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セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…7

JKの話は一通り終わった。さて、真意の程は……? このところの川崎の動きは、なんとなくJKの話を裏書きしているような気がしなくもなかったけれど、それはようするに川崎さんが警察の名の下にアタシを騙している、そういうことでもあって、だからこそJKの話を否定したい誘惑にかられるアタシという存在もまたあるのだった。
だからこそ、アタシがやれること、ううん、やれるべきことは一つしか考えられなかったから、アタシとJKは今、こうして連れ立って抜き足差し足で階段を降りているという次第だった。ミシミシいう音が、‛ア・デイ・イン・ザ・ライフ‚のコーダ部分をふと思い出させたけど、案外、余裕あんじゃん、アタシ。
で、当たり前だけど、アタシたちはじきトイレへと到着した。ただ、ドアを開くと何かが違って見えた。いや、そんな気がした。
「なんか、違う。どお?」
「分かんないよ。一回入っただけだし」
アタシたちは、意識して小声で囁きあっていて、‛ミツバチのささやき‚を思い出してしまった……。まだまだ、余裕綽々、多分。
アタシは、JKへ促すように顎を振った。JKは、それを察してアタシへ背を見せると、タンクへ近寄ってタンクの蓋をずらし、中を覗き込み、その内に右手を挿入していった。その動きに連れて、チャプチャプいう音が起こったけれど、何故だかそれが場違いに聞こえて仕方がなかった。と、JKがその手を静かに抜いていったが、その手先には何も見当たらなかった。JKは、更にその背を丸めると、首を突っ込みかねない勢いで、改めてタンク内を探りだしたものの、その内にフッと動きが止まった。
「ないって、か?」
アタシは、背を丸めたままのJKへ、そう囁いた。JKは、静かに上体を起こすと蓋を戻して、便座を跨ぎ、脱力したように腰を下ろした。タンクの見た目は違和感なく、シックリときた。ということは、前回JKがタンクにブツを隠した時にも、アタシは違和感を感じなかったに違いなく、実際そうだったのだけれど、さっき何かが違って見えたということは、蓋の位置が微妙にズレていたということだったのだろうか? それはつまり、何者かがタンクをずらしてブツを持ち去ったという可能性を示し、だからJKの話自体が嘘なんじゃないかという疑いはかなり低くなる……はずだった。だから、消去法から自ずと答えは導かれるだろう。そう、それしかない。あー、クソッ! マジかーッ!!
「ちょっと待ってて、ここで」
「いいけど。先輩、どーすんの?」
アタシは、トイレを出かけたところで振り返り、こう答えた。
「ちょいと」
項垂れていたJKが、フッと首をもたげて、アタシを見据えると、こうレスった。
「先輩、もしかして、アタシを売る気?」
「もう、売り時逃したんじゃない……いいから、待ってて」
そう言ったアタシは、トイレを出ると暗号めいたノックをドアで奏でてみせた。
「山、川みたいなやつ、先輩?」
「鋭いじゃんか。けど、川はいらないよ」
アタシは、後ろ手にそっとドアを閉めかけたが、その途中でJKが声を掛けてきた。
「先輩、ワインボトルにはゴム被せないの?」
「黙れ、黙れ、黙れおろー!」
まー、お互いに小声での応酬ではあったが、それを潮に店へと向かった……。
と、仕切りのドアに隙間をつくって、カウンターを覗いた。案の定、そこに川崎の姿はなかった。アタシは、ドアを開け放つと店へと入った。店内のどこにも川崎の姿は見当たらなかった。吹き込む夜風に、アタシは自らの汗ばんだ肌を知った。顔を向けると、出入口の開け放たれた引き戸の向こうに、1/3程シャッターが上がったままだった。
アタシは、ズカズカそこまで進むと、一気にシャッターを下ろし、引き戸も閉めて、その錠をロックした。そして、今閉めた引き戸へ背を向けると、弛緩したようにそこへ寄り掛かった。すると、尻から腿の裏辺りまでがヒンヤリとした。そういえば、アタシは、ノーパンのままなんだ――
不意にハッとしたアタシは、トイレへ駆け戻り、暗号めいたノックをした。開いたトイレドアから顔を出したJKへ顎を振ると階段へと急ぎ、寝室へ向かった。ギシギシ軋む階段の音色が響き、背後でそれがユニゾンみたいに続いた。少し遅れて寝室へ戻ったJKを尻目に、アタシは脱ぎ捨てたままだったデニムを拾い上げていた。というのも、脱いだ時に感じた違和感、それをさっきヒンヤリした尻でもって思い出したのだ。
で、慌てて尻のポケットへ手を突っ込んだアタシは、やはりそこにそれを見いだした。それは、心当たりの無いボールペンの形をしていた。そう、勿論、それは盗聴器なのだろう。川崎は、寝たふりをしながら、盗聴を続けていたのだ。ドアも閉めずに、仕切りの所に立ち尽くしたJKへ、アタシは、問い質した。
「アンタさ、何時からここで寝てた?」
考え込みながら、ベッドへ進んだJKは、崩れるようにそこへ突っ伏すと、枕へ顔を埋めながら、うーんと呻いていたが、じき息継ぎするみたいに顔をあげるとこうレスった。
「アタシ、閉まってたシャッター見て、どうしようって思ったんだけどさ、試しに上げてみたら開いたから、入り込んで、トイレへ駆け込んだんだ。それでさ、ブツ確認したらホッとしたみたいでさ、で、ちょっと寝たくなって、探したら、ここ空いてたから……」
「だから、それ何時なのよ?」
再び枕へ顔を埋め唸り始めたJKは、が、すぐにハッと顔をあげると、おおよその時間をアタシに告げた。その時間は、どうやらアタシがホテルに到着した頃のようで、多分それから程無く到着したのが川崎で、彼女もJK同様の流れでおそらくシャッターを上げ、店の様子を窺い、で、思い立ったのだろう、家捜しをしたのに違いなく、そして勿論ここで眠るJKを見付けたのだ。にもかかわらず、JKには手を出さず、敢えてアタシの帰りを待つことにした。何故だろう? ブツの行方……、そうなんだろうな、きっと。海老で鯛を釣る、ってヤツ? まー、その心は知れないけれど、流れに身を委ねることに決めたのだろう。それに、果たしてアタシが実際のところどこまで首を突っ込んでいるのかもついでに分かりゃラッキーってなつもりだったのかもしれず、故に隙を見て、アタシのケツポケへボールペンを挿し、そんで、まんまと鯛を釣りやがった!

