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新世代ヒットメーカーが語る|変化するテレビドラマの“人気の指標”

視聴スタイルが多様化し、ユーザーの選択肢が大きく広がる中で、テレビドラマの作品としての価値は、もはや数字=視聴率だけでは評価できない。
では、これからの時代のヒットの捉え方とは?
社会現象を巻き起こした「おっさんずラブ」など、キャラクタードラマに定評があり、現在放送中の「にじいろカルテ」を手がけるテレビ朝日プロデューサーの貴島彩理さんにテレビドラマを取り巻く環境や人気の指標の変化について伺いました。

──現在放送中の「にじいろカルテ」は医療モノでありながら、泣き笑いの要素にあふれたヒューマンドラマです。どういった経緯で本作を作るに至ったのでしょうか?

「医者をはじめとして弁護士、刑事、教師といった、ドラマに出てくる一見華やかな職業の方々は、必要以上に人としての正しさを求められて、葛藤もあるでしょうね」。ずっとご一緒したいと思っていた脚本家の岡田惠和さんに、数年前この企画についてご相談した際にいただいた言葉にハッとしたのを鮮明に覚えています。“医者だって人間じゃん?”というテーマが、まさか2021年現在の世の中にリンクするとは思っておらず、岡田さんには未来が見えていたのかな…と今になって思います。

挑戦してみたいジャンルの一つが医療モノでした。テレビ朝日には「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」をはじめ、大ヒット医療ドラマが数多くあります。その中で何を作ろうかと考えたときに、“スーパーじゃないドクター”を描いてみたい、と思いました。私の叔父は宮崎で医師をしているのですが、医者としての姿よりも一緒に遊んでくれた叔父さんとしての印象の方が強くて。当たり前のことながら、お医者さんにも家族がいて、悩みがあって、普通の生活があって、その仕事内容は手術や診療だけではない。“医者の、医者ではないときの姿”を描きたい。その思いが根底にあって、生まれた作品です。


──貴島さんがドラマ制作において大切にしていることを教えてください。

キャスト・スタッフに「このドラマに関わってよかった」と思ってもらえたらいいな、と思っています。内輪な考え方のようで恐縮ですが、制作現場の空気というものは確実に作品に反映されると思っていて。暗い内容のドラマももちろん見るのは好きなのですが、自分が制作するときは、できるだけ楽しい物語であることを前提に、キャスト自身も演じていて楽しめて、励まされるような作品を理想としています。もう一つは、キャラクターの描き方。「にじいろカルテ」の登場人物は、誰しもが持っているような悩みを抱えています。でも、その悩みをスーパーなヒーローが解決してくれるわけではない。それが人生、そこにリアリティがある。すべてのキャラクターがその人自身の人生の主役で、脇役は存在しない。全キャラクターの立場になって、物語を作れるようにと心掛けています。

本作の撮影当初は、夏の暑い時期でした。マスクをして、フェイスシールドをつけて、細部に気を使いながらの現場で、キャスト・スタッフにはいつも以上に大変な思いをさせてしまいました。そんな中、高畑充希さん、井浦新さん、北村匠海さんが、全員にお揃いのマスクとつなぎをプレゼントしてくださったんです。マスクには虹マークが描かれていて、つなぎは赤やピンク、黄色など虹色のバリエーション。マスクをするストレスが喜びに変わって、普段は黒い服を着ている技術部の男性スタッフがピンクを着て照れくさそうにしていたり。お互いを気遣う優しさにあふれた温かい現場でした。その雰囲気も感じ取っていただけたらうれしいです。

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─ここ数年で視聴者にとっての選択肢が広がり、テレビドラマを取り巻く環境も大きく変化していると思います。

必ずしもリアルタイムで見ることがベースではなくなっていると思いますし、NetflixやAmazon Prime Videoなどの動画配信サービスを利用されている方々もたくさんいらっしゃると思います。私自身、ステイホーム期に韓国ドラマ「愛の不時着」にハマってしまい…まさか自分が配信漬けの日々を送るとは、思いもしませんでした。これまで日本のドラマを中心に見ていましたが、友人の勧めで見始めたら…うっかり号泣して(笑)。そこから韓国ドラマも含め、さまざまな海外ドラマを見るようになりました。韓国ドラマは話数が多く、全てのキャラクターをしっかり掘り下げて描いていて、勉強になる部分がたくさんあります。スケールの大きい作品も多く、今の日本のドラマにはない魅力に、みんなハマったのかなと思います。改めて、世界中の作品と競い合う時代になったと実感しました。日本のドラマ界にとっては脅威であると同時に、世界で勝負できるチャンスもある。夢がありますよね。

──貴島さんが手がけられた「おっさんずラブ」は2016年末の単発ドラマ放送時の視聴率はさほど高くなかったものの放送後に大きな反響を呼び、2018年に連続ドラマ化されて社会現象を巻き起こすという、これまでに例を見ないヒットのかたちでした。これからのテレビドラマの人気は、何が指標となっていくのでしょうか?

これまで以上に、シンプルに内容が注目されていくのでは、と思います。「人気の指標」はここ一年すっかりわからないというのが正直なところです。必ずしも視聴率だけではないですし、かといって視聴率に意味がないわけではない。わかりやすく、すぐに数字が出るので、一喜一憂はあります。ただ、一話ごとではなく、配信ドラマのように全話見終わってからの評価に変わってきている世の中の雰囲気も感じています。良いニュースも悪いニュースも注目度が高ければSNSのトレンドに入る。これだと明言できないのがもどかしいのですが…ある意味でわかりやすい基準や数値がなくなってきて、新たなフェーズに入っているのかなと思います。

私自身、ドラマが大好きで、制作者であると同時に視聴者でもあります。それは一緒に作品を作っていくキャスト・スタッフも同じこと。みんなの意見を取り入れながら、自分が視聴者として見たいと思うものを信じて作る。その結果、世の中にどう受け入れられるか。20代でしか作れなかった作品があって、30代になったからこそできる作品もある。歳を重ねるごとに経験を積み、ライフスタイルも変化していくでしょうから、その時々で自分が思う新しい作品に挑み続けたいと思います。

にじいろカルテ
毎週(木)21時からテレビ朝日系列にて放送中!


■PROFILE■
貴島彩理(きじま さり)
テレビ朝日総合編成局ドラマ制作部プロデューサー。
2012年、テレビ朝日入社。
バラエティ番組のAD・ディレクターを経て、
2016年にドラマ制作部へ異動。
「おっさんずラブ」「オトナ高校」「私のおじさん~WATAOJI~」
「ハゲしわしわときどき恋」「女子高生の無駄づかい」など数々のドラマを手がける。

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Writer:龍輪剛
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