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私を構成する100曲とその思い出(後編)

 ↑この記事の後編になります。自分の人格形成とか人生の方向付けに大きく関わっている好きな楽曲のプレイリストについて、思い出とその曲の良いところを書いていこうという内容です。選んだ基準や並びのざっくりとした流れについては前編をご覧ください。

 プレイリストはこれです。前編を公開したあと早速、優しい方々からおすすめの曲を紹介していただけて、とてもうれしい気持ちで文章を書いています。知らない音楽がこの世には異常に多い。



○思い出⑪Talk/beabadoobee

 連想ゲームについて。私は新しい物事と出会ったときに、そこから出発する連想ゲームをするのが癖になっています。1:1で対応する物事と名称を覚えるときでもそれが発生します。
 例えば、「古代ギリシアのソフィストでゴルギアスという哲学者がいた」という情報を覚えるとき、”ゴルギアス”という仮名の音が、歯車がかみ合う音みたいだと思って「歯車」を連想して、さらに歯車から工場を連想してしまいます。ゴルギアスを覚えたのは高校の倫理の授業でしたが、そのとき歯車を連想して以来ずっと、ゴルギアスといえば歯車を思い出すし、逆に、歯車といえばゴルギアスがいたな、と思うくらいの親密度で私の中に存在しています。
 認知心理学の用語で「符号化特定性(特殊性)原理」というのがあり、詳しくは調べていただきたいんですが、

 どういう文脈で記憶するかが、記憶を思い出すのに大きく作用しているということがあります(上のブログの説明にある通り、ダイバーの実験が有名で、水中で学習したことは、陸上にいるよりも水中にいた方が思い出しやすかった、という結果が出ています)。記憶を取り出すとき、記憶した時点の環境や感情が同じである方が、思い出しやすい。
 小学校の思い出は、実際に小学校の校舎に行った方が思い出しやすいし、先生に関する記憶は、実際に先生と会ったらより思い出されるかもしれない。

 という余談を経て、Talk/beabadoobee の事について書きますが、この曲と出会ったのはつい数か月前のことで、好きになってからほやほやではありますが、一度聞いただけでもう自分がぴったり好きな曲であることが分かりました。プレイリスト中でいうと、Kero Kero Bonito とか Luby Sparksとかも(ここには挙げませんでしたが Wet Leg も)、同じような感情で好んでいて、疾走感とはまた少し違う独特の駆け抜けていく感じと、駆け抜けた先には早逝が待っていそうな、あまり走っていかないで と引き留めたくなる感じが、心が苦しくなって、好きなアーティストたちです。
 それで、「Talk」を聞いたとき私の癖が発動して、聞いてなんとなく悲しくなりながら、パッと「駆け抜け死」という言葉を連想してしまいました。なぜかは分かりません。駆け抜けていってそのまま死ぬ、駆け抜け死という造語。で、連想なのですぐさま派生して、この語順は銀杏BOYZの「駆け抜けて性春」だ、と思った後、そこからまた派生して、小野島徹と餅田コシヒカリによるお笑いコンビ「駆け抜けて軽トラ」を思いました。

 そして、ゴルギアスと歯車のときのように、それらが割と緊密にキュッと結びついてしまって、今、なぜかbeabadoobeeの曲を聞くと駆け抜けて軽トラの二人のシルエットがぼや~んと頭に浮かんでくる状態にあります。(逆はまだ強固じゃないので、駆け抜けて軽トラ→beabadoobeeには飛ばないんですが)
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 符号化特定性原理のことを思いながら、こうして楽曲ごとに思い出を書こうとしてその楽曲を聞くと、わりと自力では思い出せなかった昔の細かい記憶が温泉みたいに湧いてきて嬉しいです。前編で書いたsora tob sakanaと『ハイスコアガール』とYMCKの3つの繋がりについても、それぞれを目にすると他の二者を思い出す状況にあって、こうやって連想を無限に広げて繋げていけば、一つの物事ですべての事を思い出せる状況が創出可能なんじゃないかとうっすら夢見てもいます。


○思い出⑫夜行性の夢/呂布カルマ

 前編で書いた通り、私はメロディが付くと途端に歌詞の意味が取れなくなる(日本語で何か言ってるな~程度で、乱視で見た月みたいに何重にもブレて聞こえる)性質があって、別に実害がないので気にしてはいないですが割と酷くて、ポエトリーリーディングとかはまず一文字も聞き取れないし、朗読も、ちょっと声を工夫されると意味が分からなくなります。
 なので、MステとかカウントダウンTVで、好きな曲の街角インタビュー的な企画で、ここの歌詞が好きで~♪ って口ずさんで紹介したりするところは、インタビューの言葉は聞こえていたのにその部分に差し掛かった瞬間分からなくなるという現象が起きます(大抵テロップで書かれているので、文字を見て意味を補完する)。
 自分としては、おそらくメロディを感じてしまうと、〈意味を伴った声〉が〈(意味を伴わない)音〉に変換されてしまうのかなと思っています。ボーカロイド曲を途中から聞けるようになったのも、ボーカロイドが発する声は機械が発する音でしかないという(作曲者も聞く側もみんなが共有している)前提が、自分にとって心地よかったからだと思います。

