FIREBUG・BASE 代表対談。スタートアップの成長に必要な「ミッション」の重要性
当社はエンタメの力で、スタートアップ企業のマーケティングをメインにさまざまなビジネスサポートを行ってきました。スタートアップ企業が直面する課題、FIREBUGだからこそ提案できるソリューションを、事業成長の後押しとなった事例を交えて紹介する対談企画「Startup STORY」。
記念すべき第2回のゲストは、BASE代表取締役CEOの鶴岡裕太さん。今回は鶴岡さんがBASEを創業した理由、IPO(株式上場)に至るまでの話について伺います。
BASEを創業した鶴岡裕太の原点
佐藤:FIREBUGはタレントやアーティストのデジタル領域における活動の支援を手がけているのですが、彼らを見ていると人生において「こうしたい!」と決めている人の方が強い気がしていて。鶴岡さんは「BASEを立ち上げよう」と決めたのは何歳ぐらいのときだったんでしょうか?
鶴岡:BASEをやると決めたのは22歳のときですね。2012年11月にEコマースプラットフォーム「BASE(ベイス)」をローンチし、その翌月に会社を設立して出資してもらいました。
それまでは「◯◯をやりたい!」という強い思いはなくて。昔からインターネットサービスをつくるのがすごく好きだったので、「インターネットサービスがつくれれば何でもいいや」という思いの方がどちらかと言えば強かったですね。
それでBASEを創業するまでは、大学を休学してクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」を運営するCAMPFIREでインターンしたり、家入さんがつくりたいサービスのコードを一緒に書いたりしていましたね。そうした経験を踏まえて、自分でBASEを開発してみて世に出してみたら、軌道に乗りそうな兆しが見えてきたので「会社を立ち上げよう」と思い、BASEを設立することにしました。
佐藤:インターネットサービスをつくりたいと思い始めたのは何歳頃ですか?
鶴岡:6歳上の兄がパソコンやインターネットが好きだったので、その影響もあって昔からパソコンやインターネットが好きでした。
高校や大学も情報系の学校に通っていましたし。それで20歳のタイミングで大学に通いながらCAMPFIREでインターンを始めたら、やっぱりパソコンやインターネットは楽しいな」とさらに思うようになり、これが仕事になればいいやと思っていましたね。その後、大学は休学しました。
佐藤:CAMPFIREもそうですが、鶴岡さんにとって若い頃に家入さんに出会えた、というのも大きかったのでしょうか?
鶴岡:そうですね。昔からパソコンやインターネットは好きでしたが、本格的に今の仕事を始めたきっかけはCAMPFIREのインターンですし、家入さんの存在が大きいです。当時、CAMPFIREの代表は石田光平さんが務められていて、石田さんにインターンとして採用してもらったのですが、社内に家入さんがいて、それで家入さんからもお仕事を振ってもらう機会があり、仲良くなれたという感じです。
世の中に求められているテーマはいつ始めてもチャンスがある
佐藤:鶴岡さんがBASEを創業した当時、まだ世の中にはインターネットサービスがそこまでなく、「インターネットサービスがやりたい」という思いの上に「何をやるか」を乗せればいい時代だったと思うんですが、今は変わってきていると思います。
さまざまな領域でインターネットサービスが当たり前のように出来上がっていて、今の10代後半くらいの人たちは「インターネットサービスがやりたい」という思い加えて、もうひとつ「こうしたい」という強い思いがないと難しい時代だと思うんです。
例えば「インターネット×農業で世の中を変えたい」や「インターネット×漁業で変えたい」といったように、インターネットに加えてもうひとつテーマが必要になると思っているのですが、それについてはどう思いますか? 当時の鶴岡さんの年齢で決めた範囲と今の若い人たちが決めなければいけない範囲が変化していると思うんです。
鶴岡:僕は個人やスモールチームがエンパワーメントされるインターネットがすごく好きだったので、CAMPFIRE時代から「インターネットによって出来なかったことができるようになる」ことをテーマにしたサービスをつくってきました。
ただ、当時からネットショップを作れるサービスは国内外含めていくつかあったので、いつの時代も空気感は同じだと思うんです。確かに昔と比べると事業になりそうなテーマは減ったのかもしれないですけど、世の中に求められていると証明されているテーマはいつ始めても同じだけのチャンスはあるんじゃないかと思っています。
佐藤:企業やアーティストも同じだと思うんですけど、最初の「なぜやるのか」という一番シンプルな気持ちがないとキツいですよね。
鶴岡:「楽しいからやる」や「お金を稼ぎたいからやる」とか、そこの気持ちはいつの時代もずっと同じだと思うんです。だからこそ、コミュニティが大事ですよね。
多くの人が「楽しいことを仕事にしたい」「お金が儲かることを仕事にしたい」と思っていると思いますが、それがなかなか自分ごと化できないからアクションが起こせない。ただ、良いコミュニティに入っていると成果を出している人につられて、すぐに自分ごと化できるので自分自身もアクションを起こしやすくなるんです。
BASEが成長し続けられた「分岐点」
佐藤:BASEの分岐点についても教えてください。例えば、FIREBUGで3人組音楽ユニット・いきものがかりの活動のトータルサポートを行っていますが、彼らの分岐点はメインボーカルに吉岡聖恵さんを呼んだことです。最初は水野良樹さんと山下穂尊さんの男性2人でやっていて、多分吉岡さんを呼んでいなかったらここまで売れていなかったと思います。
そういったように意外と最初の頃に「その選択を間違えていたら、すべて終わっていた」という分岐点があると思うのですが、BASEにはありましたか?
