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ショート・ショート「血」

一度、会っただけでは、その人がどんな人なんて見えない。
路地裏の暗さ、息をひそめた烏の瞳。
その儚さは、三途の川のよう。
あの人との夢を見たんだ。
月の光を反射した水溜まり。暗黒の空。希望は一つ、私の胸に眠っている。
親切に招かれたその人の家の中、取り出された記憶は寅さんの映画。掴めない光と人情の物語。
寅さんには、本当に恋人が出来るのだろうか。
その作品をあまり詳しく知らぬ私は、寅さんがただ愛おしかった。
人間らしさ。

人の心を旅をする。
孤独を少しずつ、そんな昨日の月の眩しさに照らしてゆく。繰り返す波のように旅は続く。
生臭い血のように!
若者よ、生きるんだ。
アスファルトに、飛び散る陽光が、そう感じられるうちに。

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