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二度と会いたくない人と、また会いたい人に会う日

皮膚科の再診を終えて帰ろうとしたら、駐車場で元彼に遭遇した。最悪だった。

二度と会いたくないし元彼とも言いたくない。

「なぁ。俺だよ。わかんないの。」

完全にメンヘラのそれだった。

もう二度と会いたくないと告げてあったにも関わらず、執拗に付け回された。


PTSDでも起こす勢いでその場を後にした。


それと縁を切りたくて、電話番号も変え、見つからないように車も変えたのに。


車がバレてしまった。


最悪だ。


どうしよう。


どうしようどうしようどうしよう。


動揺しながらひたすら走った。


どこにいくでもなくとにかくその場から遠くへ行こうと。


隣町まで走ってふと思いついた。

自殺して私に遺書を残した友だちの死亡現場に向かおう。


そうして走っていたら、道端でスケッチブックを掲げている人影が見えた。


反対車線だった。


あれだ。


あてもなくどこかへ走るくらいなら、ヒッチハイクなんてくっそ楽しいことしてる人乗せよう。

行く先はどこでも、私のために乗ってもらおう。


そして、私は適当に迂回して、彼のいた道路を目指す。



まだいた。


車を寄せ、窓を開ける。


「暇だから送るよ、乗りな」

彼は奈良を目指していた。


おもしろいことに、どこかに向かうためにヒッチハイクをしているのではなく、ヒッチハイクをするために、遠くへ行って、家を目指しているという。

青森に飛行機で飛んだらしい。


最高。


最高だよまったく。


スケッチブックには「静岡」と書かれていた。

その場所からバイパスで小一時間で着く距離だ。

拾ったのはお昼過ぎ。


私はちょうど静岡に食べに行きたいつけ麺屋さんがあったから、好き嫌いと腹のすき具合を確認して、一緒に行ってもらうことにした。


大学生の彼は就活も終えているらしく、卒論もないらしかった。


就職先の話とか、留学の話とか、家族のことを聞いた。

私も思うままに喋った。

ありがたやとばかりにほぼ遠慮せず好き勝手しゃべった。


ちょうど嫌なことがあって適当に走ってたことだとか、去年離婚して出戻ったことだとか、人生哲学とか。

そして彼は奈良出身者とあって関西弁通話者で。


久しぶりの関西弁交流を全力で楽しんだ。


彼は頭の回転も早く、とっても社交的で礼儀もあり、私のボケにいくらでもツッコミをいれてくれる紳士だった。


皮膚科を出てから最悪だった気持ちは一気に晴れやかで楽しい気持ちに切り替わった。


一緒につけ麺を食べてくれたことも嬉しかった。

つけ麺がまた懐かしい味そのままで、やっぱりおいしかった。


そこから彼は、「静岡長いんでもう高速を目ざしたいです」というので、最寄りの大きなサービスエリアまで送った。


サービスエリアについて、一回りぶらついて解散に向かっていたら、1人の青年が声をかけてきた。


「どこ目指してるんですか、途中まででもよければ乗せますよ、僕もヒッチ経験者なんで」


なんてことだ。


世界は季節でできている。


ちゃう。


奇跡。


大事なとこや。


噛んどる場合ちゃう。



私が絶望してるところからの奇跡は、いい感じにまた新しい奇跡とつながった。

青年もまた、とてもいい人そうだった。


聞くと富士山の山小屋で働いていたらしい。


富士山に関わるやつで悪いやつはいない。


「この人とってもいい人なんでぜひ乗せてあげてください」


私は乗せてきた彼をとっても好いたので、青年にお願いした。


青年はもうバリバリに乗せる気まんまんやったから、あえて私が言う必要もなかったのだけど。

静岡サービスエリアで、みんなで写真を撮った。


こんなに写真を撮っておきたいと思ったのは初めてだ。


誰とも連絡先を交換することもなく、ただ写真を撮る。


ヒッチハイカーを乗せてきた人と、
これからヒッチハイカーを乗せる人。

被ることってどれくらいの確率なんだろうか。


こういう瞬間、私は最高にワクワクする。


旅、冒険、偶然、出会い。


最高の気分で家路に着いた。


でもそれから、なんだか真っ直ぐ家に帰るのはもったいなくて、自分の何かを満たす何かを探して、ドンキとかスーパーとか百均とかハシゴして、ようやく20時過ぎに自宅へ着いた。


何やってんだろう自分。
またしてもお金を産む行動ではなく、浪費として消費する行動をとってしまった。


今日は車の中でこれを更新。


家に入ったらもう終われないと思ったから。




あーあ。

せっかく物語が始まりそうだったのに。


耳をすませばの雫の気持ちでペンを置く。


ざいちぇん。

サポートしてくださったあなたに、私が住んできた各地でのおすすめの名店をご紹介。長野、大阪、富士。夕陽がきれいな場所か、美味しいコーヒーが飲める場所か。どれに当たるかはお楽しみです。