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ABEMAマーケ・PR責任者が語る Z世代への「新しい未来のテレビ」の届け方

サービスローンチから5周年を迎えた新しい未来のテレビ・ABEMA。日本の10代・20代女性の70%以上が視聴する『オオカミ』シリーズ(※1)をはじめとした恋愛番組や、緊急速報など24時間放送のニュース、アニメ、スポーツなど多彩な番組を取り揃え、快進撃を続ける同サービスは、どのようなマーケティングを経て成功を収めたのか。プロモーション・マーケティングを統括する株式会社サイバーエージェント 執行役員の野村智寿さんにインタビューを行いました。

※1 ABEMA社調べ。2018年1月以降の『オオカミには騙されない』シリーズを視聴した重複を含まない10代から29歳女性視聴者を対象とし、日本の10歳から29歳女性の総人口割合から算出 出典:「人口推計」(総務省統計局)

“ノウハウは社内にためる” サイバーエージェントの思想を反映したマーケティング戦略

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――まずはABEMAのこの5年間の歩みを、時系列順に教えてください。

開局当初は、「無料で楽しめるインターネットテレビ局」というコンセプトからスタートしました。ABEMAはオンデマンド配信もライブ配信もやっているし、ABEMAプレミアム(有料会員)限定のコンテンツもあって、業界の中でもすごくユニークなポジションにいると思うんです。初期の頃は「ABEMAが何者なのか?」を広く認知してもらうことを目的としたPR戦略をとっていました。

――まずはじめに認知拡大を目指したと。ABEMAはテレビの延長なのか、それともネット動画の延長なのか、最初はいろんな人が「どっちなんだろう?」と感じていたと思うのですが、野村さんやチームはどのように考えていたのでしょうか?

「インターネットテレビ局」と言っていましたし、サービスコンセプトの根幹はやはりテレビでした。それを若者向けにより作り替えたものですよ、という伝え方をしていたと思います。若い人たちがテレビを見なくなったのはコンテンツがつまらないんじゃなくて、時代やメディアのあり方が変わってきてるからだと思うので、今の時代に合ったものを提供することを目指しています。

5周年を迎えたいま、「新しい未来のテレビ」とコンセプトを掲げていることからも、僕らのサービスの根幹は変わっていないですね。

――開局当時、業界の方やユーザーはどのような反応でしたか?

サービスの運営に協力してくださっている制作会社さんやコンテンツホルダーさん、芸能事務所の方、演者さん、そしてユーザーの方も含めて、「このサービスは何なんだろう?」と感じられているのは伝わってきました。警戒してるというよりは、率直に「ABEMAってなに?」という好奇心に近いかもしれません。新しい試みですから、当然のリアクションですよね。

――これまでさまざまなコンテンツを打ち出していますが、特に『オオカミ』シリーズなどのオリジナル恋愛番組は、ABEMAのブランドを確立するものとなったのではないでしょうか。ヒット作ができたことで、プロモーションの手法の変化などはありましたか?

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代表作ができたことは、PR活動をするうえでは大きなプラスになりました。これをきっかけにたくさんの新しいユーザーが来て、他の番組も見てくれるという流れもあります。プロモーションするには、良い環境が作れているなと思い始めたのもこのころです。

――当初と比べて、方針や指針についての変化はいかがですか?

実は開局当初と比較すると、今のマーケティングコストって5分の1以下なんです。1番最初は認知を広げるために、CMなどコストがかかる手法を活用していました。でも世の中を見渡したときに、お金を使った宣伝活動がアクティブなのは大手事業者が多いじゃないですか。だからお金をかけて投資合戦をしても、こちらが消耗してしまう。それなら資金力で勝負するのではなく、やればやるほどノウハウが蓄積されて、社内のマーケティング力が上がっていくようなモデルを構築しようというのは、開局当初から考えていたことですね。経営観点上、自分たちの資産を有効活用したマーケティングはすごく重要で、“グロースのエコシステムを作る”ことを目指して投資を行ってきました。