チキショー、やられちまったよーッ!!

無性に自分に腹が立った。けれど、同時に更に訳が分からなくなった。いったい、ホテルで殺しあった二人はどういう奴らだったのだろう? JKの件でアタシに会いたいと言っといて、店へ現れたってことはさ、ホテルの連中とは連絡を取り合っていない可能性もあるってことだし、だとすると、川崎一派じゃないのだろうか? マッポの連中以外にも、ブツは追われているってわけ? ハイエナ共が嗅ぎ付けて、今や金の成る木、すなわちブツの、血まみれの争奪戦と相成った、って?
「あー! チキショー、面倒くせー!!」
そう叫んだアタシは、ベッドの空きスペースへ飛び込んでいた。ベッドは、しばらくミシミシ軋み、そして揺れていた……。
やがて、訪れた静寂に、埋めた顔を向こうに捻れば、JKもまたこちらを向いていて、期せずしてウチラは見詰め合っていた。
「……先輩?」
「ん……」
「どーしよー?」
「まー、なんか掛けるか」
アタシは、一旦床へ降りると、脱ぎ捨てたままのデニムのポケットからスマホを取り出しベッドへ戻った。変わらぬ姿勢のJKへ、背を向けたアタシは、スマホを弄って音楽ファイルを開き、音楽ファイルから一曲選んでプレイした。なにを? うん、なんとなく‛ジグソー/スカイ・ハイ‚をねぇ。スマホのディスプレイ上では、スカイ・ハイのシングル盤スリーブが回転しながらそのメロディーを再生し始めたが、ふと思い立ち‛スカイ・ハイ‚をBGMに吉川へメールを打っておくことにした。

例のホテルにスマホの落とし物がなかったか、例の二人に確認お願い!

