Same place.
東京都は江東区、東京ビッグサイト臨時駐車場付近から見える謎のベンチプレス一式。初めての出会いは数年前に遡る。
世界的パンデミックにより行動制限を余儀なくされた私に訪れたのは外界と関わることへの億劫さとそれに裏打ちされた妙な不安感であった。
人間というのはよく出来ているもので、自らの精神の不安定さを観測すると太陽を、食事を、運動を求め、新鮮な脳をお届けしようとする。
散歩。それはその全てを兼ね備えた行為であったし、これほど当時の私にうってつけのリハビリはなかった。
あてもなくただ面白そうな匂いのする方へ歩き続けたある日、冒頭のベンチプレスと出会った。金網越しに見える錆びついたそれらは錆びついてはいるが日々使われているようでもあった。肉体を鍛え上げると共にそれらも鍛えられているようだった。
Same place. 当時の私を忘れたかのように今、猛烈に労働している私は仕事で偶然訪れた場所でそれらに再開した。
夕暮れだった以前とは違い、完全に日が沈んでいたがそれに気がついたのはそれらを使っている人間が共にいたからだった。
変わっていく変わらないものの変わった姿から、自分の現在地を推し量った。