 と言いながら、高校の終わりぐらいから、日本語ラップをたくさん聞くようになっていました。別にコアなファンでもないし、高校生ラップ選手権とか、フリースタイルダンジョンとかから入ってバトルを主に見ていたので、音源をそこまでディグっていたわけでも無かったので、そこまで周囲に言って来たわけではないですが、かなり熱心に追ってはいました(ムートンがスタイルを変えたあたりから徐々に興味は下がっていった)。
 ラップは、自分でも不思議ですが、微かに言葉が聞き取れます。韻が踏まれていることがそのヒントなのかもしれないけど、自分にとってもいまいちその理屈は分かっていません(言語遊戯の一つだと思っていて、パズルみたいに引いて見ているからかもしれない)。

 呂布カルマは、今でこそメディア露出も増えてあんな感じですが、僕が見始めたタイミングだとR指定とか晋平太からの教祖イジリのピークのころで、喋ってるだけなのにこんなにファンがいるのはどうしてなんだろう とそのときは素直に思っていました。韻を踏まないのもラップなのか? みたいな(自由律俳句も俳句だが自由律が無際限に”自由”だった場合、それを俳句とするメリットは「俳句」側にも「自由律俳句」側にも本当にあるのか? みたいな感覚と同じように)。
 その数年後、フリースタイルダンジョンで例の「やっぱコイツ強ぇや もうダメだ 強い」を言ってR指定に負けているシーンを実際にテレビで見て、そのときにやっと、この人のやろうとしていることが分かった気がする……と思って、遅すぎるタイミングで呂布の音源を探り、「夜行性の夢」に出会って、これは素晴らしい と思ったという流れがあります。

可能性無限 夜行性の夢

夜行性の夢/呂布カルマ

 繰り返されるこの詞、トップレベルに好きで、ふつうに詩として凄いと感じています。この詩が最大限効果を発揮できるための音がちゃんと用意されていて、夜にこの曲を聞くと、思考が無限に広がっていく感覚になります。
 自分が夜行性で、夢を昼になってから見る、みたいな可能性と、夢自体を生きもののように感じて、夢が夜行性なんだとする可能性とが、うつくしく同時にそこにあって、夜の水族館に来ているみたいな気持ちになります。
 音源では韻を過度なくらい上手く踏み倒しているというクールさも含めて、自分が追って来た数々の名勝負のことも思い出しながら、かっこいい曲だなと思います。


○思い出⑬Duvet/bôa, 眩暈/小島麻由美

(小島麻由美に関しては、プレイリストでは「さよなら夏の光」を挙げています。)
 この2曲は、私が偏愛している2つのアニメのそれぞれの主題歌です。Duvetは『serial experiments lain』、眩暈は『神霊狩』です。それぞれ、あまりにも自分を形成するのに大きい役割を果たしています。この二つのアニメのことについては、書き出すと死ぬまで書き続けられるのでそれはいつかに譲るとして、この二つの曲はアニメを見るたびに聞くし、曲を聞くたびにアニメを見たくなります。そんなにアニメは好きではないですが、この二つだけは例外です。
 lain はいつのまにかサブカル受けの良いグッズみたいに消費されていて、なんか残念というか、「そういう受容の仕方こそlain が批判している所なんじゃないの」と思いますが、どんなことがあっても作品自体の価値は決して変わらないので、私は私の愛し方でこれからもlain 愛し続けようと思っています。
 神霊狩は、知名度がかなり低く、lain みたいになってはいけないのであまり大声では言いたくないところです(最終回だけは、なんじゃそりゃ みたいな大団円なんですが、それもまた愛せると私は思っています)。
 この二つの曲を聞くと、故郷 みたいな気持ちになってきて、自分の大事なところはあの時と変わっていないと確認出来ていつも助かっています。お守り、というと少し気持ち悪いですが、困ったら聞くようにしています。