あと特徴的だと言われるのが、企画段階でマーケティングの発想を入れることですね。映画やテレビはすでにPRの手法がしっかり出来上がっているので、いいコンテンツさえ作ればユーザーに届けやすいんです。でも僕らはおもしろいものを作ることと、PRすることを同時に行わないといけません。

――マスに向けてではなく、ターゲットや狙いを設定してそこに発信するイメージですね。

いまはいろんなサービスやメディアがあるので、ユーザーのみなさんの限られた貴重な可処分時間を割いてもらい、さらに継続的に利用してもらうのは本当に大変です。そのために、コンテンツを企画する段階からPRプランを検討しつつ、プラットフォームとしてもエコシステムを作っていく。その両輪を回すのがすごく重要だと考えています。

――ABEMAの番組を見ていて思うのは、何を意識して番組を作っているのか、コンセプトが非常にわかりやすい。コンテンツを作る段階でそこまで考えているからこそ、ユーザーにも届きやすいんだと思います。

新しい番組を始めるときは、まず“誰に何を”というコンセプトを明確にしてから、コンテンツやPRのアイデア、手法を考えています。

――先ほどおっしゃったエコシステムを構築するにあたって、重要なポイントはどんなところですか?

サービスを運営してくうえでいろんなパートナーさんとご一緒するわけですが、まず各パートナーさんの思想を理解することですね。

たとえばABEMAはTwitterやYouTubeなど、様々なプラットフォームを活用してマーケティング、プロモーションを展開していますが、その際に各プラットフォームのアルゴリズムや、それぞれ何を意図してそれぞれが仕組みを作っているかを理解する必要があります。

そのあとは、アイデアを出して、計画を立てて、実行して、振り返る。制作活動するうえで当たり前のことですが、これらをサボらずに全部自分たちでやることですね。業務効率を考えるとアウトソージングする手もありますが、それをやってしまうとチームに知見がたまっていかないし、精度も上がらなくなってしまいます。

――社内にノウハウがたまらないと、次に活かせないですもんね。

自分たちで考えて自分たちでやる、そしてどうせやるなら市場で1番を目指す。僕らのマーケティングチームはそういうスタンスでやっています。

――サイバーエージェントグループ全体の思想にも繋がってくるかもしれないですね。社内起業がたくさん行われていて、会社の中でノウハウや知見が蓄積されている印象です。

たしかにこれは会社全体の文化や思想に近いですね。弊社はチーム意識がすごく強いんです。別の子会社や事業の、なかなか交わることのないメンバーとも気軽に声をかけあって助け合う文化がありますね。

ユーザーのリテラシーが上がった今、これまでのやり方では不十分

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――無料で見られるというところからスタートしつつも、ABEMAプレミアムや有料配信など、機能が拡張されていきましたよね。それにともなって、プロモーションの設計に変化はありましたか?

そこは難しいところで、一歩間違えると「結局ABEMAって何なの?」とユーザーを混乱させることになります。基本的には、顧客起点のサービスモデルを設計するようにしていますね。ユーザーのニーズと僕らのサービスの構造を見比べて、理解が足りていないところをマーケティングにおいて強化していく。市場のフェーズや、コロナ禍でのライブ配信など突発的に発生しているニーズも含め、世の中の流れをくみとってマーケティング、PR活動の優先順位や強弱を決めて、並行して走らせています。

――まだ獲得できていない潜在的ユーザーに向けた外向きのアプローチと、既存ユーザーに向けた内向きのアプローチ、どちらも重要だと思いますが、具体的にどんなことを意識していますか?

潜在的ユーザーと既存ユーザーでは、ABEMAへの理解度も大きく違ってくるので、戦略やアプローチはそれぞれ変えています。

5年前に比べるとABEMAを知っている方は増えたとはいえ、まだまだ増やしていける段階ですから、外向きのプロモーションとしては、名前は聞いたことあるけどよくわからない、といったユーザーにフォーカスしてマーケティングしています。

――これまでのプロモーションで、1番手応えがあったのはどんなものですか?

