オンライン署名「ウクライナからの難民のために、日本が取れる7つの拡充アクション」を始めた理由
こんにちは、WELgeeの渡部カンコロンゴ清花です。
1ヶ月半で 、58,000人の方が署名してくださっているキャンペーン「ウクライナからの難民のために、日本が取れる7つの拡充アクション」について、お話させてください。
2月下旬のロシア軍侵攻開始から1ヶ月半、世界の情勢は移り変わり、私たちもバタついていたのですが、ちょっと振り返ってみたく書いています。
これまで、日本にやってくる難民申請者たちのキャリア・就労に伴走してきた私たちNPO法人WELgeeは、いま連日、企業や個人、自治体、メディアの方々から、ウクライナからの難民についての問い合わせをいただきます。正直びっくりしています。ここまで難民の課題に日本社会が関心をもつ「波」は稀かもしれません。
だからこそ、その時に同時に必ずお伝えしているのは「すでに日本にたどり着いているものの、認定を待ち続ける難民申請者たちの存在」です。アフガニスタン、ミャンマー、アフリカ諸国、中東、アジアからも。
『日本の難民受け入れって、そもそもどうなっていたのだっけ』と、目を向け考え議論できるとっても貴重なタイミングだと思っているからです。
2月24日、ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻開始。
テレビや新聞の一面は、一気にこのニュースが占めるようになり、SNS等でも企業、市民、政治家、文化人などから様々な声が上がっていました。
「日本も難民受け入れできるのでは/すべきでは?」
「でもどうやって?」
「遠い日本に来たい人などいるのか」
「日本は難民受け入れの数が少ないがどうするのか」等。
みんな、何かできないか、と思っている。この6年、いろんな方面から難民申請者たちのキャリアプログラムを応援してきてくださっている方々からも、「今じゃないか?」「立場を越えて声をあげられるタイミング」「声が集まっているからこそ、集約して届けられるのでは?」「コロナの水際対策で鎖国化していた日本が、世界に責任を果たす契機になるかもしれない」という声が聞こえてきていました。
なぜ「今じゃないか?」という声があったのか。
なぜなら、長らく日本政府は難民に対して、前向きとは言えない姿勢を取り続けてきた事実があったから。メディアでも、なにか大変なこと(入管で人が命を落とすとか、強制送還させられるとか)が起きたときに、目にするトピックという印象があった。
そのイシューに関して、この有事をきっかけに、政策の窓が開いている。
そこで、署名本文の下書きをしてみました。
目的は、
ハッシュタグは #ウクライナ難民の多様な受け入れに賛同します
この「多様な」というのはこだわりポイントでした。
なぜなら、難民の受け入れって、政府の難民認定だけに限らず、実はいろんな方法を手段にできるのです。
当時は、まだ首相からの受け入れ表明なども出ていなかったので、受け入れって言ってもどうやって?というイメージの具体を示す意味もありました。(詳しくは署名ページへ)まったく新しい方法を作らなくても、すでに日本がやっている既存のスキームの拡充でできることがあることを示そう、としました。
アクション1―7という具体的な提言には、最初の3日間で3万署名が集まり、4日目に記者会見をし、15のメディアが取り上げてくださいました。
その後、岸田首相は受け入れ方針を発表しました。
ビザ発給も大幅に緩和され、すでに日本には500人近くのウクライナから逃れた人たちが到着しています。
『そもそも日本の難民受け入れって、どうなっていたのだっけ』
では、そもそもこれまで日本にやってくる難民の現状はどうだったでしょう。
鉱物紛争の地域で争いに巻き込まれたり、民主化を求める人が次々と逮捕されたり、民族対立によって村が焼き討ちにあったりと、目の前に危険が迫る時、実は、行き先を選択肢豊富に選ぶ余裕はなく、数カ国にビザ申請する中で、最初に短期のビザ出たのが日本だった、という状況で日本に来る人が多いです。