 主題歌で言うと、『蟲師』の Shiver/Lucy Rose とかもかなり良かったですね。雨の日に聞きたくなります。他、プレイリストの中だと LIFE/中島美嘉(ドラマ『ライフ』(北乃きい、福田沙紀 等))、僕でありたい/Hi-Posi(アニメ『ジャム・ザ・ハウスネイル』)、walls/Alisa(ドラマ『SICK'S』(木村文乃、松田翔太 等))など。堤幸彦監督作品が好きなので、本当はもっと挙げたかったものでいうと、 NAMI no YUKUSAKI/THE RiCECOOKERS(『SPEC』)、月光/鬼束ちひろ(『TRICK』)、クロニック・ラヴ/中谷美紀(『ケイゾク』)で、500回ずつくらいは聞いています。
 主題歌というものは、そのドラマやアニメの内容まで引っ張ってくるのでシンプルにお得ですね(前編に書いた『害虫』とI don't know/ナンバーガール も同様)。「LIFE」のイントロを聞いただけで、北乃きいとかクマのぬいぐるみとかを思い出すし、「僕でありたい」を聞くだけで夕方の気分になってきて体が「ゆうがたクインテット」とかを思い出す体制に入るし。
 SPECはもう何周見たか分からなくて、ブルーレイBOXを持っているので暇があれば見ていますが、たまに時間がないけど見たいという時は「NAMInoYUKUSAKI」と、映画版主題歌の「audioletter」、渋谷慶一郎演奏のメインテーマを聞いて、内容を脳内で手動で回想するというのをたまにやっています。一応、「クロニック・ラヴ」で若い頃の渡部篤郎を思い出すのもまた定期的にやっています。真山徹……。


○思い出⑭クープランの墓/モーリス・ラヴェル

 便宜的にプレリュードの部分のみ入れましたが、フォルラーヌとかもいいです(通して聴くのが一番)。
 クラシックも好きなんですが本当に一部しか知らなくて、これからいっぱい聞いていこうとは思っているんですが、このプレイリストに入れ込むほどの愛着があるのはクープランの墓くらいだろうと思います。知ったかぶりをする気もないしできるほどの知識がありません。

 この曲との出会いは、クラシック経由ではなくて、音ゲーの太鼓の達人からでした。私は小学生のころから太鼓の達人をやっていたのでもう18年くらい遊んでいることになります。働き始めてからは1か月に1回ゲーセンに行くかどうかくらいの頻度でしか遊んでいませんが……(今もほぼすべての音ゲーをやりますが、太鼓の達人については、「幽玄ノ乱」が出てきたときに一切のやる気を失い、「!!!カオスタイム!!!」で完全にやるのを中断しました。後で触れるかめりあ・aran・Silentroomさんあたりの曲が収録され始めてから、好きな曲だけをやるようにして今もやっているところです。今は、とける/katagiri(かたぎり名義で発表)と、Destination 2F29/井荷麻奈実 がアツいです。難易度もちょうどいいです。彁/Leaf も曲が良くて、表譜面であれば好きです(裏譜面は不可能))

 太鼓の達人に入っているクラシックなんて有名どころばかりなのに、突然この「クープランの墓」が収録されて、(音ゲー版としてかなりアレンジは加えられていますが)この曲のカッコよさと柔らかさ、不穏さ、遥かさが上手く収まっていて、小学5年か6年の私はもうひとえに感動しました。それから、Youtubeで探してこの組曲を通して聴いて、さらに感動して、それからはたまに聞き返しています。特につらいとき。太鼓の達人版がプレリュードメイン(他の楽章からも所々引っ張ってきてはいるものの)でそちらに馴染んでいたこともあって、スタートからクライマックスのような気持ちで聞いています。
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 この曲を知ったのが小学生の頃の事ですが、大学に入って本格的に俳句と短歌と詩を頑張り始めた頃、シュペルヴィエル、アポリネール、エリュアール、ヴァルモール、マラルメとかそのあたりのフランス詩人の詩を読んでいて(国文学科なのに二外はフランス語を取ったので、フランス詩ばかり興味があった)、なんかやたら「墓」が出てくるなあと思って引っかかっていました。
「風立ちぬ」でおなじみのヴァレリーの「海辺の墓地」、ヴェルレーヌ『墓』、マラルメ「シャルル・ボードレールの墓」「エドガー・ポーの墓」、ロンサールとかヴィヨンの「墓碑銘」とかとか。「tombeau」という文字列を見かける頻度があまりにも高い。
 そこで、そういえばラヴェルもクープランもフランス人だなと思いだして、あれも墓だな と思って改めてこの曲の事を思い出したりしました。日本で「墓」というと、ちょっと光景が土着的なものになりすぎるというか、悼むっていうよりは「墓」という物質そのもののパワーが前面に出すぎる気がして、あんまり使いづらい単語な気がします(トンボ―は、「墓」というよりも故人を悼む楽曲のジャンル名のような用いられ方をしてきたそうですが、それにしても)。詳しくないけど、永代供養にエピタフ(墓碑銘)とかってあるんだろうか……個人の死/詩へ巡礼するなんて行為が、私たちから遠く離れてきているなと思います。
 かなり時間が経ってからまた違うアプローチで考えることになった、自分の中でもそんなにない経験をさせてくれた曲です。


