全国公開アニメ映画「スプリンパン まえへすすもう!」謎の解説と込めた思い。
「スプリンパン まえへすすもう!」5分(※1)という短編も関わらずTwitterでたくさんの反響を有難うございます。今日は、スプリンパンに秘められたいくつかの謎について監督、脚本等をした私、井上ジェット( @jetinoue )から話したいと思います。
※1……「スプリンパン まえへすすもう!」は映画「人体のサバイバル!/がんばれいわ!!ロボコン」と同時上映での公開です。
こちらが、スプリンパンの映画公開中の最後の記事になると思います。
「スプリンパン まえへすすもう!」に秘められた謎と、作品に込めた思いについて。
●お母さん=「年齢不詳」設定の謎
映画には主人公スプリンパンのお母さんが少し登場しますが。お母さんの年齢は「年齢不詳」にしています。これは、映画を見てくださった親御さん=お母さんが自分自身を投影してもらいたいと思い、お母さんの年齢は設定しないことにしたのです。また母親像の年齢に対するコンプレックスを感じさせたくなかったという気持ちもあります。
それに対して主人公スプリンパンは12才という明確な設定があります。これについては後述いたします。
●はちゃめちゃ楽しい映画「スプリンパン」の謎
スプリンパンはどんなアニメにしたかったかと言えばそれは一言
――「はちゃめちゃ楽しいアニメにしたかった」ということ。
朝起きて、いつものように始まった1日だと思って外に出てみたら……街の人がみんなサンバを踊って歌ってた!しかも1日中ソレ。みたいなことがあったらヤバい面白さでしょう? 常識的な人だった心配するくらいの光景ですよね。でも、そんな世界に巻き込まれたら楽しいと思いませんか。ちょっとだけ巻き込まれてみたいと思いませんか。それが、スプリンパンのアニメのビジョンだったのです。
――しかも、もっとヤバいことがあります。
出演者や監督、作曲家に、ノリノリの人たちばかり集まってしまいました。黙っていればすぐ踊り出して歌い出すような人たちばかり。異常ですよ。ヒューヒュー!ヘヘイヘーイ!って、簡単になります。
こんなの、はちゃめちゃ楽しいものが出来上がるしかないですよね。
またその前向きなパワーの圧力が増すように。アニメの要素のいたるところが「前向き」であるかどうかを考えて作りました。顔の向き、セリフの言い回し。全力前向きにしました。最後の最後のお別れの場面だけ、ちょっと後ろ向きですが。
●お母さんが空に浮かぶ謎
映画を見た方は、お母さんが夜空に浮かぶシーンで滑稽に見えた方もいたようです。しかしここは重要な場面の一つでした。
――スプリンパンに密かに込めたテーマは「母と娘のコミュニケーション」
現代は、SNSやスマホがある時代。メッセージアプリだけが伝えたいことのすべてと誤解が生まれることもあります。けれど、本当はもっと奥深い思いがある。
スマホを覗かなくともメッセージのやり取りができなくても、相手のことを思う気持ちがあることを想像してほしいと思ったのです。
あの空の浮かぶお母さんは、スプリンパンがいつでもお母さんのことを想っている。お母さんが居ない時でも、母ならどう答えるのかな? と想像している表現の描写なのです。相手のことを思っていると気持はテレパシーのように伝わることもありますよね。テレパシーのように通じてしまったときって可笑しかったりもします。SNSやスマホの時代ですが、想いが通じることの大切さを表現したいと思い、あのような表現を取り入れました。
――なので、スプリンパンのお母さんが亡くなっているという意味ではないのです。
しかしながら私事となりますが、監督である私の実の母親は40代で亡くなりました。スプリンパンが映画で公開されたことは母にも報告したく、お盆なので先日やっと報告してきました。そして夜空を見れば、なんとなく夜空に浮かんだ母親と会話ができたような気もしました。母は微笑んでくれていたような気がしました。
――地面を見るより、夜空を見て、まえへすすもう!(ジェット)
しんみりしてしまったところで最後の謎!
