珊瑚礁は砕けた

最初に嘘を吐いたのはだれですか、どんな嘘を最初に吐いたのか憶えていますか、そんなものは忘れましたかそうですか、わたしもです
どんなにたくさん考えてもあなたの感情は分かりません、みなさまの顔色を伺って生きていますがごあいにくさま、目が悪いので色なんて分かりません、何が本当で何が嘘かなんて、あの子が面白いと言っていたいつかのドラマみたいなことを延々考えて返答が遅れる、会話が遅いわたしはみなさんを不機嫌にする、正しい答えをいつも探している、まるでテストのように、まるで地雷を避けて歩くように
あなたはどうですか、会話は得意ですか、「あなた」はあなたのことです、あなたは今なにを感じていますか、分かるわけありません
死にたいですか生きたいですか、どちらでもないですか、最近いいことありましたか、悲しんでいるのは何故ですか、だれの所為なのですか、それらはだれかにお話しすることで楽になりますか、大切なものはありますか、失くしてしまったものはありますか、服を選ぶときの基準はなんですか
ぜんぶどうでもいいことです、大切などうでもいいこと、蔑ろにしたいのではなくて、話さなくても生きていけるという意味で、でもわたしはそういったお話を聞くことがとても好きです、とくに人間が何かを選ぶ基準だったりその様子を想像することがとても好き、悪趣味なのでしょうか、そうでしたらごめんなさい

人と話すときに出る声はどうしても小さく細いものになってしまっていつも不快にさせてしまう、字が小さいことを母にいつも咎められていた、クラスメイトの女の子みんなが着ているような中央に可愛いイラストがプリントされた服は母が嫌っていたからあまり着られなかった、そのことがかなしかった
小学校にあった金木犀の木と春に咲く裏庭のすずらんがとてもすきだった

その手を離したのは誰ですか、気が付いていますか、本当とはなんですか、疑ってしまうのは何故ですか、時間が解決するその時間とはどのくらいですか、やさしいという褒め言葉に対する印象はどうですか、前を向こうの〝前〟とは何処のことですか、わたしが苦しい理由をあなたは教えてくれますか、考え過ぎだと一蹴されてお終いでしょうかそうですか
苦しさを糧になんて生きられるわけがないから、他人の手によって勝手に押し込められた水槽の中で今日もぼくらは薄暗い水底で手の届かない鮮やかな水面を見上げるんだね
泳げないさかなはしんでいくんだよ、珊瑚礁は砕けて灰になるんだよ、星になんてならないの