ウーユリーフの処方箋 6章後半
※こちらのつづきです。
マツリが会場につくとそこには誰もおらず、壊れたロボットの山があるだけだった。皆脱出に失敗したのか…?しかしその中に見知った顔を見つけ、マツリは駆け寄った。
「イコモツ!!」
彼の目は割れてしまっている。
しかし、マツリが抱き起こすとイコモツは話しだした。よかった、まだ生きていた。
「みんな、先に行ったよ。僕だけ見捨てられちゃってね…」
「…お前は、これからどうするんだ?」
「マダ、スクラップになる気はナイヨ!ネタが枯渇してるなら、またインプットすればいいんだもの。まだまだコレカラだよ!」
「イコモツ…すごいな、お前は。応援するよ」
「ホントウ?でも、キミは乙女ゲームに興味がないのに」
「それでも、応援する。頑張るお前を、応援したいと思ったんだ」
「そっか…」
ガパッとイコモツの口が開き、
キリオの赤い目がこちらを覗いている。
イコモツの体は抜け殻となり、キリオがマツリを捕らえようとする。
「俺を生き残らせてよ…マッツン。」
「キリオ…無理だ、歯車はもう俺の腕輪にはめてしまった、もう外せない!」
「嘘だね。ううん、本当でもいいよ。最悪キミを殺せば大丈夫」
マツリは鼻の奥がツンと苦しくなる感じがした。
これが、本当にキリオなのか…?
これからは“友達のキリオくん”と呼んでも構わないわよ。
そう言ってくれた彼とは、まるで別人のようだ。
違和感。喪失感。悲哀。
色んなものを抱えて、それでもマツリは逃げようと必死にロボットの山を登ろうとして、気づく。
山積みのロボットは、全て男に変わっていた。
どうして、彼らは皆ヒロインに食われたはずじゃーー
「うわっ!?」
男の手につまづき、マツリは転んでしまった。怖い、それよりも、痛い。心が、痛い。
マツリは必死でキリオに呼びかけた。
「待て、キリオ!俺は、お前が自分の足で歩けるように手助けしてやりたいんだ!」
(これ、キリオが前に自分で言ってたセリフだよね。“アタシはアタシの選んだ道を、自分の両足でしっかりと歩みたいのよ。そうしたら必ず目標に辿り着けると思うから”めちゃくちゃ好きなシーンだった。あの会話を、マツリくんもしっかり覚えているんだね)
「方法はまだわからない。でもーー」
「まだわかってない!」
キリオが声を荒げる。怒っていて、でも苦しそうな感じがした。
「ここは勝負の場なのに!まだ誰かと生き残れると思ってる!」
(“生き残れる”…この言い方切ないよね。本当はキリオも皆と生き残りたいんだっていうのが滲み出てて…)
「君は主役じゃない、俺が主役になるんだ!!」
キリオが叫び、マツリにむけて銛を振りかぶったーー
パッと視界が暗くなり、すぐに眩しいほどの明かりに包まれる。手が触れている感触が変わった。
「さあ、とうとうこの瞬間がきましたー!」
どこかで、聞いた声。
気がつくとそこは、ラストレジェンドのステー上だった。
マツリもキリオも、状況が飲み込めずに呆然とする。そんな二人を置いて、カップケーキはサクサクと進行していく。ステージの下から、積まれた男達が恨めしそうにマツリ達を見ている。
「決勝に残ったのは門マツリと木元キリオ!結果発表…の前に、キャラコンペがありますね。ロボP〜!」
俺とキリオが…?マドカとトモキじゃないのか?
マツリの疑問などお構いなく、ステージ脇からちょこちょこロボPが出てきて、淡々と結果を告げる。
「えー今回のキャラコンペは該当なしネ。以上。」
ステージ下の男達から大ブーイングが起こる。しかし、それはすぐに悲鳴へと変わった。
「なっ…!?」
男達が、ドロドロと溶け出したのだ。
嫌だいやだいやだ!!俺はまだやれる!捨てないでくれ!!