○思い出⑮最後の時間旅行のテーマ/西浦智仁

 これはゲームの「レイトン教授」シリーズ三作目「最後の時間旅行」のテーマ曲です。本当はこれに加えて、四作目「魔神の笛」から、「デスコールのテーマ」か「ラスト・バトルのテーマ」を入れたかったんですが、Spotifyには第一シリーズの三部作しか入っていなかったので、なくなく省略。
 音楽から広がる世界、を感じさせてくれたのは、このレイトン教授と、ドラゴンクエストシリーズが私の中では大きくて、ドラクエのサントラも無かいので入れられず。
 私がどれくらいレイトン教授シリーズを偏愛しているかというのは、以前に書いた全く別の日記を読んでいただくのが早いです。

 何度も言っていますが、カトリ―エイル(レイトンの娘という触れ込みで始まったシリーズ)はレイトンシリーズとして認めていなくて、食わず嫌いもダメだからと思って本当に3DSでやってみたら、本当にストーリーもナゾもスカスカで、主題歌も西野カナだし(西野カナが悪いって言いたいわけじゃなくて、iris~しあわせの箱~/Salyu、時間旅行/Ann Sally、Paxmaveiti/安藤裕子、Mysterious Flower/松任谷由実、Surely Someday/福原美穂、とここまで世界観を守って素敵な曲を付けてきたにもかかわらず、なぜここで全く関係ないポップな、Girls/西野カナ なのか、理解ができない)。レベルファイブはそういうところで(人気になったシリーズをダメにするのが上手いと)批判されることが多いわけですが、カトリーエイルに関しては、関係者全員が不憫な気がしています(カトリーエイルを心から愛している人がいたら、ここまで言ってすみません)。

 と、レイトンの話をするとすぐにカトリーエイルのことを言ってしまいたいくらいには、レイトンシリーズを愛しているということで、特に最後の時間旅行が一番好きだったのでこの曲は欠かせません。
 ゲームで初めて泣いたのはこの作品でした。レイトン教授がシルクハットをかぶっている理由、ルークとレイトン、クレアとレイトン、泣く理由があまりに多すぎて、私には耐えきれませんでした。

 最近漫画のワンピースが謎をどんどん明かして終わりに近づいてきていますが(エッグヘッド編が二年半やっていたという事実が受け入れられなくてびっくりしました。かなり短い編だったなと思っていたために)、ワンピース一巻から、ジャンプでリアルタイムで読んでいた人にとっては、本当に幸せな事態だろうなと思います。私は父親が集めていて、文字が読めるようになってから読んだ+アニメで見ていたので、アニメの空島編辺りのときに1巻から読み返しましたが、もう少し早く生まれていて、クロ(「杓死」)とかから同時に成長していたらもっと良かっただろうなと思います。
 そんな感じで、レイトン教授は不思議の町から追っていたし、超文明Aの遺産でまた泣いて、働き始めてから2025年にまさかの続編が出るという、リアルタイムで追えていることの喜びを感じています。今はただ、新作「蒸気の新世界」がカトリーエイルのように頓挫しないことを祈っているし、「ひらめきコイン」を第一シリーズの時くらい探すのが気持ちいいものにして欲しい。それだけです。
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 ピアノを弾けないのに、音楽のことを正しく判断して評価したいと思ったから、去年くらいから謎に音楽理論を勉強していて、独学だしそれを実践するタイミングが無いので全く身にはなっていないんですが、少しでも音楽の出力をしたいと思って発作的に電子ピアノを買い、ちょこちょこ練習するようにしています。弾こうという気持ちで初めて買ったのが、レイトン教授シリーズ唯一のスコアブックで(『レイトン教授シリーズ ピアノ・ベスト・セレクション』)、だから謎に最後の時間旅行のテーマだけうっすら弾けます。ピアノは音ゲーとは全く違う難しさがあって、でも楽しいです。大金持ちになって働かなくてよくなったら、まずピアノ教室に行きたい。
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 書きそびれましたが、ゲームミュージックであれば、光田康典さん・浜渦正志さんの曲は外せなくて、入れようと思ったんですが私が好きな曲がspotifyになくてこれもまた泣く泣く省略しました。光田さんの代表作としてはクロノ・トリガーとか、ゼノギアスとかになるんだと思いますが、私が思い入れがあるものは、『ソーマ・ブリンガー』の全曲(特に「イデア」)です。美しくて、あれこそ思い出で、初めてサウンドトラック集を買いました。”クソゲー”として有名な『ワールド・デストラクション』も光田さんが曲を監修していて、ゲーム内容はぼろぼろ(しかも私に関してはバグって最終盤で進めなくなった)でしたが曲はずっと良かったです。「犬神の里」(『シャドウ・ハーツ』)とかも良いです。
 浜渦さんの方は、『シグマ・ハーモニクス』で初めて知って(特に「悲涙」が好き)、この人もまた天才だと思います。


