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洋野町でみたほやマンのこと。


今度洋野町で映画の上映会がある。昭和に建てられた木造の善映館は座席も木製。直角に作られた椅子ながら、永い年月の中で人馴れした質感に和まされる。ひろののシネマと題されたイベントでの上映は昨年度に続き2回目。企画したのは物語を紐解くように洋野町に触れ、その人と暮らしを新たにつづり伝える「ひろのの栞」の人たち。

ひょんなご縁で当日スタッフとして参加する私は、ご厚意で試写に立ち合わせていただいた。試写が始まると私以外のスタッフの人たちはあちこち席を移動しながら音響のチェック。そう言えば、昨年は観客としてここに座った。囲炉裏のある古民家みたいに炭の匂いが香る素敵なシアター。その香りが和らいだ感じを受けたのは、それだけこの場所に人が行き来している証なのだろうか。

今回の上映会に選ばれたのは「さよならほやマン」。きっと自分では選ぶことのなかった映画だ。

映画館で映画を観ることの良さは、強制的に映画に向き合わさせられるのもひとつだ。映画という広大な思想の中にひとりぼっち。親きょうだい友達恋人など、近しい人間関係から切り離された意識の中で、鎧が必要だとも思っていなかった場所にすっと自分の知らない/忘れていた自分を思い出させられる。かさぶたばかり立派になって治っていなかった箇所を教えられる。無味乾燥したような自分に流せる涙があると発見する。

雨。夢中になって映画を観ていると、音を立てるほどの雨が降る。(試写の日は途中実際に雨が降りました。)木造の映画館の屋根や壁が雨の振動を受けて震えている。ボトボトと雨音が映画に立体感を添える。いま私は洋野町のちいさな映画館でこの映画を観ているのだと。

たった一本の映画でさえ、建物、関わったスタッフ、こんなに多くのことを感じながら観るものだったなんて。時代の流れに身を任せたような善映館に抱かれて、「さよならほやマン」は私の心に何を遺したろう。


ひろのの栞
|ひろののシネマ #2 特別上映会 さよならほやマン|
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