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セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…5

店へ戻ると、酔い潰れた川崎さんが、カウンターへ突っ伏して眠っていた。アタシは、カウンターを挟んで寝息を立てている川崎さんをしばし眺めてみたが、その内にそんな彼女へ顔を寄せると、唇をすぼめて、そのおでこの辺りへ息を吹き掛けてみた。フェイクじゃなかった、完全に落ちていた。いや、そのはずだ。そして、なんだか、彼女の髪は少々臭い、心なしか潤いに欠け、パサついてもいた。手入れをする暇もないぐらいに、あのJKはヤバい案件なのだろうか……?
で、顔を戻したアタシは、飲み掛けのワインボトルのキャップを探して、その栓を閉めた。
どーにもアンニュイな疲労感の混じる空気が漂っているこの空間に、‛欲望‚のサントラは恐いぐらいにハマっていて、咄嗟にアームを摘まんだアタシは、針をホルダーへと戻した。
静寂に、寝息が溶け込んでいく……。もっとも、未だ眠たくなかったアタシは、ワインボトルを手に取り、二階の寝室へと向かうことにした。チビチビやりながら、読み掛けのミステリー、‛友よ、戦いの果てに‚でも読み耽よう、そう決めたからだ。
ミシミシ軋む狭い階段を昇りきったアタシは、傍らに位置する寝室のドアノブに手を掛けて押し開いた――

ん!? アタシ、ドア閉めたっけ?

そう思いながら、半開きのドア脇をすり抜けると、視線の先のベッドでJKが眠っているのが見えた。
アタシは、取り残された気がした。そして、一抹の自己嫌悪にも……。何故なら、川崎さんは、家捜しをしていなかった事になるからだ。気付くと、アタシの視線は階段の方を向いていた。店へ駆け降りて、川崎を揺り起こそうという感情に支配されたのだ。が、一瞬の後、おもむろにベッドの方へと視線を戻したアタシは、改めてマジマジとJKを眺めてみた。アタシをハメたクソったれJKをね……。彼女はブラウスに制服のスカート姿であっさりとそこに居るのだった。
「……」
と、自分の心の内が炙り出されて来るような気がして、どうにも仕方がなかった。それは、JKに付け込まれた何かの存在を、アタシの裡に見いだしたというに等しかった。だから、アタシは静かにドアを閉めると、ベッドの方へと近寄っていった。彼女の言い分を訊くために、だ。
もっとも、急いで言い訳を付け加えるなら、思い込みは判断を誤らせる、っていうこと。家捜しの件で、改めて意識させられた教訓だ。
よって、アタシは、自分の甘さに溺れてみることにしたって訳……。けど、そんな自覚のお陰もあって、甘さは甘さでも、シュガーレスなそれを目指すアタシは、クローゼットの片隅に放置していたボストンバッグから、昔取った杵柄な羞恥プレイ用のグッズを取り出すことにした。埃を被ったボストンバッグのファスナーを開いて中を漁ると、ストラップ式の手枷、足枷を取り出した。あると思っていた口枷だけは見当たらなかった。さて、どうするか?
案外、深く寝入っていたらしいJKの四肢を手早くストラップで拘束したアタシは、尻ポケットの何かに違和感を感じながらデニムを脱ぎ捨て、ショーツを脱いだ。薄い水色のそれは、少々染みが目立ち、そして臭っていた。それを、どうするか?
JKの鼻を摘まんだものの、浮き出た脂のせいで掴みそこねたので、ピースサインを作ると、その二本の指を彼女の鼻の穴へと挿入した――
ハッと両目を開いて、悲鳴を迸り掛けたJKの口内へ、丸めたショーツを押し込めた。年代物のベッドがギシギシ軋み、店舗で眠る川崎が察しないか気になったが、バタつかせる四肢が拘束済みなのに気付いたJKは、フッと傍らで見下ろしているアタシの視線を捉えると、脱力したみたいに静まりはしたものの、その目力は逆に勢いを増していた。当然、キッと見返したアタシに、JKは視線を逸らさぬまま頷き掛けてきた。
「何よッ?」
アタシは、思わずそう口にしていた。
「ウグゥアゥイ! ングゥルゥ……」
「何言ってんの? っていうか、叫ぶなよ……いい?」
うんうんと頷いてみせたJK。ただ、その目力は未だ衰えをしらない。アタシもそれには負けない。けれど白黒の判断は控えている。じゃー、そろそろ彼女の主張だか、言い訳だかを聞いてやるか。で、さっさとケジメをつけに、店へ降りて、川崎さんを起こせば事足りる。
アタシは、JKの口からハミ出してるショーツの端を摘まむと、そろそろと引き抜いていった。それは、予想外に手応えがあった。彼女の唾液がたっぷり染み込んでいるらしいそれを、彼女もまた噎せながら押し出していた。
と、ツツーッと唾液が糸を引きながら、ショーツの残りが全て吐き出され、JKの軽い咳き込みがそれを裁ち切ると同時に、アタシはショーツをホッポリ捨てた。プーンと異臭が鼻に届いた。グシャッという音がした――
「臭いって!」
思いの外、でかい声で愚弄されて、勢い苛立たしくその口を掌で塞いだ。まー、言ってることには嘘はない。よしよし、良い出だしだよ、後輩。
「いい? 今みたいに正直に話しなよ。店にさ、川崎さん居るんだ。酔って寝てるけどさ。アンタの言ってることが嘘だなと思ったら、このまま放置して、川崎さんにアンタを引き渡す。分かったかな、後輩?」
「……分かったァ」
そうレスったJKの声は妙に掠れていて、口許からは溜まっていた涎が垂れた。
アタシは、右手を伸ばすとその甲でもってJKの顎から口許まで垂れた涎を拭ってやった。
「……先輩」
JKのレスは、なんだかウルウルした両目を伴っていて、アタシのどこかへ何かを訴え掛けてくる。またしても、アタシの甘さへ付け込んでいるのかもしれない……。アタシは、甲の涎が未だ乾いてないのを意識しながら、改めてJKへ念押しをすることにした。
「で、あのホテルでアンタは何をした訳? 嘘は要らないんだからね、後輩……」
こう訊ねたアタシは、甲の涎を、あの独特の香りをそれとなく嗅いでいた。

続く

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