○思い出⑯午前8時の脱走計画/Cymbals

 親が好きだった曲は、”親が好きだった”という要素を絶対に考慮したうえで考えるようにしていて、そこから自分はどれくらい離れたり近づいたりして新しい曲を好きになっていくのかを測るために、意識的に曲を聞いています。ドリカムとかユーミンとか椎名林檎とかミスチルとか、親が聞いていたから無意識に好きになってしまうのも危うい気がするし、間合いをちゃんと見ながら曲と対峙したいという思いがあります。
 そんな中で、自分が勝手に好きになったと思ったものが、実は親もがっつり聞いていて、なんなら自分も幼いときに聞かされていて、それを完全に忘れていた という稀有な体験が、Cymbalsで起きました。

 母は渋谷系が好きだったので、フリッパーズ・ギターがいっつも流れていたことは覚えていて、だから松山ケンイチ主演の『デトロイト・メタル・シティ』を観たときもそれで盛り上がっていたことも記憶していました。
 その流れで、実はCymbalsもかなり聞いていたようで、つい去年帰省したときに車でかけるCD(Bluetoothとかに疎くてまだCDを使っている)を選んでいたら、Cymbalsの『Higher than the Sun』と『Highway Star, Speed Star』があって、何故こんなとこにと思えば、昔からよく聞いてたし出会いはジャケ買いだった、みたいなことを母が言い始めて、良くも悪くも”血”を意識して気持ち悪かったです。

 私の方は、最初は音ゲーから始まって、前編の⑩で書いたwacさんの「Little Prayer」が好きになって、そのボーカルに「土岐麻子」と書いてあって、そこから興味を持って調べていたら同じ時期ぐらいに、後述するsasakure.UKさんの「深海のリトルクライ」でまた「土岐麻子」の名を目にして、魅力的な人だなと思っていたら、いつの間にかCymbalsに出会いました。最初目にしたのは「Air Guitar」で、かっこよすぎる! と思ってハマり、「午前8時の脱走計画」「時を名乗る天使」「RALLY」「My Brave Face」と好きな曲が増えていきました。沖井礼二、いいですね。


○思い出⑰Neo Identity/YMCK

 YMCKは、おそらく小学生か中学生の時にyoutubeでたまたま出会って、そのときに見たアルバムが3rd『ファミリージェネシス』で、「錆びた扉の第8天国」が最初の出会いだったと記憶しています。ピコピコサウンドというか、チップチューンというか、幼少からPerfumeが好きだったことと古いゲームの曲が好きだったこともあって、すぐに好きになりました。同アルバムでいうと「Rain」「Floor 99」「フィナーレ~Welcome to the 8bit world~」が素晴らしく。
 そこからずっと活動を応援していて、太鼓の達人に現れたり、maimaiに現れたり、ちょくちょく音ゲーで見かけたら真っ先にプレイするようにしていました。『YMCK SONGBOOK -songs before 8bit-』の「傘がない」のカバーは8bitの良さが最大限に出ているし、それ以降の「カレーだよ!」とか「猫に囲まれて暮らしたい」「左折して右折して」の開き直ったおもしろ・かわいいソングもまた面白くて、でもたまに真剣に「逆らいがたき運命の中」「Neo Identity」「レトロ・リバイバル」みたいな曲が入ってくることで、厚みも出て。
 beatmania IIDXの8bit collectionの発売告知を見かけたときは、YMCKが居ないと嘘だと思って、確認したらちゃんと「天空の夜明け」アレンジで参加していて嬉しかったし、Closure In Moscow「ピンク・レモネード」リミックスも尖っててかなり良かったし、東京女子流「鼓動の秘密」YMCKリミックスも切なくてキュンとしたし、見かける場所ごとにちゃんと活躍していてすごいなあと思います。
 Youtubeチャンネルも、今は2万人もいますが、もっと少なかった時から登録していて(古参アピール)、ひっそりとしたファミリーレディオショーも時間があれば聞くようにしているというファンです。

 これからも応援しているし、どういう曲が次に作られていくのかが楽しみです。個人的には、『ファミリージェネシス』2 みたいなものとか、『MAGICAL GARAXY TOUR』2 みたいなものを望んではいますが、全く予想外のものが出てくることも期待しています。そして、もっともっと評価されますようにという願いと、流行らないで欲しいというファンの勝手な思いとがあります。でもギリ、もっとみんなに聞いてほしいという思いが勝っているので、プレイリストの中にも入れた形です。


