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小説☆セックス、トラック&ロックンロール・シリーズ

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中古レコード屋の雇われ店主 サキ が遭遇する、少々ストレンジかつビザールな出来事を描く連作短編小説♪
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#短編小説集

セックス、トラック&ロックンロール・ミルク買うブルース …2

    アタシと吉川との間で立ち止まったルミ姉さんは、さっきみたいにアタシの腰へ右手を添えた。無言のまま奇妙な時間が過ぎていく。ううん、実際は10秒ぐらい。それなのにその時間はどうにもたわんでいていたし、それは毎月この日には付き物の時間だった。  と、その場に相応しい絶妙な音を立ててカウンターへコーヒーカップを戻した吉川は、ストゥールを降りるとそんな時間のたわみなどをものともせずに玄関から出て行った。それを見送ったリョウ兄さんは、ルミ姉さんへ向き直ると静かに頷いてみせた。アタ

セックス、トラック&ロックンロール・ミルク買うブルース…1

    何をするでもなくカウンター裏の丸椅子に座ったアタシはプレーヤーで回転するレコードを眺めていた。値札を付け、品出しをし、ネット販売で購入したお客への配送業務をも済ませ、もうレコードを眺めるぐらいしかすることはなかった。  昨晩から降り続く雨で、客足もまばらなうえ、それもとっくに途絶えていた。カウンターには読みさしの文庫本が開いたままで伏せてある。ウィルフォードの『危険なやつら』だったがいくら読み進めてもちっとも連なりとして文字が頭に入ってこなかった。つい先日までは最高