「気持ちいい曲だねェ。先輩、あのさー」
「ん?」
「アソコ、毛深いね?」
「後輩……、うるせー!」
そう毒づいたアタシ……。と、ゴロゴロって後輩へ伸し掛かると、マウントを取り、そのまま一気に両膝立ちで顔まで這い進むや、そこへ座り込んだアタシは、所謂顔騎状態で愚痴った。
「ったく、何が先輩だよー! 面倒クセーことに巻き込みやがってさーッ!!」
ジタバタと身動ぎながら噎せるJKの頬を太腿でギュッと挟みつつ、頭んなかじゃいつもと同じことを考えていた――

ジッとしていちゃダメ。取り敢えず一寝入りしたら、なんでもイイ、行動しなきゃだ!

‛スカイ・ハイ‚は雄大な間奏に入ってるし、アソコが少し感じちゃうしで、天井向いて哄笑迸らせ、開き直ったアタシの図、一丁上がり!

嗚呼、なんか疲れた……。

アタシはJKの隣へバッタリ仰向けた。
「金さえあればな……」
「アンタ、強請るつもりだったんだ」
「まだ、諦めてないよ」
「ま、残念だったね……」
「先輩には分かんないだろうな」
「分かる、つもりだけどな」
「知り合う前の、昔の先輩なら多分。けど、こんな店あってさ……そうそう、ウチさ、久しぶりにぐっすり寝れた」
アナタとアタシとは違う、ってことが言いたいわけね。
「先輩、どーすんの?」
そう言いながら、じゃれつく仔猫のようにJKが、アタシの上体へ這い登り、胸の辺りへ頬を擦り付けてきた。この娘の頃、アタシはこんなに他人へ甘えただろうか……? なんだか、切ない感情に飲み込まれてしまいそうだった。気付けば、JKの背を、そしてその短い髪を撫でていた。JKの汗臭くもそれを上書きする程の若い匂いに、アタシの鼻腔は満たされた。しかし、この髪のベタつき。そういえば、ホテルのシャワーで髪は濡らさないものだよな……、不意にあの頃が甦ったアタシ。何人もの男や女がアタシを通り過ぎることで、アタシは日々の糧を手にしていた、そんな日々を……。そして、そんな日々から、アタシは一つの教訓を得た――

ジッとしていちゃいけない!

改めてそう思ったアタシは、夜が開けたら、行動に移るだろう。
しっかし、こいつ汗臭いな、よっぽど逃げる時に冷や汗掻いたんだろうな。にもかかわらず、それらが妙に性欲に訴えかけてくる。なんか、こう、腿の付け根辺りがモワーッと疼く。このアタシにしてそうなんだから、好き者にはたまらないはずだ。アタシも随分それを武器にして稼いだから分かるんだよね……。
アタシの下半身を跨いでモゾモゾ身動いだJKは、自らの頬をアタシのそれに重ねると、溜息とも吐息ともつかぬそれをフッと吐いた。耳を震源に、ゾゾゾーっと快感が沸き掛けた。恥ずかしかったが、それを悟られはしなかったはずだ。だって、JKはいつの間にやら寝入っていたからだ。
アタシは、彼女の寝息に、体温に、香りに自分を乗っ取られそうになっていた……。仕方無く、両目を瞑り、彼女の寝息に合わせて呼吸をしてみた。その一体感、けど、アタシでもない、JKでもない、そんな何かからフェイドアウトしていく自分……。
薄れ行く意識のなかで、ふと気付き、そして思った。

そう言えばさ、この娘の名前ってなんだろ?

起きたらアクション起こす前に、先ずは訊いてみることにしよう。そう決めた頃には、スーッと眠りに落ちていた――

続く

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