様々な悲鳴が響く。まさに阿鼻叫喚。しかしそれもすぐに聞こえなった。男達は全て溶けてしまったのだ。
「イヤだ…イヤだ、ああなりたくない!」
キリオが頭を抱えてうずくまる。
ステージの下は、死体のプールになっていた。
「俺はまだ…俺はまだやれるっ!」
「キリオ…?」
キリオはもう、マツリのことも何も見えていない。
二人の心情とは全くそぐわない、明るいカップケーキの声が強制的にステージを進めていく。
「決勝に進んだ門マツリと木元キリオ、二人の勝敗を決めるのはこれを観ているあなた!そう、あなたです!」
ビシッと、誰もいない死体のプールを指さす。
わけがわからないマツリが首をかしげていると、プールから無数の手が生えてきて、そして一つに固まった。
そう、審査員はヒロインだ。
「それでは、審査員のみなさんに向けて一人ずつメッセージをお願いします!これが勝敗を分ける可能性もありますよ!」
そうか、これが最後の好感度イベントだったんだ。これでヒロインに選ばれれば最後の宝石が手に入り、腕輪が完成する。
つまり、この機を逃せばもうチャンスはない。
「それではまず、キリオくんからどうぞ!」
「え…あ…」
急にマイクを向けられ、キリオが狼狽している。
(こんなに狼狽えてるキリオ初めて見た。不謹慎だけど、かわいい…笑 いつも勇敢に皆を助けてた水色キリオの印象がやっぱり強いから、つい守ってあげたくなるよね)
胸の前でギュッと拳を握り、ぽつりぽつりとキリオが言葉を落とす。それは、アピールや格好つけではない、哀願だった。
「俺は…俺は、今の自分が嫌なんだ。このままじゃ埋もれていってしまう…そんなの嫌だ。だから、だからチャンスが欲しい!生き残れる、チャンスが。…どうか、俺を選んでほしい」
俺が知っているキリオは、こんなに孤独をまとった男だったろうか。なんだろう、この違和感は。見た目の変化だけじゃない。確かにキリオなのに、キリオじゃない。いつからかそんな気がする。そう、それはちょうど、皆でヒロインを討伐したあたりからーー
「続いて、マツリさん!」
ハッと意識が引き戻される。
どうしよう、なんて言えばいい?
悩んでるマツリの手に、ふとポケットの中の物が当たる。そうだ、道中に落ちていたあのメモ…。
一か八かの賭け。だけど、確信があった。
マツリが5枚のメモを渡すと、ヒロインは案外すんなりと受け取った。
「そのメモ…処方箋。最初は俺達ユーザーに向けたものだと思った。でも違う。囚われてるのは俺達だけじゃない。キリオも…お前も、この世界に囚われているんだ」
このゲームの名は、ウーユリーフの処方箋。そう、処方箋なのだ。
それなら目的はヒロインを倒すことでも、攻略することでもないはず。
「俺は、お前を助けたい」
救済
それこそが、このゲームの目的。
そしてそれは、恐らくマツリの役目ではない。散々キャラクターの意思がどうこう言っていたんだ、救うのはきっと、彼女自身。
「お前はゲームに操られ、消費されてきた。だけどお前もまた、男たちを消費している。お前は被害者一辺倒ではないんだ!」
「う…うるさい、うるさい!!わたしのこころ…踏みにじられた…!これは、復讐ううう」
ヒロインが処方箋をビリビリに破いて暴れる。そんな彼女を恐れることなく近づく者が一人。
たぶん、会場全員が彼を見ていた。
「ごめんね…」
イコモツ。生きていたのだ。
「キミたちをそうしたのは、僕タチだ。ユーザーに喜ばれるものを追求するうち、キミたちをキャラクターのココロを消費しているのに目をつぶっていた。でも、わかってほしい!キミたちのおかげで癒やされた人が、いっぱいいるんだ!」
イコモツがビリビリに破かれた処方箋を拾い上げ、ふわっと空中に投げた。
すると舞い上がった紙片はキレイな便箋に変わり、たくさんの手紙がひらひら落ちてくる。
マツリもロボPも、ヒロインも。それを一枚手にとって読んだ。これは、ファンレターだ。
ロボP「ああ…懐かしいナ。こんなに人気のときもあったネェ」
キリオ「こんなの、過去だよ。人気で居続けなきゃ意味がない」
キリオが切り捨てる。しかし、イコモツは気にせず続けた。
「キミたちを空っぽにしたのは、僕たちだ。でもキミたちは、多くのユーザーを救ったヒーローなんだよ!」
その言葉にヒロインがうずくまり、苦しんでいる。まるで過去の自分を責めるように。
「わたし、誰かの言いなり、嫌だったのおおお。わたし、なんてことを…」
「コレカラだよ。」
「!」
「決めた!僕の次の作品は、ユーザーもキャラクターも救えるゲームにするぞ!それが僕の贖罪…僕のコレカラだ!」
イコモツは力強く笑う。その表情は明るい。
イコモツ「キミは?」
ヒロイン「わたしの…コレカラ…わからない。わたし、どうしたら…」
マツリ「自分で考えろよ」
この世界に来てから、マツリはずっと考えていた。
ロボットやキャラクターに人権はあるのか。
切り捨てられる人間に価値はあるのか。
ーーそんなものは、ないのかもしれない。
だけど求めてやまない。だって彼らには、心があるから。