○思い出⑱2021年の魔法使いたち/Camellia

 かめりあ(Camellia)さんの曲は、音ゲーで毎回選ぶくらい好きなんですが、最初はそこまで認識していなくて、高校の時に知りあった小説家の方がひたすら、かめりあ・猫叉masterをおすすめしていて、じゃあ、とよく聞くようになったのを覚えています(だから、その方にとっては、「サヨナラ・ヘヴン」かめりあリミックスが最高らしい)。私が初めて聞いたのが「ココロの質量」が先だったか、「crystallized」が先だったかは覚えていないですが、とにかくカッコよく、ノリどころを鍼灸師みたいに正確に把握している、器用な方だなと思っていました。
 かめりあさんの曲がいつの間にか高難易度専門みたいになってきて、それに合わせて自分も頑張って成長して、SOUND VOLTEX(以下SDVX)は或帝滅斗まで来て(暴龍天は、なんとしてもクロノカプセル回で取りたくて、それに苦労している)、beatmania IIDX(以下弐寺)は中伝まで来たわけですが、自分が成長することで好きな曲に立ち向かえるという体験の喜び、を一番感じるのがかめりあさんの曲です。弐寺で「バッド・スイーツ、バッド・ドリーム」(A)をクリアできた時は久々に嬉しかったのを覚えています。
 曲として好きなのは、CHUNITHMの「Λzure Vixen」、arcaeaの「AttraqtiA」、弐寺の「WHA」「LOST TECHNOLOGIE」、SDVXの「Ultimate Ancension」「Dyscontrolled galaxy」(ディスコン、死んでもクリアできる気がしない)、そして今は無きMÚSECAの「{albus}」あたりです。

 初めは、音ゲーをする上で好きなコンポーザーという意識だったものの、アルバムを聞くともっと挑戦的なことをしていてさらに好きになりました。『Xronial Xero』の集大成感(上ノ瀬つかさとのコラボが一番熱い)、『heart of android』の優しい世界、そして一番は2021年の『U.U.F.O.』で、アルバムとしての完成度が異様に高かったように思います。

 世界各地の怪異・伝承をモチーフにして曲が並んでいますが、名前だけ・モチーフだけにとどまっていなくて、一つずつ凄いことをしていて、「Жужжалка76」も「Tentaclar Aliens' Epic Extraterretterrestrial Jungle Dance Party Inside Of A Super-Ultra-Mega-Gigantic U.F.O. (It Maybe U.U.F.O.) Silently Flying Over Illinois St.」も、「WYSI (When You See It)」も、アグレッシブで良いです。そんな中にちゃっかりハートウォーミングな「Myths You Forgot」(Toby Foxとの共作)、「2021年の魔法使いたち」があって、連作というかアルバムの構成力も高い作品でした。
 このアルバムが発売された当時では、"2021年"は、"現在"という意味になるので、今も生き残っている絶滅危惧種的な魔法使い(模造クリスタル『スペクトラル・ウィザード』的な)というイメージですが、もはや2024年にして2021年はもうレトロっぽくなってきていて、それはそれで違った味が出てきて面白く感じています。
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 他、音ゲーのコンポーザーで優先的に曲を選びたい好きな人は、aran(「VOLT」、「Gate One」、「L.F.O」)、USAO(「Night Sky」、「Dynamite」)、Blacklolita(「n/a」、「[x]」、「[CRYSTAL_ACCESS]」)、SYUNN(「Lost Souls」、「Psycho Sheep Riddim」)あたりです。音ゲーの好きな曲だけでもまた100曲くらいは選べそうです。


