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【創作大賞2024応募作オールカテゴリ部門】#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #貧しい#お金 #妻#娘「我が家の貧困との闘い!」 

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 やどかりになる

    この一軒家が建った段階で、大きなミスがあった。
 内装家具の費用を考えていなかったのだ。
 さらに、致命的だったのは、建売住宅を買うような気分でいたことだ。
 つまり、土地と建物がセットで幾らということだ。わたしは金銭には疎い。
 建売ではない。設計士に図面を書いてもらい、建ててもらったのである。
 土地の値段が高かったせいか、それしか頭になく、建物を建てる費用は知っていたが、設計士に払う費用や庭造りにかかる費用が完全に抜け落ちていた。
  銀行からの借り入れが相当大きく膨らみ、予想していた住宅ローンの金額を軽々と超えた。
 コロナで副収入である講演の依頼は消えた。
 専門書の依頼を受け、何冊も書いたが、専門書なので売れないと来ている。
 自らが撒いた種で貧困に確実になった。
 
  わたしは、ぎりぎり富裕層にランクインするかも知れない年収があった。
 妻が、
「あなた、マンション暮らしは楽で便利ですが、荷物が増えて狭くなってしまったわ。田園調布辺りに一軒家を建てたいわ」
と言い出した。
 娘は、
「お友達の家にはお庭があるのよ。そういうところに住みたい。パパ!」
と言う。
 コロナ前は本業の他に講演の依頼が多く、講演料金だけでかなりの金額になった。
 わたしは、思った。住宅ローンの費用に講演料金を充てれば何とか今の生活を維持しながら、新築できるだろうということだ。
 無事に予定通り、一軒家が建った。
 家が広く、妻だけでは掃除が行き届かなくなり、家政婦さんを雇うことにした。
 家具は、今までのマンションの古びた年季の入ったものをもっていけばよいと考えていた。
 しかし、妻と娘は、ソファー、ダイニング・テーブル、ランプ、食器、洒落たクローゼット、洗濯機の最新型、電子レンジを新しくしたいという。
 わたしもその雰囲気にのまれ、自家用車、書斎のデスク、書斎の書棚、書庫まで作った。
 音楽を聴くのが趣味なので、フィンランドからスピーカーを取り寄せたりした。
 部屋の割り振りであるが、夫婦の寝室(新しいキングサイズのベッドをわざわざ買った。さらに寝室に置くテレビ、小さな冷蔵庫、洒落たランプを購入した。)、さらに寝室には、洗面台、お手洗い、バスルームがある。妻の着物をしまう桐ダンスが、寝室内の離れにある小部屋に置いてある。
 わたし専用の部屋は、書斎の他に、さっき言った大きなスピーカーが置いてある部屋にした。そこには、数多くのレコードが置いてある。
 娘の部屋は、新しいクローゼットにベッド、アンティークなデスク。
 妻は、日本舞踊を始めたので、その練習部屋が一つ。わたしは、油絵を描き、娘は焼き物をするので、アトリエを一部屋。
 和室は、京都から宮大工から来てもらい、茶室とお茶の間を作った。
 お手洗いは、1階には、リビングの近くに一つ、和室ある方に和風のお手洗いを1つ、2階には、共用お手洗いが一つ、寝室に一つである。お手洗いだけで四つあるのである。いかに広い家かわかるだろう。
 お庭は広く、芝生を植え、梅の木、もみじ、松、かえで、さらに庭石を入れ灯篭まで作った。
 それと駐車場である。防犯カメラをいくつも設置した、
 
 しかし、追い打ちをかけるように、自家用車のローン、庭師・植木屋さんの代金、家政婦さんへの給与の支払い、公認会計士への支払いがある。もちろん税金は情け容赦ない。
 食費、衣類から倹約をする。
 ユニクロ愛好家になり、家屋全員、ユニクロを着るようになる。
 さらに、妻に食器洗い機は電気代がかかるので使わないように言う。
 全室にエアコンがあるのだが、光熱費がかかるので扇風機を使う。
 
 これでは、大きな殻を背負ったヤドカリのようだ。
 

 

  クレカフル活用

 さらに激しい支払いの追い打ちを受け、追い詰められる目にあった。
 出るお金が大きいので、なるべく現金を残そうとする。
 そのためにクレジットカードの使用が増える。
 妻と娘には、わたしの親子カードを作り渡してある。
 収入だけは高額であったのでプラチナカードだ。
 
 妻と娘は、それ以外にデパート専用のカードを持っている。
 そのデパートでの支払いは、もちろん、月末にカード決済だ。
 
 ある日、大手デパートのフロアの主任から電話が来た。
「お宅の奥様とお嬢様がカードにてお買い物をされているのですが、その代金の決済が銀行口座から引き落としができません。今後、当店でお買い物をされるときは、現金でお願いします」
と。
 これには驚いた。妻の口座に残高がないのか・・・・言えばいいのに。
と、咄嗟に思った。
 住宅ローンの他にクレジットカードの支払いに追われるようになった。
 クレジットカードのキャッシングはフル活用である。
 このままでは、消費者金融行き、つまりサラ金行きは時間の問題である。
と、心配になった。
 

