紛議調停で弁護士から着手金を返金させた話
※この話は2021年11月~2022年2月にかけて起きた出来事です。制度等は当時のものとなります。
※記事の性質上、本文の無断転載・内容の流布を禁じます。
みなさま、こんにちはあるいは初めまして。
かなり間が空いてしまいましたが、前回の記事では毒マロを送ってきた相手に対して発信者情報開示請求を行った話をしました。
ここの登場人物として、開示請求の委任をしたものの、マシュマロ運営に弁護士会照会をした「だけ」で、プロバイダ会社宛の照会以降は知らん、とトンズラこきやがった弁護士がおりました。今回はその弁護士に対し紛議調停を起こし、着手金の返金をさせるまでに至った話となります。
なお開示請求に関する詳細な話は、下記(前回の記事へのリンク)をご参照いただければと思います。もちろん今回の記事を単独で読むだけでもわかるようには書いているつもりなので、ご参考までに。
・紛議調停を行ったきっかけ
上記で簡単に紹介しましたが、この弁護士に対して不信感(質問をしても返信が遅い、照会の事務手続きのどの段階にいるのか訊ねないと答えない等により)を抱いていた私は、別の方に委任し直して開示請求を続けようと思い立ち、再度弁護士探しを行っておりました。
その中で、一度電話相談(30分で5,500円でした)を行った弁護士先生から、「内容を聞くに開示請求の案件引継ぎは受けられないが、お気持ちを踏まえて、当該弁護士に対しては紛議調停で返金請求を検討してはどうか」とアドバイスをいただきました。
ここで私は初めて紛議調停という言葉と制度を知ることになります。
はて、紛議調停とはなんぞや。全く聞き慣れないこの言葉を私は即座にネットで調べました。
つまり、弁護士と依頼者の間で何らかのトラブルが起こった際に、その弁護士が所属する弁護士会に申し立てして解決に向けて話し合う場を設けてもらう制度で、基本的にかかる費用は無料。ということでした。
私は最初、「所属する弁護士会がバックにいるっていうことはその弁護士の肩を持つんじゃないの? 素人が丸腰で行ったところでバチボコに論破されるのでは」と疑心暗鬼気味でした。ですが調べを進めていくと、紛議調停では弁護士会は基本的に市民(依頼人)の味方であるとありました。
また、先の紛議調停を教えてくださった先生からは、「(開示請求の件に関して)契約の契約の趣旨として、10万円(着手金)使って、IPアドレスを手に入れるだけ、ということは、不合理かと存じます。IPアドレスだけでは、何も役にも立たないからです。」とコメントされ、これを電話口では「『病気が見つかったので手術をします』と言って開腹作業をしただけなのと同じ」と例えてらっしゃいました(このたとえは本当に秀逸だなと思います)。私も日に日に、その弁護士が着手金欲しさに勝ち目もない開示請求を引き受けて、プロバイダ会社以降の面倒な手続きは他所でやってと放りだしたのだろうな、と思い腹が立ってきました。
そこで、ダメ元でもやってみて、自分の気持ちに整理をつけようと紛議調停をする決意をしました。
以降は時系列に、紛議調停を経て相手弁護士から着手金を返金させるまでに至った経緯を書きます。
なにぶん一年以上前の話なので、少し記憶が薄れている部分もありますがご容赦ください。
また、こちらも前回同様、広くあまねくいろんな方に読んでほしいというよりかは、下記の方に向けて書いております。そのため途中から有料となりますことをご了承ください。
《この記事を読んでほしい方》
・依頼した弁護士と揉めており紛議調停をしようか検討中の方:一般市民の目線で書いていますので、知識ゼロの状態から紛議調停を起こした経験が少しでもお役に立てれば幸いです。
・弁護士依頼を検討中の方:これは前回の記事でも触れましたが、そもそもこんな弁護士はやめておけorこういう弁護士に依頼するのがおすすめという話を、今回の件からも最後にお伝えします。
(・前回の話を購読下さり、続きが気になるという稀有な方:いらっしゃるでしょうか……いらしたらありがたい限りです。)
・紛議調停申立書を書き、提出する
さて、紛議調停の申し立ては紛議調停申立書という書面を提出することから始まります。
