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いままでお世話になりました。さようなら。
拝啓 JELEEを応援してくださるオタクの皆さまへ
……いきなりなんですが。
私、JELEEに必要なくなるかもしれません。
突然すみません。以前の日誌では、推しを想い続けた拙い“青春”について書かせていただきました、木村ちゃんと申します。たくさんのコメント、本当にありがとうございました。
私が書きたいのは、ほかでもありません。先日の海月ヨルさんの日誌をご覧の方はご存知ですよね。今回の楽曲に生ギターが入ることになり、その収録が“演奏してみた”のギタリストさんの協力によって、無事に終了いたしました。
私が書いたメロディに、ピアノでも打ち込みでもない複雑なギター……これまでのJELEEにはなかった響きが加わって、曲としてさらに広がりを見せています。私も一足先に音源を聴かせてもらったのですが——あまりにきらめいていて、震えが止まりませんでした。
でも、だからこそ一つ。
思ってしまったことがあるんです。
もしかしたら、私はいらなくなってしまうんじゃないかって。
驚かせてしまいましたよね。けれど、今回みたいに“演奏してみた”の人とアーティストが、インターネットを通じてつながることができるようになりました。そこには、ピアノをやっている人もたくさんいます。実際、JELEEの曲をピアノで演奏してる人だっていて……。みんな上手で、みんな熱量を持っていて。
そう考えると、です。
私がここにいる意味って、何なんでしょうか……?
私は、JELEEの作曲担当です。ピアノを弾きます。でももし、さらに演奏が上手い人が現れて――もしその人が、メロディまで作れてしまったら。
私よりも優秀な人がいっぱいいるなら……いずれ私にも、「ありがとう、もう大丈夫だよ」と言われる未来が来るのかもしれません。ダンディな髭を生やしたJELEEちゃん社長から、肩にポン、と手を置かれて、”お疲れさま”されてしまう日が来るかもしれません。
私は、推しを想い続ける気持ちだけでここまでやってきました。 けれど、“推し”に近づいてしまった私の心から、もう一度“推し”を追いかける気持ちやファンとしての情熱が薄れていってしまっていたとしたら、私の居場所は……。
いいえ――ひょっとすると、もう。
すでにメンバー全員が私の留守中に打ち合わせをして、「そういえば木村ちゃん最近いらないよね」なんて結論を出しているかもしれません。そういえば一昨日、私はJELEEの創作会議に、家族の都合で参加できませんでした。もしかしたら、そのときに……!
ノクスさん「生ギターもあるし、ピアノは打ち込みでいいか」
ヨルさん「木村ちゃんって、もしかして不要?」
ノクスさん「最後のピアノフレーズも手こずってたしな」
ヨルさん「もう来週から呼ばなくていっか?」
なんて会話が、繰り広げられていたんじゃ……。
で、でも、です!
それを聞いてるJELEEさんは、JELEEさんだけは――
JELEEさん「ちょ、ちょっと待ってよみんな!? 木村ちゃん、最近ちょっと疲れてるだけだって! そう! 疲れてるみたいだし……休ませてあげたら逆に心配いらないよね! ……ってあれ? 休ませる、ってことはやっぱり……いらないってこと?」
あああああああああああっ!
どうしましょう、どうしましょう。思考が、思考が止まりません。
おかしいですよね、こんなこと考えたって仕方ないのに。でも不安になってしまうんです。
……ひょっとするともう、すでに“スーパー木村ちゃん”と呼ばれる超天才作曲家がどこかで暗躍してて、JELEEのみんなはこっそり、そちらに乗り換えようとしているかも……?
スタジオに行ったら、私そっくりの人が「私が本物の木村ちゃんです」って当たり前のように挨拶してて……。ピカピカの名刺を配りながら 「皆さん、こっちが本物の木村ちゃんですよ~」なんて営業スマイルしてるんです。
JELEEの皆さんも「え、こっちが本物?」って混乱したまま、「見分けつかないし、笑顔が引きつってる方は消えてもらおうか?」「異議な~し」「バイバイ。――元・木村ちゃん」って言いながら指パッチンして、いらなくなった私のほうを追放するんです。
ど、どうしましょう!
