感覚がなかったのです。
ちなみに長野県飯田市は焼肉屋さんが多く、助手席の私は焼肉屋さんを見つけるたび「あ、ほらまた焼肉屋さん!」と子どものように夫に言いながら、不思議に思っていました。その答えは10/2(月)にJR飯田駅前の観光案内所内にあった「南信州飯田 観光ガイド2023秋冬」に載っていました。
そういう経緯があったのですね。やはり、その土地に行って実際に空気に触れ、自分の目で見ないとわからないことばかりです。
今は買い物もパソコンやスマホで簡単にできる時代ですが、クリックひとつで水引を買っていたら、飯田市に焼肉屋さんがたくさんあること、その背景などは当然知らずにいたでしょう。今回の旅は食事を適当に済ませてしまいましたが、次回また訪れる時はぜひ焼肉屋さんに行こう! と思いました。
さて、その次に向かったのが飯名水引さん。
ここは、夫がスマホで調べて連れて行ってくれたのですが「飯名水引↑」との道端の看板を見つけて進むも、どんどん道は細くなり、行けども行けどもそれらしいところにたどり着きません。カーナビは目的地を過ぎて「お疲れさまでした」などと非情にも音声案内を終了しています。
仕方なくいったんふりだしに戻ってみることに。看板の出ていたところを素直に入ってしまえばよかったことに気づき、恐る恐る車を入れると、歳の頃は60代後半〜70代前半くらいと見られる男性がひとり立っていました。
「さっき電話くれた人?」「はい、そうです」夫は私の知らない内に、事前に行く旨を電話しておいてくれたようです。農家の納屋のような場所に案内されると、左側の棚には筒に入った水引がたくさんありました。ご主人と同世代と見られる奥さまもやってきて、話しながら欲しい色を選んで行きました。
店主の文雄さんは、とてもお話好きな方のようで、水引にまつわるいろいろなお話を聞かせてくださいました。しかも、買った分の水引以外にも「お釣り出さないから、これとこれもよかったら使ってみてくれ」と言ってお値段以上のサービスを! 夫に言わせると「遠くから来た上に、実際に水引を作っている人と話せることが嬉しいんだろうね」とのこと。逆の立場だったとしたら、と考えると確かにそうなのかもしれません。
「大きなストーブですね。やはり冬はかなり寒いですか」と夫が聞くと、文雄さんが「マイナス5℃ぐらいになるよ。このあたりは雪はあんまり降らないんだよ。そのかわり、うんと寒い」「えぇ~! マイナス行くんですか」「それは寒い……」夫も私も驚きましたが、「いや、寒いのはもう慣れた。それより暑いほうがこたえるね」「確かに今年の夏の暑さは異常でしたね」
かじかんだ手をストーブの火であたためながら、作業をするおふたりの姿を想像してみました。
さらにそのあと、向かいにある作業場へも入れていただき、たくさんの作品を見せてもらいました。ちり棒という、水引の先端を入れて回すと水引がくるくると丸められる専用の道具もここでゲット。こちらもとってもお安くしてくださいました……感謝。
単に水引材料や道具を買う、ということだけでなく、水引にまつわるいろいろなお話を聞くことができ、出会えたことに感謝しつつ飯名水引さんをあとにしました。いただいた名刺に「休み殆ど無し」とあり、吹きそうになりました。私ももっともっと練習して、今よりもうまく結べるようになりたい!
このあとJR飯田駅前の商店街にて、家族にお土産を……とお店をのぞくと、とてもかわいい雷鳥さんにひと目惚れ! 思わず「連れて帰る……」とつぶやくと、お店の方が「その子最後の1個なんですよ~」と。
この日は飯田市のホテルで一泊、もうお腹いっぱいというか、胸がいっぱいというか、外へご飯を食べに行く余力が残っておらず……
なんと、夫は19時半ぐらいにはすやすやと寝てしまいました。ずっと運転ですし、無理もありません。
翌朝は晴れて気持ちの良い朝。まずはJR飯田駅で、昨日のお店にてお土産を買い足します。駅の近くには観光案内所があり、中を覗くと……
本当にたくさんのみごとな大作が展示されていました。案内所の女性の方と少しお話したあと、この日は大橋丹治さん、田中宗吉商店さんの店舗を訪ねました。
大橋丹治さんは一番会社らしいところで、セットになった水引を買い求めると印刷の色見本をいただいてしまいました。遠くから来てくださったから、と。これがあるだけで、ネットで買う時の便利さは桁違いになると思います。
次に向かったのは田中宗吉商店さん。
なんと、明治10年創業。140年続く老舗です。1998年の長野オリンピックの際、公式記念品、つまり日本からのお土産として飯田の水引が採用され、田中宗吉商店さんが6点すべての商品を担当した、とサイトに書かれていました。
こちらでも、社長の田中さんといろいろお話ができ、お忙しい中おつきあいいただいて、嬉しく楽しいひとときでした。
そして帰り際、由緒あるお庭の中も見せていただきましたが、特に「やはりここにも来てよかった!」と思ったのがこちら!
今回の長野県飯田市への旅は、ひとりで高速バス等で行こうと思っていましたが、夫が車で連れて行ってくれることに。公共交通機関を利用するとしたら、水引を買って持って帰るには、せっかくのまっすぐなものを丸めなければなりません。
それ以前に、電車やバスでそれぞれの製造・販売元を訪ねるとなると、土地勘もなく地理に弱い私では到底無理だったでしょう。100%私の趣味につきあってくれた夫に感謝です。
もちろん、買い込んできた水引たちはまだまだたくさんあるのですが、使い切る前に既に、また飯田市へ行きたくて、どうやら心をかの地に置き忘れてきてしまったような心地がするのです。
※お店さんには、写真とこのnoteの文章に書くことをお話しし、了解を得ています。