マツリ「お前も、お前に食われた男たちも。誰にも侵害されない心を持っている。だから、誰にも侵害されないよう心を大切に育んでくれ」
キリオ「…マツリ?」
なんとなく胸騒ぎがして、キリオはマツリの名を呼んだ。
けれどマツリは止まらず、キリオが落とした銛を拾い上げ、
自分の左腕に突き刺した。
キリオ「!何して…っ」
マツリ「救われた…?違うだろ!お前を救うのはゲームなんかじゃ…俺なんかじゃ…ないんだよっ!!」
ガンッ
マツリは、銛で自分の腕を引きちぎった。
痛い。痛みは一瞬で消えたけれど、紛れもなく本物だった。
俺は、生きている。
キリオ「マツリ…何して…」
マツリ「この腕輪は…持ち主に対するヒロインの好感度が上がれば完成する。お前からの好感度を上げるべきなのは俺じゃない。お前自身なんだ。」
心配するキリオを他所に、マツリは腕輪をヒロインへ差し出した。
「手は貸してやるが、ここまでだ。空っぽでも、世界にただ一つしかないお前の心で考えろ」
「わたし…わたし、コレカラ…好きな服着る…好きなもの食べる…好きな場所に行く…そして…好きな乙女ゲーム、作る」
「いいのか?それもまた、設定なんだぞ」
「それでも…いい。本当に、乙女ゲームが、好きだから…」
ヒロインはニコッと笑って、そして好感度選択肢が出てきた。
「私は絶対に…私自身を好きになってみせる…!」
ピロリン
効果音がなって、どこからともなく“種”が現れた。それは腕輪にハマって、腕輪からはキレイな宝石の花が咲く。
すると、ボロボロとヒロインの体が崩壊し男達がただの山になる。その中から、一人の女の子が出てきた。
ヒロインだ。今までのヒロインじゃない、タイトル画面にいた本当の姿。
一つ違うのは、目の前の彼女には目がない。けれどとても幸せそうに微笑んでいるのがわかる。
ヒロインはとことこマツリに近づき、上ずった声で話しかけた。
「あ、あの…!マツリさんが頑張る姿に、いつも励まされてます。よかったら、これ…!」
そして、先程の花を差し出した。
マツリは困惑しながらもそれを受け取る。
「あ…ありがとう」
「わあ、嬉しい!」
嬉しそうにはしゃぐと、ヒロインはスッと消えていった。
シンと静まった会場に、カップケーキの声が響いた。
「これで決まりました!勝者は、門マツリ!」
パアンという破裂音と共に紙吹雪が舞う。
花を持ったまま立ち尽くすマツリを無視して、会場は祝福ムードで進む。
これは…クリアしたのか?
「そして残念ながら、木元キリオは敗退となります!」
「そんな…また?」
キリオと目が合う。
泣き出しそうな、空虚なような、そんな声で、
「マツリ…
助けて」
「!」
パカッ
キリオが立っていた地面に穴が開く。
「キリオッ!!」
マツリは必死に手を伸ばしたが、届かない。
キリオは奈落へと落ちていってしまった。
「キリオ!キリオ!!」
マツリは必死に叫んだ。
しかしその声には誰も答えず、カップケーキが明るい声で続けた。
「門マツリさんには広い世界へ羽ばたいてもらいましょう!」
「待て、待ってくれ!また終わりじゃない!!」
「それでは、これにてラストレジェンドは終わります!皆さんありがとうございました〜またいつかお会いしましょう!」
「そんな…っキリオ!!」
観客なんかいないのに拍手が響く。目が眩むほどの眩しさに包まれて、視界が真っ白になった。
「っここは…」
目を開くと、そこはよく見慣れた場所。
俺の部屋だ。
カナタもノゾミもミトも、キリオもいない俺の部屋。
俺は、現実に帰ってきたのだ。
.
.
しんどい。
もうそれしかない😭
門マツリ=律マドカっていうね、ウーユリーフキャラたちはラスレジェの「逆さま」なんだなっていうのはまあ薄々気づいてたにしても、
カップケーキちゃんがピンクになったことでその考えが正解だったと確信できたよね。だって、モニター越しに見てた彼女は緑色だったもん。その反対色ってことでしょ??たぶん。もうそんなことはどうでもよくてさ、私が気になるのはもうキリオだけだよ!!!
ていうかさ、やっぱりキリオはマツリのことを心配してくれてたね!!やっぱり、私が好きだったあのキリオは嘘じゃないんだよ…!!
でもさ、めちゃくちゃ不安なんだけどさ、
これ最後はちゃんとキリオも救ってくれるよね??
え、じゃなかったらすごいショックなんだけど。
こんなにすごいドハマリして、初めて課金までしたアプリ。(読み返すために何章か買いました)
残念ながらラストレジェンドの世界が現実って線が濃すぎるからそこはもう諦めるけど、でも最後はもう一回ウーユリーフの世界に戻ってキリオも救ってくれるよね???
じゃなかったら課金した意味がない。
人生初課金を無駄にしたくない。
ウーユリーフは一貫して「キャラクターにも心がある」って言ってるゲームだし、なにより、「キリオがピンチのときは、俺が助けるよ」っていう伏線があるんだから間違いなく助けてるくれる…はず。
ていうか頼むからそうであってくれ。
じゃないと鬱になる。
ゲームは人の心を癒やすものってイコモツ言ってたし。
何よりこのゲームは「ウーユリーフ」、だからね。
信じてるよ、マッツン!
(6章 終)