○思い出⑲llliiillliiilll, Frums, Silentroom, lalanoi 

 この四人については、ひとくくりに語れる方々ではないんですが、尖りつつ質の高い電子音楽を作る方々で、全員の大ファンです。
 llliiillliiilllさんについては、出会ったのはボカロの「β」で、架空言語のすごい迫力の悲しい曲が今でも好きです。あれを見たのがもう十何年前になります。更新が長いこと止まっていたので(twitterも見ていましたがそんなに頻繁ではないので)もう作らないのかな……と思っていました。すると急に何の脈絡もなくmaimaiで BIRTH/llliiillliiilll が登場して、急いで解禁して、ゲームセンターで画面から尖りまくった曲が聞こえてきて、嬉しかったです(今もプレイできます。maimaiやるたびにやっています。というかmaimaiはこの曲をプレイしたいがためにします)。中学生の時から好きでいつづけて良かった~って思いました。llliiillliiilllさん作のエレクトロニカ、もっと聞きたいです。
 Frumsさんは、このプレイリストではチップチューンっぽい「Great Fury of Heaven」を挙げましたが、Spotifyに無い曲であれば「Pictured as Perfect」がずば抜けて一番好きで、「of Ambrosia」「We Want To Run」とかが好きです。音ゲー提供曲であればarcaea「dropdead」、maimai「チューリングの跡」、CHUNITHM「parvorbital」あたりが最高です。次のSilentroomさんと同じく、BMSの曲から知ったコンポーザーが多く、BMSに感謝 と思っています。破壊的な展開が、なぜか調和の中にあって、心が乱されるようでむしろ逆に整然としてくるというか、単なる暴走とかリズム難とかボス曲とか、そういう尺度で小さくみてはいけない、大きなところを見ている繊細な曲作りをされる方だなと思います。
 Silentroomさんはかなり多くの人と入口が一緒であろう「Nhelv」が初めてで、そこからずっとファンでいます。他には「Angel Echo」、「The Deliverer」が好きです。今は作曲活動を休止していらっしゃいますが、再開したらもっと凄い曲が出てくるんだろうと思うと、今から恐ろしいです。Frumsさんとの合作で、undertaleアンソロジー(?)楽曲群(「UNDERVEIL」等)の収録曲がずっと好きで、この二人が組んだら最強だなと思っていたら、arcaeaでさらっと最優秀楽曲になっていて(「Aegleseeker」)、同業者の方たちは大変だろうなと思います(この二人が強すぎて)。SDVXでも、プレッシャーはあると思いますがちゃんと1番になるのがかっこよく(「XHRONOXAPSULΞ」)、努力と集中力がすごいんだなと思います。ただし、クロノカプセルには、曲を解禁するまでに凄い額と凄い時間を浪費してしまったしさせられたので、最高の曲ですが苦い思い出の詰まった曲でもあります。
 プレイリストではBilliumMotoさんとの曲を挙げました(senseはフルバージョンの方が良い)。BilliumMotoさんもここ6年くらい着々と強くなりつづけている存在で(昔のだとDynamixの「life flashes before weeb eyes」もいいですが「Appendage」とか「1xMISS」とかも好きだった)、今はどこで見かけてもハイクオリティな曲を作っていて、気にして追っています。
 lalanoiさんは、SoundCloud版のプレイリストを組むなら1番に飾りたいコンポーザーで、私がひっそりと一番応援している方です。作家とか画家とか作曲家とかお笑い芸人とか全部の中で、一番応援しています。
 何故かtwitterでフォローを返していただいて相互フォローなので、それを定期的に意識して、私もlalanoiさんに適うくらい文筆でかましつづけるぞ! と思っています。最初は「Nil phonation」と「Over quota」にびっくりしすぎて、それ以来のファンですが、「empty」も、他の人の楽曲のリミックスも、透き通るようでとても好きです。的確な比喩か分かりませんが、聞いていたら、生まれる前のことを思い出しそうな気になります。生まれ変わりとかはあまり信じていない方ですが、前世というか、自分が生まれる前に広がっていた世界に今立っているみたいな、無い思い出を思い出すような感覚になります。

 このインタビューも素敵だったので気になった方はぜひ読んでみてください。


○思い出⑳X.E.N.O/sasakure.UK、愛/翁

 sasakure.UK(以下ささくれ)さんは、音ゲー提供曲もすごい数がありますが(もともとBMSに出していた方だし)、私が出会ったのはボカロPとしての方で、私が変拍子にハマるきっかけを作ってくれた方です。「ぼくらの16bit戦争」がかなり衝撃で、こんなに尖っていることと売れていることとがかっこいい形で両立できるんだ~と思って、そればっかり聞いていました。当時ニコニコ動画で調べられる変拍子の楽曲とか、「感性の反乱β」タグをひたすら全部聞いていったのを思い出します。あのころにそういう曲たちに出会えたことは、私を語る上ではかなり重要なものかもしれないと思います。私が作る短歌とかのリズム要素も、そういうところで培われたもののような気がします。

 ささくれPとして、未だに初期の「ワンダーラスト」とか「*ハロー、プラネット。」は古びてないし、「アンチグラビティーズ」系も「百鬼夜行」「麒麟」系もいろんな方向で進化し続けている奇才 だと思います。個人的に今は音ゲーの方で目にすることの方が増えているんですが(別名義の場合も多い)、そちらは昔よりどんどん先鋭化していて、弐寺の「Atröpøs」「Xlø」とか、オンゲキの「Apollo」、arcaeaの「魔王」、maimaiの「raputa」、プロジェクトセカイの「ÅMARA(大未来電脳)」とか。プレイリストに挙げた「X.E.N.O」なんか、プロセカの応募楽曲ですが上手すぎるのと鋭すぎるので落選しています(AMARAもあるし通しづらかったのかなとは思いますが)。llliiillliiilllさんの各言語シリーズ同様、架空言語でおしゃれ電子音楽はこれ以上なく好みなので、ささくれさんにはもう少しこの傾向のまま作りまくってもらいたいです。そしてできる限り長生きして欲しい。ZAZEN BOYSの向井秀徳的な、歳をとってもリズム難な曲をどんどん発表している姿を見たいなあと思っています。