   隠されていた洋服

 追い詰められ最後にしたことは?
 普通の神経の持ち主であったら、発狂しているか、うつ病になっていただろう。
 わたしは、会社員経験がないせいか、追い詰められると一層生き生きとして強くなる。簡単に言うと異常である。
 もし、会社員経験があり、厳しい管理下に置かれて毎日上司から叱られたり、ノルマのことばかり考えて暮らしたことがあればこんなに強くはならなかっただろう。
 自由業のよいところだ。
 強くなければ自由業はできない。
 我ながらおかしな言い訳だと思うが、当たっているところはあると思う。
 
 まず、妻と娘が買い物をしたデパートの代金を全額振り込み、またデパートのカードは使えるようになった。
 同じことを繰り返されたら困るので、デパートのカードは預かった。

 妻と娘が洋服などをわたしに内緒でどれくらい購入しもっているのか調査することにした。
 クローゼットを開けると真新しい洋服が並んでいる。
 所狭しと服が引き締め合ってクローゼットに入っている。
 定価がまだついている洋服がある。
「これじゃ、買い物依存症だな!」と喜々として言った。
 今回は、わたしが、家族の中で主役だ。
 妻は、すべてを見られ言葉を失ったらしくうつむき一言も発しなかった。

「これだけあれば、もう当分、買わなくていいな、次は娘の番だ」
と言うと、娘は、
「いくらパパでも、若い女性のクローゼットを見る何て非常識よ!」
と言い出す始末である。どうせ、最後のあがきであろう。
「非常識で結構!」
といい、クローゼットを見ると、事務所へ着ていく服はわずかで、後は妻と同じく新品な洋服が所狭しと並んでいるではないか。
 さらに、クローゼットの下の引き出しを開けてみると、高価そうなランジェリーが引き締め合ってぎゅうぎゅうに入っている。
 娘は、
「いやよ、こんなの、恥ずかしいじゃない」
というと、
「わたしは、下着泥棒にあったわけではあるまいし、チェックだ!」
「二人とも下着を含めて、一切洋服を買う必要はなし、カードは没収します」
といった。
 咄嗟に動物的本能で、玄関の靴入れを見に行った。
 わたしのサンダルと一足の革靴以外は何と、真新しい妻と娘の靴がずらっと並んでいるではないか。
「これも禁止!」
といった。
 その様子を見ていた家政婦さんが、
「わたし、辞めたほうがいいでしょうか?」
と言い出す始末である。
「あなたに払う月給ぐらいはありますから、長くいてください」
と、お願いした。

 ここで、毎月銀行に支払う金額が高すぎることが原因なので、さらに、生命保険を担保にし、支払いの年数を伸ばしてもらった。
 それで、大分生活は楽になった。
 一時は、毎月、銀行へ60万以上を支払っていた時期があった。
 苦しいに決まっている。
 妻と娘に、
「パパになにかあっても生命保険が下りないかもしれない。その時は、ここの土地と家を売り、木造アパートにでも入るんだぞ」
と言い渡した。
 娘は、目を潤ましながら、
「パパ、これ使って」
と、自分のキャッシュカードを出した。
「気持ちだけ頂いておくよ」
といいい、家族三人、抱き合い見つめ合っていた。

    妻の使えないカードね!とは?

 妻が一度、わたしに内緒でクレジットカードを取得したことがある。
 現金がないので苦肉の策であったのだろう。
 その頃、妻は小学校の教諭をしていたので取れたのだろう。

 今でも覚えている。
 三井住友が出している普通のカードより上でゴールドカードより下の中間地点のカードだ。名前は、エグゼグティブカードと言い、高価な感じがするVISAカードだ。上品な感じがすると言った方がいいのだろうか。

 休みの日に、よく娘を引き連れて財布をひらいた時に、他人からよくそのカードが見えるように細心の注意を払って入れてあったそうだ。 
 娘が、「バカみたい」
というと、妻は、
「人様と言うのは、人の財布を見ていないようで実は食い入るように見ているものなのよ、恥をかきたくないでしょう、それにわたしのお気に入りのカードなんだから、あなたのコンビニのポンタカードとは訳が違うのよ」
と得々として言ったそうだ。

 高級ブティックへ行き、娘の洋服を1着、自分の洋服を4着買った。
 サインをし終わると、「すっきりするわね!」と言ったそうだ。
 
 娘が、
「そんなに沢山買うとパパに怒られるわよ?」
というと、
「バカね、このカードのキャッシングで支払うに決まっているじゃない、ところで、あなたのポンタカードはキャッシングはついているの?」
と聞かれたそうだ。
 娘は、
「ついてないわよ」
というと、
「信用の問題ね!!」
と妻は大きな態度で言ったそうだ。
 娘は、
「キャッシングってサラ金でお金を借りるようなものじゃない」
と内心思ったそうだ。

 買い物が終わり、妻が娘に、
「コーヒーかデザートを食べて帰らない?」
と言ったそうだ。娘は、クリームソーダーにしたそうだ。
 妻は、コーヒーにティラミスのケーキだった。