●キャラが観客のほうを向いている謎
見た人は気づいたと思いますがスプリンパンでは多くのシーンで登場キャラが観客のほうを向いています。普通の映画は、登場人物同士が向き合って会話をしますよね。カメラ目線はほとんどありません。
しかしスプリンパンで登場キャラクターを画面のほうに向けたのには理由があります。
それは、お客さんも登場人物のような感覚になってほしかった。
――という理由です。
観客も一緒に、ちいさな旅に参加している気持ちになって欲しい願いを込めました。一緒に旅ができたらとても楽しいじゃないですか。そして感想やコメントを拝見しますと、今回、それは少し成功しているのではないかと思いました。こうした挑戦を込めてスプリンパンを作れて本当に良かったなと思います。
また、スプリンパンが春、スノミーメイが冬を比喩したキャラクターだという推察もございました。夏は? という疑問。
実はこれ、お客さんが夏なのです。また来年も季節を一周して夏に会えたら良いですね。(←注意:何かを意図していません)
●カット数が少ない
またスプリンパンは舞台芸術型のアニメにしているということはTwitterの投稿で少し紹介しました(こちら)が、同じ場所に一緒にいる感じを出すために「カット割り」と言われる「映像の編集箇所」を極力少なくしているという手法を取っています。
スプリンパンと、スノミーメイが歌って踊る『夢の冒険』のシーンは1度だけカットの編集箇所があります。ということは「2カット」だけで構成されています。また山どんとスノミーメイのパ・ド・ドゥ(二人で一緒に踊る)のシーンでは編集箇所はなく1カットでつながっています。このように極力、途中で映像を区切らないようにしているのです。
またできるだけ足先まで画面に映るようにカメラワークをつけているということを同時にやっています。これもその場にいるような臨場感を出すための演出の一つでありました。
●キャラクターの過去に秘められた謎
最後と書きましたがもう一つ。リンゴリーダーって何者なの? 山どんの過去が気になる? と気にしてくださった方、ありがとうございます。彼らはたまたまリンゴや山のかたちをしているので個性的故、過去が気になったと思います。もちろん過去のお話はあるのですが物語中には語られていません。
ここで込めた思いは、人には誰しもそれぞれ過去がある。
ということなのです。人それぞれに、がんばっていた時期、成功や失敗を繰り返してきたいろいろな人生があるのです。リンゴリーダーや山どんだけでなく、自分のお友達や家族、会社の人、街往く人にもそれぞれあるのです。しかしスプリンパンが山どんたちの過去に突っ込まなかったのは……さすが12才の女の子、今その人と一緒にいることが、一番楽しいってことなんです。
映画館で一緒に映画を見たお客さんにもそれぞれに、いろいろな人生が詰まっています。一緒に映画を見た旅の仲間の中に、山どんやリンゴリーダーがいたかもしれませんね。
●「まえへすすもう!」のテーマの謎
これで本当に最後の謎です。
「まえへすすもう!」は言わずもがなスプリンパンのテーマです。
そしてスプリンパンは、12才という明確な年齢の設定があります。その理由は、12才は学年でいうと、小学6年生か、中学1年生です。6年生の年長にもなると下級生に対してのお手本になることやグループ活動での責任者となる立場でもあります。何かをやろうと思っても、責任や障害、苦労が発生することがあります。
お仕事でも、何か夢を叶えるでも、思うように行かない。苦労や障害を前にして、落ち込んでしまうこともある。しかし可能性を信じて元気一杯に「まえへすすもう!」の精神を持つということを伝えたい。12才という小学6年生の年齢設定=小学生は空想力と限りない希望と可能性に満ちているという印象があり、微塵にも揺るぎなく前へ進む元気一杯のスプリンパンのように、そういった自信と可能性を思い出して欲しいという願いを主人公と作品に込めました。
この主人公の「まえへすすもう!」の精神はアニメを制作する中で自分自身へ何度も言い聞かせたことでもあります。皆様ももしよければ、苦労や困難を前にしたとき、前へ進む活力を持つ元気なキャラクター、スプリンパンのことを思い出して、まえへすすもう!と思っていただけたら幸いです。
そしてまた、まえへすすもう!で会えたら良いですね。
映画は、2020年8月19日現在、上映回数は減ってしまいましたが。まだまだ映画館で公開中です。見られるチャンスがございましたらどうぞよろしくお願いいたします。
映画をご覧になってただいた方、作品に興味を持っていただいた方、この記事を読んでくださった方、誠にありがとうございます。
※尚、この記事は予告なく非公開になる場合があります。電子書籍で発行予定のメイキング本(予定)にこの記事を掲載予定です。
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