私が申し立てを行う相手弁護士の所属する弁護士会は、紛議調停についての文言や申立書の記載事項とともに、書式例がPDFファイルになってサイトに掲載されていたかと記憶しています。(Wordで独自に書式を作って文書を入力すれば良かったかもしれませんが、)私はその書式例をそのままプリントし、表面に住所・指名・連絡先、調停を求める相手の弁護士名、申立の趣旨等々を、裏面一面にある【今までのいきさつを簡単にお書き下さい】とある欄に行を九割方埋める分量で、時系列に起きたことと何が問題でどうしたいかを書きました。内容は簡単にするとこうです。
『毒マロを受け開示請求を行うべく相手弁護士に依頼を行ったが、運営会社宛の処理に時間がかかりすぎており、かつプロバイダ会社宛の開示請求以降の手続きは他所で行うよう返答、以降の連絡が途絶した。①マシュマロ運営会社宛の弁護士会照会で得られたものは相手方のIPアドレスだけで、ほとんど意味をなさず、これに対する十分な説明がなかった。②そのため着手金も無駄になった。③その後、別の弁護士に依頼し引き続き開示請求を行うも、ログ保存期間切れで無駄となった。④そもそも、弁護士会照会のみの依頼というのは不適切*。①~④の理由から、当該弁護士に対し着手金の返金を求めたい。』
*④については電話相談した弁護士の方から指摘があり発覚しました。第一東京弁護士会の文献によりますと、「弁護士会照会をすることだけを目的とした受任(調査受任)では、弁護士会照会をすることはできません。」とあります。つまり、今回の契約がマシュマロ運営会社宛の弁護士会照会だけというのがそもそもアウトで、その点について十分な説明もなされなかったということです。
そして証拠書類として、依頼のきっかけとなった毒マロの画像や委任契約書、相手弁護士とのメールやLINEのやり取り(主に返事が遅滞している箇所のタイムスタンプや、他所へ依頼してくれとうっちゃった文の箇所を強調)の画像を用意しました。それら一つずつに甲第1号証、甲第2号証と項番を振り、申立書の文中に該当する部分があれば、「〜である。(甲第○号証)」等と記載して資料を完成させました。
こうして出来上がった申立書と証拠書類を1セットとし、正本1部、副本(コピー)5部の合計6部を用意し、これを弁護士会宛に提出しました。
(この資料準備編は結構な労力を奪われます。特に私は手書きで申立書を書いてしまったうえ、プリンターが自宅になくコンビニで出力しそれをコピーしセットすることになったので余計にそう感じたのかもし)ません。嫌な記憶を詳細に振り返らないといけないし、何より勝てる勝負かどうかもわからない。店内の軽快な音楽が流れる中で若干何をやっているんだろうなという気持ちでホチキス留めをしたのを覚えています。)
そして書類一式と住民票を弁護士会宛に郵送しました。これが2021年11月上旬のことでした。
・受理通知と答弁書が送られてくる
紛議調停申立書を送付した10日後、弁護士会から「紛議調停申立の受理通知」という封書が簡易書留にて送られてきました。
これはあなたの申立を受け付けました&紛議調停委員会に調停を委嘱しました、つまり紛議調停をやることにしますというお知らせです。ここでは、事件番号と本会受理日と当事者(申立人と相手方両名)を記載された一枚の紙のみで、追って沙汰は連絡するというものです。
ちょっともったいぶった印象も受けますが、調べると「理事者等の判断により、委員会へ委嘱しない場合もあります」と記載があったので、まずは第一関門突破かなと安堵した記憶があります。
さらにその一週間後、今度は相手弁護士からの答弁書が同じく簡易書留にて弁護士会より送られてきました。
こちらは相手方に対し、調停申立書および証拠書類の写しを送付し、調停申立てのあったことを通知し、答弁書の提出を弁護士会が求めた結果、相手方が出してきた資料です。中を見てみると5枚の答弁書に、9枚の添付資料(申立書と同様に乙第〇号証と項番を振って、答弁書の文章を補足するもの)と結構なボリュームのそれでした。
そして内容はざっくり以下のようなものでした。
・こちらが受けた事件の処理は完了かつ成功している。したがって着手金の返金要望については棄却するよう求める。
・申立書にあった主張である「事務処理に時間がかかりすぎている」「多忙を理由に必要な連絡を怠っていた」点については、一般的な事務処理にかかる期間であり、申立人からの電話連絡やチャットでの催促が一切なかった。
・また「プロバイダ会社宛の開示請求以降の手続きは他所で依頼するよう返答した」ことについては、前述のとおり多忙のため、新規事件の受任ができず断った。