来日後「出入国在留管理庁」で難民認定申請をします。
実際は母国を逃れた時点で「難民」になるわけではなく、辿り着いた先の政府に認定されて初めて保護される立場になります。しかし1万以上の結果(一次審査と審査請求の処理結果合わせて)がでた2020年、認定は47人でした。(出典:令和2年における難民認定者数等について)
こう見ると、いかに、今回のウクライナ難民措置が特例かが見えてきます。
ビザ申請の簡素化、代理手続きも可能、コロナの入国制限の対象外、陰性証不必要で、短期滞在3ヶ月のビザを得て入国。その後は1年の「特定活動」という在留資格に切り替え就労可能、国民保険にも入れる形となります。
ヨーロッパ諸国とも足並みを揃えた、とても迅速な動きでした。トップの素晴らしい英断だったと思っています。
さて、一方でウクライナ以外からの人たちは今日も認定されるのかわからない状態で待っています。結果までの期間は平均4年4ヶ月(参考:NPO法人なんみんフォーラム、難民保護法検討のための論点整理)。途方もないゴールです。10年以上待ち続け、不認定になり(ほとんどが不認定なわけですが)、在留資格もなくなり、収容施設に収容される人もいます。法的地位がなければ、日本にいられない。しかし、ただ待っていても難民認定される可能性は針の穴。
私たちもこの事態を知ったのは6年前程前。様々な調査、挑戦、失敗、対話を繰り返し、WELgeeは日本に辿り着いた難民向けの就労・キャリア支援を作るに至りました。意欲、個性、経験に着目し、日本企業と繋ぐプログラム「JobCopass」という仕組みで、不安定な在留資格で待ち続けるしかなかった人を、企業が雇用してスポンサーになることで就労の安定した在留資格の取得を目指します。キャリアコーディネーターが人生そのものに伴走。企業は、自社の成長や変革のきっかけとなる人材を採用できます。
逆境を乗り越えてきた人生経験豊かな人たちとイノベーションを起こそうと信じる企業さんと数年越しに挑戦してきたのですが、裏返せばそうでもしないと、日本にいられる方法がないということなのです。
これまでの15のマッチングの中には、現地の感覚を知るアフリカの元起業家を採用し有望なアフリカ市場を開拓するバイクメーカーや、日本での人材獲得に限界を感じ、多様性をもたらすきっかけとして難民プログラマーの採用を決めたITベンチャーがあります。日本の同僚たちと一緒に、祖国の医療に貢献する団体を作ったお医者さんもいます。
「かわいそうな難民」ではなくて「切磋琢磨する同僚」になるので、社員さんの意識も変わってゆきます。難民と日本社会の新しい化学反応です。
ただ、ここには葛藤もあります。
スキルがない人はどうするの?頑張れない人はだめなのか?障害を持っていたり高齢で働けない人は?その通りです。本来は、「社会の役に立つ人は日本にいていい」「企業の戦力になる人は歓迎」、ではないのです。難民を保護する、命を追われて逃げてくる人の人権を守るというのは、本人が持つスキルとは関係ない。それが「日本の難民認定基準が国際水準になること」も同時に求め続けなくてはならない理由です。
国際水準って何か?に関しては、難民支援協会さんの「国際基準に則った難民認定基準の策定」がわかりやすいです。
さて、こういう国が今「ウクライナ難民(避難民)を受け入れよう」と言っているわけです。先が読めない目まぐるしくうごめく世界の情勢に背中を押される形で、これを転換点として、日本の難民政策を根本的に変えてゆけるのかが問われています。逃れてきた人たちを再び追い込むのではなく、第二の人生に前向きに踏み出せる場所になれるのか。
署名の際に、コメントを残してくださっている方も多くいらっしゃり、いくつか紹介をさせていただきます。
災害や有事が起きたとき、そこへの応急処置だけではなく、これまでの当たり前に疑問投じ、捉え直し、必要があれば変えてゆけるか否かで、社会の前進度合いは変わってくる。私たちにはいま、選択肢があります。