『ABEMA TIMES(アベマタイムズ)』は、開局当初から運営していますが、ABEMAを理解してもらうという意味で有効なんじゃないかと思っています。自社で運営しているオウンドメディアは相当効いてますね。SNS関連ですと、TwitterやYouTubeチャンネルにも力を入れていて、ほかにもTikTokや、Instagramも活用していますし、SEO対策も地道にしています。

――『ABEMA TIMES』やSNSなど、自社起点で発信しているメディア、特にTwitterの運用手法などは、たびたび拝見しますがやはりすごいなと思います。

社外の方とお話をすると、ABEMAの公式Twitterをご評価をいただくことは多いですね。すごくマニアックに、試行錯誤しながら運用しています。SNSの運用を社外に任せている会社さんも多いですが、僕らは自分たちで、投稿する文言や画像、投稿の仕方など、システム的なアプローチも含めていろいろ試しています。

・ABEMA公式Twitter

――今後のABEMAの戦略を、可能な範囲で教えていただけますか? また業界全体の予測もお願いします。

コロナによる自粛期間もあり、ユーザーのみなさんはこれまでにないくらいいろんなサービスを利用していて、コンテンツもたくさん消費したと思いますが、それをふまえてマーケティングしないといけない、と個人的に感じていますね。みなさんのコンテンツリテラシーやサービスリテラシーが上がったので、いままでと同じやり方だと効果が下がると思っています。

あとこの1、2年で特徴的なのは、テレビデバイスでABEMAを利用する人が格段に増えていること。リモコンの仕様などもそうですが、いまのテレビはデバイスとしての進化が著しいですよね。

――“地上波が映せるもの”から、“なんでも映せるもの”にテレビのイメージが変わってきています。

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この流れはまだまだ続くと思っていますし、家では大画面で見て、外ではスマホやタブレットで見るというマルチデバイス化もさらに加速していくはずなので、それを前提にしたマーケティング設計をしないといけないなと思っています。

僕らはユーザーの求めるものを提供することを目指しているわけですが、環境が変わるとユーザーのニーズも変わりますし、ユーザーの変化に合わせて自分たちも改善していくことで、自然と流れに乗れるんです。たとえばTikTokが流行ったことで、一つひとつの動画の消費スピードがどんどん早くなっていますよね。そんな中どういう風に情報を提供したらいいのか、と考えるといった具合です。

インフルエンサーがこれだけ影響力を持つようになっていることからもわかるように、いまは人から発信される情報の「マーケティング的な重要性」がすごく高くなってきています。昔はそれがテレビCMでした。メディア、デバイス、テクノロジー、人々の営み、消費の仕方と、いろんなことがつねに変化していて、かつそれらはお互いに影響し合っています。そしてより分散化されてバーティカルになっているので、難易度は上がっていますね。でもその流れは続いていくので、それを見据えたうえでどういうマーケティングをするか、そのために必要な組織のあり方やスキルはなんなのかを、考えてやっていくことになりそうです。

――最近、野村さんやチーム内でよく使われる“キーワード”はありますか?

情報に対する「エンゲージ」「熱量」といった言葉はよく使っています。熱量のあるところをとらえる、熱量の流れを把握するといった意味ですね。たとえば言葉に関してもそうで、同じ言葉でも、時代やタイミングによって印象が大きく変わりますよね。それは言葉に流れがあるからだと思うんです。熱量の流れを感じる、流れを読むということは、より重要になってきているのかもしれません。

■本記事のTIPS

・“若者向けに作りかえたテレビ”を軸に認知を拡大したABEMA
・マーケ、PRは社内で完結してアセットを蓄積する
・これからは情報の「熱量」を読む時代

■PROFILE■
野村智寿(のむら ともひさ)
株式会社サイバーエージェント 執行役員 宣伝本部長
2004年サイバーエージェント入社。インターネット広告事業本部にて様々な業界のナショナルクライアントを担当し、2011年10月に新規事業開発のため、プロデューサーに転身。2012年12月にAmebaプロモーション室室長に就任し、2014年10月に宣伝本部立ち上げる。現、株式会社サイバーエージェント執行役員および宣伝本部本部長。ABEMA、ゲームなど自社事業のマーケティング・プロモーションを手がける


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Writer:中村拓海

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