・「弁護士会照会の結果相手方のIPアドレスが得られただけではほぼほぼ無意味」という主張は否認。なぜならタイムスタンプ、Twitterアカウントを含む情報開示に成功している。
・「弁護士を替えてプロバイダ宛の開示請求をした結果、ログ保存期間切れにより特定不可能となった」ことについては知らなかった。プロバイダ側の都合により特定できない場合はある。として例として別の弁護士がTwitter(今はXですが)でつぶやいた、プロバイダ会社からの回答とそれに対する怒りのツイート(現:ポスト)のスレッドを拾って資料に添えてありました。
・「弁護士は弁護士会照会単体での調査受任を行ってはいけないはず」という主張に対しては、最終的には加害者らに対する損害賠償請求等を目的としているので本件は無関係ではないといえ、不適切とはいえない。
・和解の意思については、一部返金による和解を希望する。
……と、ざっくりと言いながら短くまとめてもこのくらいの、つまり「こっちは悪くないもん! お金返すのとか無理! だけど一部だったら返してやらなくもない」という反論文がそれっぽい字ヅラでよくわからん資料とともにやって来たのです。
当然私は文章を読みながらも「は?」と低い声を出し怒りに震えました。
こちらが「弁護士の人って忙しいんだろうな」と思って最後まで遠慮して電話も掛けられずLINEの催促も限界までしなかったのを逆手に取られたり、そもそも多忙を理由に案件を断るってアリなの? とか、そもそも当初「とりあえず弁護士会照会をやってみて、その後のことは話し合いましょっか」と言ってカジュアルに依頼させるようにさせたのはそっちだろと。
そして弁護士会からのカバーレターには、相手方からの答弁書に対して書面で反論される場合には、また文書1通と写し5通を送ってね。そうでない場合は調停期日に直接意見をぶつけてねとありました。反論したい気持ちは十二分だけれども、それは果たしてこちらの優位に働くことなのだろうか……と悩んだ私は、アドバイスを下さった弁護士先生に(何かあったらまたご連絡くださいというお言葉に甘え)この内容と文書で反論すべきか相談しました。先生からは「基本的に水掛け論に近いので、これ以上の反論は不要と思います。ただもし反論するのであれば……」とポイントを簡潔にご回答いただきました。私は調停の場で直接ディベートする方が良いなと決意し、メモを記しておきました。
・調停期日が決まる
前述の答弁書のカバーレターには弁護士会より、「現時点では担当する調停委員が決定しておりませんので、決まりましたら第1回期日の日程調整をさせていただきます」とありました。
ここでいう調停委員とは、弁護士で構成された委員会のメンバーのことです。ん? と引っかかった方もいらっしゃると思いますが、弁護士が委員だからといって弁護士の利益を守るための機関ではなくあくまでも中立で、自浄作用を目的としたもののようです。この辺りは各弁護士会のウェブサイトや文献でくわしく書かれています。
私はそのあたりも含め調べたり、紛議調停で実際に何を言ったらいいのか、相手から反論されたことについて理路整然と言い返せるのか、等々考えては悶々としながら調停期日の連絡を待ちました。
そして12月の半ば、携帯電話に当該弁護士会事務局からの着信がありました。委員の先生が決まったので調停期日の調整をしたいが〇月〇日ではどうでしょうか、というお伺いの電話です。それが一か月も先の日付だったので、もう少し早くならないのかなとは思いましたが、コロナ禍というのもあるのかなということで承諾しました(先の弁護士先生にその旨伝えると、それくらい間が空いてしまうのは妥当だとのことでした。調べてみると調停にかかる期間も三か月~長いものは半年以上かかるようで、改めて持久力のいる争いだなと感じました)。
また先方もその日程でOKの返事をしたようで、数日後に書面にて正式に「調停期日の通知」が送られてきました。一枚紙で、関係書類と印鑑持参のうえ出頭下されたし、というものです。出頭というパワーワードに若干日和った一般市民の私ですが、ようやくこれであの弁護士に一矢報いる機会ができたと鼻息荒く、自分にできる限りのことはやろうと闘志を燃やしておりました。
・第1回調停期日のできごと
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