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息子ってヤツは①

「たまには顔を見せてやれよ。喜ぶぞ」と言う夫の声とともに階段を上がってくる足音がして、入って来たのは28歳になる二男だった。我が家を出てから一年半、今月で結婚して一年になる。

「顔を見せに来てやったぞ、『ルリさんに』」

ルリさんとは我が家の家族の一員、御年14歳の猫さまだ。

「はいはい。憎まれ口ですね。そんなの想定内だ。はい、私にも顔を見せなさーい」

といささか芝居がかった口調で言い、二男の顔を両手で挟みこちらに向けてやった。ウザい母親をわざと演じてやったのだ。

思い起こせば10年前、この二男と今の家を出てアパートを借り、3年ほどふたりで暮らした。私が夫と離婚したい、と思ったからだ。当時大学3年だった長男、高校3年だった二男、高校1年だった長女の意見は3人ともバラバラで、不謹慎ながらもおもしろいなぁ、三人三様なんだなぁ、と感心したものだ。

二男と暮らしたのは、二男が私を気持ちの上で味方してくれたからだ。「母さんが家を出て行くと言うなら俺は母さんと一緒に住む」という言葉は、これからたったひとりで生きて行くのだ、と実は心細く思っていた私の心の中にひとすじの光をくれた。実際はたったひとり、なんてことはないのだけどね。

あれから既に10年も経っていたことに気づき心底驚いている。

息子を溺愛する母親を見て、気持ちは分からなくもないけれど複雑な気持ちになることが多々ある。息子の成長の妨げとなるような、外の世界への冒険を制限したらそれなりの器になってしまうんだろうな、と思って何も聞かずに「行ってらっしゃい。気をつけて帰って来るのだぞ」と言って送り出す。

1,300ccの大型バイクを駆る二男が、危ない目に遭わないようにと出かける前にバイクに触れる。「こいつを守ってやってくれ」と。

妻を娶ってからというものすっかり手を放してしまったが、長男は言ってくれなかった「俺、大きくなったら母さんと結婚する」というこそばゆくて小っ恥ずかしい台詞を言ってくれたのは二男であった。前世からの並々ならぬ縁を感じずにはいられない(笑)。

この二男の妻という人が話も趣味も合い、とにかく私好みの嫁どのだ。二男はもうどうでもいいと言えば聞こえは悪いが、二男のお嫁さんともっとたくさん話したいし一緒にやってみたいこともたくさんある。

息子とは、むしろ他人のような感覚でつかず離れず。新しく縁あって同じ苗字になり家族になった女性たち(長男のお嫁さんのこともまた書きたい)ともいろんな思いを共有できたら楽しい。男どもはほうっておいて、姑と嫁たちで楽しみたい。こんなふうに思ってるのは私だけかな。きっとふたりの嫁はつきあってくれるはず。



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