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学校の思い出よりも、推しとの思い出が私の青春でした
拝啓 オタクの皆さまへ
文章のほうでは初めてお目にかかります。
私は匿名アーティストグループ・JELEEで作曲を担当しております、木村ちゃんと申します。私のような不束者が書く拙い文章でお忙しい皆さまの目を汚すのは大変心苦しいですが、どうか皆さま、寛大な心でお時間をいただけますと大変嬉しく思います。
さて、私はJELEEのメンバー皆さまから「しっかりとJELEEの創作にまつわる日誌を書くように」「本当に頼むぞ」などと、きつく言い添えられております。また、海月ヨルさんからは「あんまり変なことは書かないでね」「私がチェックするから書き終わっても勝手にアップしないでね」「本当に頼むよ」と何度も何度も釘を刺されていますので、まずは作曲が現在どのくらい進んでいるのかについて、ご報告させていただければと思います。
結論から申し上げますと、作曲はたいへん首尾よく進んでおります。
正直なところ私は、始めに「キラキラな青春ポップソング」というオーダーをいただいた際、果たして私に務まるのだろうかと不安に思っていました。というのも私の青春は、あまり明るかったとは言いがたいものだったからです。
JELEEに加入するまでの私は、学校でも友達ができず、クラスでも浮き、家庭内でもほんの少し息苦しさを感じていて――楽しいときといえば、その当時大好きだったアイドルを推しているただその瞬間だけ。
これまでにJELEEで明るい曲も書いてきた私でしたが、与えていただいた「青春」という主題を表現できるか否か、という点において、私の前には葛藤という障壁が広がっていました。
けれど、タイアップ作品として拝読いたしました「神楽がゆく!」という漫画は、誰かのことを一心不乱に推すキャラクターが出てくる物語で。
やがて私は思い出しました。もしかすると私の「青春」というのは、通っていた学校での毎日の生活ではなく――誰かのことを推しつづけている時間にあるのかもしれない、と。
そう気がついてから、私の指先は風よりも速く進みました。
私が思い出した気持ちがどこまで作中の神楽さんと一致しているのかは、他人に共感するのが苦手な私にはわかりませんが、少なくとも、私が実感している「青春」をメロディで表現することはできた。そんなふうに思っています。
しかし、です。
これまでに書いている皆さまの日誌を読ませていただくと、いろいろなことに迷われているのだな、と感じました。
JELEEちゃんさんの投稿では、自分らしい歌詞とオーダーに合わせた歌詞について。
ノクスさんとヨルさんの投稿では、ギターを誰かプロの人に頼むべきなのか、それともJELEE以外の人を入れてしまうと、JELEEらしさが失われてしまうのか。
歌詞についてはだんだんと答えに近づいているように思いましたが、ギターについてはまだ、暗中模索といった様子で。
新しい表現のために、レベルの高いギタリストが欲しい。
けれど、そうしてしまうと、JELEEの音楽ではなくなってしまうんじゃないか。
とても、難しい問題だと感じました。
そして、読んでくださっているオタクの皆さまにはごめんなさい。私は自分の気持ちをJELEEの皆さまにお伝えするのが得意ではなく、実際に会ってお話ししても、あまり言葉がまとまらないままに、気がついたら私だけが大きい声を出していて皆さまが眉をひそめている、という状況になってしまいがちです。
なのでここからは、私が思ったことをJELEEの皆さまに伝えるべく……一人パソコンの前で冷静になれている今のうちに、伝えたいことを文章にしたためておきたいな、と思っています。本当はもっと落ち着いて話し合いたいのに、コミュニケーションというのは難しいものです。
なのでここからは半分以上、JELEEの皆さんへの私信になってしまいます。オタクの皆さまが読んで楽しいものになるのかはわかりませんが、この場を借りて伝えさせていただければ幸いです。
ノクスさんへ。
私は難しいことはわからないけれど、自分の経験を伝えることはできます。きっととても頭のいいノクスさんですから、私は自分の経験を書くだけで、私が思った以上のことを読み取ってくれると思うので、私はただ、思いだけを綴りたいと思います。
私はずっとピアノを弾く理由に悩んでいて、その頃は言われるがままに弾いていて。だからきっと、そこには魂がこもっていなくて、「自分らしさ」みたいなものがない演奏になってしまっていたのだと思います。
けれど私は大好きなアイドルを推しはじめてから。ピアノを弾く理由をもらえてから。ある一人の人のことだけを考えて、ピアノを弾くことができていました。
相手に好かれたいから推すのではない。自分がただ好きだから、その気持ちに素直になるために推す。
相手に感謝されたいから推すのではない。推しているあいだの自分のことを、だんだんと好きになれているような気がするから、その大切な時間が暖かくて、愛おしくて、だから推す。
そう思えているときの自分は、その人専属のピアニストくらいの気持ちだったと思うし、きっとそれからというものの、私の演奏は格段によくなりました。
そして、その当時の私の推しは、そんな気持ちでピアノを弾いている誰かがいるだなんてこと、まったく知らなかったと思うのですが――いまは奇跡的に、その人と音楽をやれています。
だとしたら、と私は思うのです。
もしもそういう素敵な運命がギターの音色を運んでくれるなら、JELEEらしさを失わずに、青春を表現できるんじゃないかなって。
それがどんなものなのかはわかりませんが、ノクスさんなら見つけてくれるような気がしています。
長文散文になってしまい、申し訳ありません。
少しでも思いが伝わっていれば幸いです。
最後に、こんな文章を最後まで読んでくれたオタクの皆さん。本当にありがとうございます。お詫び――になるのかはわかりませんが、ノクスさんから「こういうものを載せるといい」と言われていたので、私のピアノをスマートフォンで録音した、新曲のメロディをここに載せておきたいと思います。
曲名未定、歌詞未定。
けれど、私なりの「青春」です。
拙い演奏ではございますが、お聴きいただければ幸いです。
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。
それではこのへんで失礼いたします。
敬具
匿名アーティストグループ・JELEE
作曲担当 木村ちゃん