時代をリードしてきた音楽番組の次の一手| 『Mステ』Pが考える withコロナ時代の生番組制作
ドラマ、バラエティなど、テレビ各局が番組収録やロケを相次いで中止したこの春。音楽番組も例外ではなかったが、『ミュージックステーション』(テレビ朝日)がいち早く生放送を再開したことで業界を驚かせた。さまざまな制約の中、いかにクオリティを高め、バリエーションを生み出すか。20年にわたって数多くの音楽番組の演出を手掛けてきたプロデューサーの利根川広毅さんに話を聞いた。
──アーティストのリモート出演とスタジオライブという構成で、5月8日に生放送を再開しました。
スタジオに一堂に会して、華やかな演出で生ライブを披露することでアーティストの魅力を伝える。それがミュージックステーションのあるべき姿だと考えています。リモート出演となると映像的に見劣りしてしまうかもしれない。しかし、こんなときに形にこだわっている場合なのか…生放送を取りやめていた3週(4月17日、24日、5月1日)は過去の番組VTRを編集した内容にしましたが、いつまでもVTR編集を続けたくはなかった。
そんなジレンマを抱えつつ、レディ・ガガがプロデュースしたチャリティ・コンサート「One World: Together at Home」(日本時間4月19日開催)を見て、考えが変わりました。演出スタイルも参考になりましたし、純粋に音楽の力に心を打たれた。終わりの見えないトンネルにいるような雰囲気の今こそ、新しいものを届けるべきじゃないかと。「あえて、やらない」と決めていたリモート出演でしたが、音質にこだわることで歌のパワーを最大限に引き出し、違いを生み出せると考えました。
──「withコロナ」時代にいち早く生放送を再開したことで生まれた好企画や制作のノウハウはありますか?
RADWIMPSが番組出演のために書き下ろしてくれた新曲「新世界」を、スタジオライブで披露したことは大きなトピックでした。ドームツアー全公演が延期になり、やり場のない気持ちになっていたところに出演オファーが届き、それならば既発曲ではなく「今の気持ちをそのまま曲にして歌いたい」とご提案いただいて。新たに作曲をするという目的ができたことで野田(洋次郎)さん自身も生きる活力になったと。デモ音源を聴かせていただいて「この曲を届けるためにはスタジオライブしかない」とスタッフの総意で決断しました。
密集を避けるために無人カメラのみ9台を使用した撮影は番組初の試みでしたが、演出のクオリティはもちろん、リスク対策を徹底した制作オペレーションにも手応えを感じました。その後はテレビ朝日スタジオでの生ライブも徐々に増やしています。換気や消毒、セット転換にかかる時間を考慮すると1時間の生放送では2曲〜3曲程度が現実的ですが、アーティストのご自宅や外部のスタジオ、屋外からの中継も組み込むことで、バリエーションをつけられると思います。
──今回の経験を踏まえて、今後の生放送の番組制作はどのように変わっていくと考えていますか?
5月15日の放送では山口一郎(サカナクション)さん、川上洋平([Alexandros])さんに、Instagramでコラボライブを配信している合間にリモート生出演していただきました。おふたりともステージ演出や音の聴こえ方に関して人一倍こだわりがあることで知られていて、それに応えるべく、中継ではそれぞれがお持ちの機材とこちらで用意した機材を組み合わせて使わせていただきました。アーティストサイドでのご用意が難しい場合はこちらで手配しますし、スタッフ1名がリュックサックひとつに収まる高性能の小型送信機を持っていくだけで中継車も必要ない。5Gの運用が本格的にスタートして、リアルタイムに転送できるデータ量が増えることで、スタジオ以外の場所からでも、より高画質・高音質で遅延の少ないインターネット中継が可能になります。
制約があっても技術を駆使することによって、最少人数のスタッフで対応できることが実証されましたし、演出の幅は確実に広がると思います。これまでの番組作りでは、アーティストはスタジオに来て、制作が用意した演出で歌うことがほとんどでした。でも「withコロナ」時代では、互いに案を出し合い、新しい演出を作り上げていくことが可能になるはずです。生の温度感や空気感がこれまで以上に伝わるよう工夫できる時代が来たと言えるかもしれません。これは楽しみですね。
■PROFILE■
利根川広毅(とねがわひろき)
1977年生まれ。フリーランスとして数多くの音楽番組演出を担当し、2013年に日本テレビ入社。『LIVE MONSTER』『バズリズム』のほか、『THE MUSIC DAY』『ベストアーティスト』など数多くのレギュラー番組や特別番組を演出。2018年9月にテレビ朝日に入社。『ミュージックステーション』『関ジャム 完全燃SHOW』のプロデューサーを務める。
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<発行日:2020/06/26>
*本記事は、FIREBUGが発行するメールメディア「JEN」で配信された記事を転載したものです。
Writer:龍輪剛
Photographer:龍輪剛
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