私は必要なんでしょうか? 私は本当に、あの憎きスーパー木村ちゃんよりも、優れた作曲センスを持っているでしょうか? だけど私は私の場所を、あんな笑顔が胡散臭い女に奪われたくありません!
私は推しからもらったサイン色紙を、ちゃんと湿度管理して飾ってるのに、スーパー木村ちゃんはどうなんですか?
ちゃんと防カビシート敷いてる? 紫外線対策してる? 裏に魔除けとか貼ってる? 私なんて推しのチラシ1枚だって捨てられなくて、 A4ファイルに入れるどころか、A4ファイルをさらに保護するA4.5サイズのケースも使ってるんですよ?
今後現れる第三、第四の木村ちゃんのみなさんは、防虫剤の種類まで気にしてますか? 私は推しグッズには絶対に忌避成分が強すぎない、人間対応のを使うって決めてるんですよ? だってグッズさんたちが、嫌がるかもしれないから……。
なのに、もしこれ以上に推し想いの人がいたら……私、もう勝てるところがない……。
ああああああああっ!
どうしましょう。思考が、思考が止まりません。そういえば、みなさん今日は何食べました? 私はさっきコンビニでチーズタッカルビまんと麦茶を――私は何を言ってるんですか!?
きっとスーパー木村ちゃんは、SNSのフォロワー数だって私の10倍はあるんです。だからみんな「本物より人気あるじゃん!」「おっぱいも大きいし」「漢字検定も一級らしいよ」って、残酷に私を切り捨てるんです。
そうなったら私は匿名で“元祖・木村ちゃんファンクラブ”を作って
『ランダム缶バ
譲:スーパー木村ちゃん 求:元祖木村ちゃん』
ってポストを複アカで量産して、やっぱり元祖のほうが人気!って空気を作っていくしかないじゃないですか!
JELEEのみんなは、たぶんこんな私の面倒くさいところも知っていて、それでも一緒にやってくれているんですよね。でも、いつか愛想を尽かされたら……そこにいるのは匿名アーティストの作曲担当・木村ちゃんではなく、ただの木村ちゃんです。いいえ、JELEEを抜けたら私はもう、木村ちゃんですらなくなって、ただの○○○○○○に戻ってしまうかもしれません。
(※編注:ここにめちゃくちゃハッキリと本名が書いてあったので、私の判断で伏せ字にしました)
とんでもない長文になってしまいました。私がこんな弱音ばかり書いているのを見たら、オタクの皆さま方はどう思うのでしょう。
でも、これがいまの私の気持ちです。すべてさらけ出させてください。さっき泣きすぎて小腹が空いたからバナナ食べようとしたんですけど、皮を剥いてる瞬間に「このバナナも、そのうち私の手がなくても自動で剥けるように……」とか考えたらもっと泣けてきました。
やめましょう。私はきっと言葉が得意ではないので、本当の気持ちは半分も伝わっていないのだと思います。
だからせめて、音楽で伝えさせてください。
「悲しくても、もう一度好きに戻れるように」
そう願いながら、すべての感情を短いメロディにしました。
その旋律を、ここに刻みます。
理屈もなにもない、ただの独白みたいな、拙い即興です。
けれど――魂だけは込めました。
少しでもこの苦しさと愛しさが伝わるのなら、うれしいです。
長文にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
こうしてピアノを弾いたら、ほんの少しだけ、心が落ち着きました。でも私のこの即興ピアノだって、スーパー木村ちゃんが弾けばもっと美しく……じゃなくて!
もう、本当にごめんなさい!! では失礼いたします!!
敬具
いまのところまだ匿名アーティストグループJELEEの作曲担当
木村ちゃん