 最後の曲は翁さんの「愛」にしました。翁さんはボカロPで、初めて聞いたときはずば抜けてかっこいいロックばっかりなのに、何故かそこまで見られていなくて、「歯車さん」はその中では人気が出た方かと思います。
 翁さんの曲は全て探して、中高生の時に聞きまくっていました。先述のシューゲ「鮮やかな思考」、「隻手の音声」、「触れて憧れ覗いて夢」(『発見集』)、「僕の存在論」とかが好きです。
 特に、今手に入るかどうかわかりませんが、雪歌ユフのコンピアルバム『褪せる雪華と融解点』は、今思えばすごいメンツで、翁さんの他にも、ぬゆり(ずっと真夜中でいいのに、に楽曲提供、「フラジール」とか「フィクサー」とか)、こんにちは谷田さん(キタニタツヤ名義で今大人気。初期のこんにちは谷田さんから私は追っていたので今の活躍が嘘みたいです。最近は中島健人と踊ったりしてて、売れすぎて意味不明です)、とかがいます。このCDは奇跡的に全員の曲が良くて、インナーフィクション/やまじ、身体の分解と再構築、または神話の円環性について/こんにちは谷田さん、溺れてしまった/ぬゆり、Flashback/nakano4、などなど良曲ばかりで、その中でも翁さんの「The world does not interfere with me」がひときわ輝いていました。この曲を聞きたくてこのコンピアルバムを買いましたが、高すぎる期待のさらに上を来たので、震えました。翁さんの曲ではそれが一番好きです。

 twitterで翁さんを見ていると、働きながら好きな音楽を集めていたりして、やっぱりかっこいいなあと思います。「僕の存在論」を初めて聞いたのが高校生のころだったと思いますが、今は私も働いているわけで、社会人四年目になりましたが、時間が経ってこういう曲を聞くと、歌詞がまた違った響き方をするなあと思います。

あぁ 一応広いってことになってるこの世界で 僕の事を感じる機会があったのは/あぁ きっと君の世界に僕が必要なのさ。/印象が悪くても結果は同じさ。/でも多分それも僕の妄想。/世界はそんな優しくないか。/ それだけで僕も/この世界にへばりつく意味もあると思ったんだけどなぁ。

僕の存在論/翁

 最後の一行が悲しすぎる。
『発見集』は今も本棚の大事なところにしまっていて(私は大事なものを全部本棚に入れておきたいと思うタイプなのでこれは褒めている文脈です)、時折取り出しては聞いています。(Boothかなんかで直接届いたので、翁さん直筆の「翁」と、送付先に翁さんの字で書かれた私の名前、の部分だけを封筒から切り取って、ケースの中に入れています。我ながらちょっとキモいけどサイン代わりに……)
 最近、といっても1年前になりますが、何年かぶりに新曲「HHBD」を出していて、胸が熱かったです。私が死ぬまでにあと数曲、新曲が聞けたらなあとも思いつつ、『発見集』があれば私はどこまでもやっていける という気持ちもあります。


○最後に

 以上、思い出を20個書いてみましたが、検索性も悪いし、私の文をきっかけに色々聞いてみようと思った方には音源に飛びづらくて不親切なものとなってしまってすみません。もし探しても見つからない場合は、探し方とかを伝えることはできると思いますのでお声がけください。

 自分は楽曲を作ることが今現在はできないので、作れる人の事をひたすら尊敬しています。そして、いつまでも聞く側でしかないことに、不満というか寂しさをずっと抱いていて、(数年前から言ってはいるんですが)自分も曲を作れるようになったらいいなあとざっくり思っています。詩の感想を言葉で伝えるように、音楽の感想を音楽で伝えたい、みたいな感情があります。
 あと、このプレイリストを組んだからって私が成したことは一つもなく。これをきっかけに私の好きな曲の視聴回数が1でも増えれば、確かに役に立ったと言えるかもしれないけど。
 とりあえず今は、私自身の知名度を上げるために、自分ができる文章を書くことを頑張って、もし売れたら、色んな曲を紹介して、作曲家の方たちの楽曲の宣伝の一助になれたらいいな と思います。恩返しがしたい。でもandymoriのアレみたいに、tiktok的なバズは絶対にさせたくないので、もし私が売れたとしたら、その辺の調整に今度は悩むことになると思いますが……。(lalanoiさんとかllliiillliiilllさんが超バズって小学生とかも口ずさんでるみたいなバグった未来も見てみたいけど……)
 soundcloudオンリーのプレイリストもいつか組みたいと思います。
 好きな曲がいっぱいある。そしてそれに伴う思い出がいっぱいある。それはとても幸せなことだと改めて思いました。読んでいただきありがとうございました。文章はどうでもいいので、曲を聞いていただけたら幸いです。

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