鶴岡:BASEという会社を構成しているアセットは基本的にプロダクトとメンバー、お金の3つなのですが、プロダクトに関しては創業当初からずっとコンセプトを変えていないのが良かった思います。過去にもECモールをつくった方がいいのではないか、大企業向けの機能をつくった方がいいのではないかとか、9年間も事業をやっていると毎日のようにいろんなことに葛藤するわけですけど、それを選ばなかったのがよかった。創業以来、ずっと同じミッションを信じ続けられてるという意味では、BASEに関わってくれる会社のメンバーやユーザーには本当に恵まれていると思います。
佐藤:大企業向けの機能をつくった方がいいといった話が上がってくることはあったんですか?
鶴岡:「100億円売れている店舗を取りに行きましょう」という意見をくれるメンバーもいました。ただ、そういう意見も定期的にあった方がこっちも嬉しいと言いますか、そこでBASEが掲げるミッションと天秤にかけられるので、それはそれで良いことなんです。
佐藤:これは採用にも繋がってくる話かと思うのですが、BASEが掲げているミッションってどのように社内外に浸透させていったんですか?
鶴岡:BASEはすごくミッションが強い会社であることを前提とした上で、実際にやっていることと外で広報することのギャップがあまりないようにしています。
BASEの仕事は決して派手なものではなく、どちらかと言えば地味な仕事が多い。来年、再来年のために淡々とやっている、そんな感じです。それをそのまま伝えています。短期的に見たら派手にした方がいいこともあるんでしょうけど、ボラティリティ(変動率)を押さえながら年単位で物事を考えて成長できるのが僕にはあっているし、チームにもあっている。良いメンバーにも恵まれていて、それを維持し続けられてるのは良いことだなと思います。
ただ、創業の頃から同じアイデアでずっとやっていることの良さもある反面、怖さも出てくると思っていて。8年前、9年前に考えたミッションをずっと実行しているからこそ良いカルチャー、プロダクトにもなってるんですけど、一方で時代は変わってるので、そのままで良いのかと思うこともあります。そこは都度、適切な考えに切り替えていかないといけない。ミッションの根本が変わることはないと思いますけど、それを成し遂げる手段や優先順位は日に日に変わっていると思うので、そこに対してギャップが生じていないかどうか、という不安から、ひとつずつギャップの有無を確認しています。
佐藤:「考える」という行為は問いがあって答えを探していくじゃないですか。その問いは自分で考えてるんですか?
鶴岡:自分で問いを考えることもありますし、社内で質問されて出てきた問いもあります。コロナ禍以前は僕がいる会議室の部屋を開けていて、メンバーが誰でも出入り自由でコミュニケーションが取れるように「Open Door」をやっていたのですが、今は原則リモートワーク なので、僕とメンバーの考えを同期するために何でも質問していい「sync yt」というのを月1でやっています。
それはけっこう良くて、みんなの質問から「こんなこと疑問に思っているのか」「ここが伝わっていないんだな」というのが分かるので、そこから問いを得ることもあります。
スタートアップのマーケ施策におけるFIREBUGの存在
佐藤:FIREBUGはBASEのマーケティングをお手伝いさせてもらってますが、スタートアップから見たときに、弊社のような立ち位置の会社と組んで何が良かったとかありますか?
鶴岡:スタートアップの場合、CMなどのマーケティング施策は単発で終わる可能性が往々にしてあるので、そのためにCM制作の経験者を採用するのは現実的ではありません。それをFIREBUGさんにお願いすることで、CM制作の経験者を採用する必要がなくなって固定費が変動費になるほか、なおかつ優秀なメンバーの皆さんに相談できるので、すごくメリットがあると思います。
また広告代理店やクリエイティブディレクターとのやり取りにFIREBUGさんが入ってくれるのも大きいですね。CMなどのマーケティング施策は1回で数億円かかってしまうので、それが失敗したら倒産する可能性があるんです。広告代理店の方々にナショナルクライアントと同じ感覚で見られてしまうと困ってしまうのですが、FIREBUGさんは芸能系、広告業界、スタートアップ業界、各方面の知識やネットワークがあるのですごく助かります。
またクリエイティブディレクターの方は他業界すぎてフィードバックを遠慮してしまいがちだったのですが、FIREBUGさんが間にいてくれると、色々とこちらも言いたいことが言える。“スタートアップにとってのお金の価値”が分かっていて、広告代理店と適切にコミュニケーションがとれる存在として、FIREBUGさんはスタートアップにとって貴重だと思います。
多様な意見をあらゆる意思決定に入れる
佐藤:創業から9年経って、いま鶴岡さんが一番時間を使っているとことは何ですか?
