音楽カルチャー発展のキーパーソンが語る|音楽ビジネスのかつてない挑戦 ─コロナショックを どう乗り越えるか─[後編]
イベント自粛による損失は2カ月で1000億円と深刻な影響を受けているライブ・エンタテインメント業界。
音楽プロダクション「HIP LAND MUSIC」代表取締役社長で、日本音楽制作者連盟の理事長を務める野村達矢さんに、アーティストの取り組み、ライブ再開に向けた準備などについて聞いた。
──ライブが開催できない苦境をどう乗り越えていきますか?
家で過ごす時間が長くなるので、モバイルコンテンツの接触率は上がっていきます。そのチャンスをどう生かすか。興味を持ってもらえることはもちろん、気持ちの部分でも支えになるようなコンテンツの提供を考えています。健康というのは身体的な健康のほかに精神的な健康、さらには社会的な健康があってはじめて健康といえる。精神的な健康も社会的な健康も奪われているという辛い状況で、音楽にできる「心の手当て」が絶対にあるはずです。多くのアーティストが積極的に動画配信やSNSでの発信を続けているのは、そのことがわかっているから。人と人とが物理的につながることができない現状は、助け合うためのコミュニケーションが取りづらくもどかしいのですが、リスナーの気持ちに寄り添って元気づけられると信じています。
──音楽プロダクション「HIP LAND MUSIC」の社長という立場ではどのような発信をしていますか?
所属アーティストと意見交換しながらさまざまな取り組みを進めています。HIP LAND MUSICでは「SENSA」というWebメディアを運営していて、これまでに数多くのプレイリストを公開してきました。
3月下旬には「元気をもらえる曲」をテーマに、初となる読者参加型のプレイリスト企画を実施し、「cheer up! Music」というプレイリストをつくりました。ゴンチチ、サカナクション、KANA-BOONなど、選曲したアーティストによるコメントとあわせて公開しているので、楽しんでもらえたらうれしいですね。
サカナクションはライブツアーの延期を受けて、過去のライブ映像の配信を始めました。また、(山口)一郎の発案で「NICEACTION」というシステムを3月に立ち上げました。楽曲やライブ映像などの配信コンテンツで課金するのではなく、配信も含めたさまざまな活動に対してファンの方々が「応援したい」と思ったら一口100円から支援できる仕組みで、現在多くの支援が集まっています。たまたま新型コロナウイルス感染拡大の時期と重なって注目されましたが、以前からファンエンゲージメントの重要性を感じていた一郎の先見の明で実現した仕組みといえます。これまでは楽曲やライブチケット、グッズの購入でしかアーティストを応援することができませんでしたが、その状況を変える新たな構造になりうると思います。アーティストの発想や表現方法も自由になるでしょうから、ファンとの関係もより近く、強いものになると期待しています。
──今後、ライブを再開するためには?
具体的な再開時期の見極めは難しいのですが、安全に開催するためのガイドラインは作成しています。衛生面と「3密」(「密閉」「密集」「密接」)の対策が重要で、「密閉」に関しては日本のライブ会場は換気機能が優れているので問題ありません。「密接」に関してもお客さんの理解のもと、ライブ会場でのマスク着用で飛沫感染を防止し、なるべく大きな声を出さないように協力してもらう。「密閉」「密接」については努力して対応可能ですが、「密集」だけはどうしても難しい。座席の間隔を空けるといった対策も考えられるものの、キャパシティの半分しかお客さんを入れられないとなると売上は半減します。必要なコストを考慮すると、チケット料金の値上げや援助いただいた基金の投入などの必要があります。人が集まるという点に関してはサッカーや野球なども同じ悩みを抱えていますので、スポーツ界とも情報共有して再開の判断に生かしていきたいと思っています。
■PROFILE■
一般社団法人日本音楽制作者連盟 理事長
野村達矢(のむらたつや)
1962年生まれ。1986年に渡辺プロダクション入社。
1989年にヒップランドミュージックコーポレーションに入社し、BUMP OF CHICKEN、サカナクション、KANA-BOONなど数多くのロックバンドを発掘し、プロデュース、マネジメントを手がける。2019年4月にヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長、同年6月に日本音楽制作者連盟の理事長に就任した。
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<発行日:2020/04/30>
*本記事は、FIREBUGが発行するメールメディア「JEN」で配信された記事を転載したものです。
Writer:龍輪剛