「新しい資本主義のアカウンティング」
目次
第一章:「新しい資本主義の意味」
第二章:「新しい資本主義」はなぜ分配に注目するのか
第三章:「分配」戦略の前提としての「成熟経済社会」とは
第四章:DS経営・経済モデル「付加価値分配計算書」の活用
第五章:シミュレーション①マクロ・経済社会へのインパクト
第六章:シミュレーション②就活生ー従業員・投資家・役員・事業の行動変化
第七章:DS経営の実践に向けて 関係者の役割・動向
終章:成熟経済社会のアカウンティング 次世代のウェルビーイングのために
サマリ
第一章では、岸田政権の掲げる「新しい資本主義」=「成熟経済社会」となった日本における持続可能な発展を可能にする制度設計を検討する上での、背景や目的が述べられる。
筆者は、1991年以降の「失われた30年」において、実は役員報酬や給与が横ばいする一方、株主還元は急増している点を指摘している。
特に、竹中平蔵をブレーンとした小泉内閣は新自由主義を掲げ、市民の貯蓄を投資に回すことによって直接金融による分配を実現しようとした。しかし、実際のデータを見ると、成熟経済下の最適行動が資金の投入ではなく回収であるように、投入金額の10倍もの資金が投資家・株主に流出している。代わりに、研究開発費や給与が縮小され、より人件費が安い海外工場へ技術や雇用が流れ、国内はどんどん貧しくなっていっている。すなわち、ROEや配当性向といった指標では一見成功に思える経済政策は、実体経済への反映という意味ではことごとく失敗しているのだ。(そして、投入力がなくなった日本国民ではなく、外国人投資家が利益を得るといった、日本のカモ化はますます進む。)
一章では、最終目的を「分配をコアとする人々のウェルビーイングの実現」とし、その検討においていくつかの手法を提示する。①「6W2H」での提示。②「非民主的なレトリックの排除」③結果ではなく、説明手段としてのアカウンティング④インドのOne Additional Lineを例としたナッジによる意識改革⑤キャンセラビリティによる施策評価
(続く)