鶴岡:今年からは経営と執行を明確に分けていて、上級執行役員という肩書きをつくったり、取締役の仕事を明文化したりしています。ずっとスタートアップだったので今までは“早く進む”ことだけがメインコンセプトだったのですけど、今年からは「より早く、より遠くまで」というコンセプトにして、経営陣の役割も定義しました。
今までは「目先のできることから優先順位をつけて順番に早くやろう」という感じだったんですけど、これからは「より早く、より遠くまで行くために頑張ろう」と。そういう意味では分かりやすく5年後、10年後をにどうなっていたいかを考えるようになりました。
佐藤:5年後、10年後を考えるってどれくらいから考え始めるんですか?
鶴岡:まだBASEがロングテール(個人、スモールチーム)のすべての人たちをエンパワーメントできているわけではないし、日本以外の人たちに使ってもらっているわけではないので、足りない部分をどうケアできるんだろうという部分から考えています。
僕たちはロングテールの人たちを世界で一番エンパワーメントした会社になりたいと思っているので、そこから逆算して足りないものを洗い出し、足りない部分をどう埋めていくか、どう優先順位をつけるかを考えています。
佐藤:アメリカも経営と執行が分かれているのが普通になってきている気がするんですけど、その仕組み自体は会社にとって良いんでしょうか?
鶴岡:良いと思います。個人的には多様な意見が、あらゆる意思決定に入ってくる大事さは日々痛感していて。より遠くまで行こうとすると、すごく多様さが必要になるんです。あらゆる意見が入ってこないと近視眼的になりかねない。
例えば、ここ1年間の価値の最大化にはなっているかもしれないけど、5年後の価値の最大化にはなっていないかもしれしれないといった感じです。正しくそれぞれの意見に対して多様性を持った意思決定をすることは大事なので、そこに経営と執行が分離されていることが良い影響をもたらしてくれるのかなと思います。
IPOは経営をサスティナブルになものにする手段
佐藤:IPOしたから、経営と執行の分離という考えに辿り着けているというのはありますか?
鶴岡:あると思います。IPOして、経営者としての視座はすごく上がりました。どういう規模のサービスにしたいか、どういう規模のユーザーさんに使ってほしいか、どういう規模の会社にしたいか。IPOしたことで周りでコミュニケーションをとる人や投資家も変わってきて、そこで視座が上がった結果、自ずと取る行動も変わってきましたね。
佐藤:IPOという仕組みは長くサービスを続けていくという意味では、鶴岡さんとして良いと思えるものでしたか?
鶴岡:IPOは経営をサスティナブルにしていくための手段だと思っています。例えば、いま僕が解任されても会社は回っていくわけです。会社が自分だけのものではなく、多くのステークホルダーによって成立しているという仕組みはサービスが長く成長していくためには有力な選択肢のひとつだと思います。
BASEが推し進めているミッションは数年、数十年では決着がつかないものだからこそ、長くベット(賭ける)し続ける必要ある。そうなった場合、会社そのものがサスティナブルなものでなければ、なかなかミッションが実現できないので、個人的にはIPOしてすごく良かったと思っています。
IPOする前は「上場すると、なかなかやりたいことができなくなる」「お金が使えなくなる」といった声もあって悩んだ時期もあったのですが、実際してみると投資家もBASEのことを理解してくれていて、やりたいことには全部チャレンジできています。
そういう意味ではIPO前に心配していたほどではなかったです。IPOすると、当然ですがステークホルダーも増えるので説明コストは増えますが、そうした機会をきちんと活用すればファイナンスもできるので、そこは良い意味でギャップがありました。上場、未上場関係なく投資家にちゃんと説明すればやりたいことはできるし、「もっと大きい会社を目指していいんだ」という風に視座は上がりましたね。
1,000億円の会社をつくる、1兆円の会社をつくると未上場のときから言ってたのですが、当時はあまり現実味がなかったんです。だけど、それを投資家から当たり前のように言われたり、ステークホルダーから期待してもらったりすることで、そこを本気で目指していいんだな、という感覚に変わっていきました。これからも、ロングテールの人たちを世界で一番エンパワーメントする会社を目指してがんばっていきます。
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