 そして、お会計の際に得々と新しく作った自慢のカードを出すと、何回もエラーが起きた。
 妻は、
「今日来たばかりの新品のカード何ですから、エラーがおきるわけがありません。お宅のカードリーダーの機械が古いのでしょう?」
と、相手を睨め付け、ものすごい剣幕で言った。
 上司が出て来て、
「カード会社に訪ねてみます」
と電話をした。
 妻のカード番号、連絡先の電話番号、生年月日を言い、本人確認を取ると、何とカード上限を軽々と超えていたそうだ。もちろん、そのカードでキャッシングは無理だ。妻のたくらみは崩れて散った。

 しかたがなしに、そこで娘のポンタカードの登場である。
 
 帰り道、妻は、「デザインだけかっこうをつけて!何がエグゼクティブよ、使えないカードと言うのよ、もう!」
と激怒して、カードを、パチン!と半分に折り、路上のごみ箱に、ポイと捨てた。
 そして、「今日のことはパパには絶対内緒よ」と言い、洋服の袋を持ち帰った。
 その夜、娘が何気なく言ったことが原因で夫婦喧嘩である。

 

   妻VSサラ金!

 電話が鳴った。
 わたしは、緊急の場合以外は電話に出ない。
 わたし、一人の時、電話が鳴っても知らん顔だ。運が悪いな、今、電話をかけてきた人は、と思う。
 この時は、慌てて妻がリビングへ来て、電話を取った。
 妻は、スピーカーフォンにして話すので、相手の声が筒抜けだ。
「こちら、○○という消費者金融ですが、まだ、ご返済の確認が取れていません。毎回、こうやってお宅にお電話をしているのですが、支払う気はあるのでしょうか?」
という。
 妻は、
「お宅、簡単に言うとサラ金でしょう」
 先方は少しひるみ躊躇したようで、
「あの、金融会社ですが・・・」
と、取り繕うように言う。
「だから、サラ金何でしょう?」
「ハイ、そうでございますが・・・何か?」
「今、あなた、支払う気はあるのですか?と言われましたよね。失礼ではありませんか。返済が遅れたことは謝ります。しかし、支払う気がなかったのではありません。支払う気ではなく、お金がなかったのです。支払う気がないとは、非常に失礼ですよ。返済する気がなくて、お金を借りたみたいに聞こえませんか?その点については謝って頂かないと、わたしは気が済みませんが」
と、妻は、淡々と感情を押し殺して、相手に襲い掛からんばかりの殺意をもちながら言った。
「遅れたのはお宅の責任でしょう。こちらは、忙しいのにわざわざ親切で電話してあげているんですよ、それをそういう風に、反抗的な態度で言われても困ります」
さらに、
「お宅は、金利で儲けているんですよね。わたしは、お客ですよ。払う気がないと言われたことに謝罪を要求致します!謝罪しなければ、どこまでも平行線で支払いませんから。そこまで、侮辱的なことを相手に言う、金銭の取り立てが許されていると思うのですか?まして、あなたの会社じゃあるまいし、あなたは使用人の分際よね?それがまぁ、大きい態度で客に向かって!」
 相手は、妻の言った「使用人の分際」という言葉が感に触ったらしい。
 いきなり、
「うるせい!ババア!!」
と大きな声が返って来た。
 妻は、ひるまず、待っていましたとばかりに、
「このチンピラ!」
という。
 相手は、ここで電話を切った。彼もキレたのであろう。
 妻は、「あなた、支払う必要はないわよね」という。
 わたしは、「わたし名義で借りてあるんだ、支払わなくては、わたしがブラックリストに載る。しかし、そこは小さなサラ金だから、ATMが利かない。受付まで現金をもっていかなければならないんだぞ。こんなに大恥をかいていけるか」
というと、
妻は、
「銀行から借りて一気に返せばいいのよ」と、気軽に言う。
 結局、銀行がもうお金を融資してくれるはずはない。
 娘にお小遣いをあげて、返しに行ってもらうことになった。
 どちらが悪いのだろうか?

 

   パソコン購入の暴挙に出る!

 わたしは、目が悪いので常時使うパソコンは画面の大きい「ディスクトップ」を使っている。
 パソコンの主な使用目的は、論文や原稿を書くことである。
 また、DVDをレンタルしお気に入りのものは、パソコンにコピーする。
 後は、メール書きである。

 自宅の書斎のディスクトップパソコンが突然動かなくなった。業者を呼ぶとハードディスクが壊れているので修繕は不可能と言われた。データーのバックアップは何も取っていない。
 ウインドーズを使っているので、ワン・ドライブにデーターを移して置いたら助かったであろう。
 数年間分の原稿と論文が消えた!!
 あっけにとられ、頭の中は真っ白で、体が脱力感と共にぴくぴく痙攣する。
 もうだめだ、終わった・・・・と思った。
 
 後は、研究室のパソコンにどれくらいデーターが残っているかである。
 研究室のパソコンは、中央の大型コンピュターにつながってあり、保存するとすべて大型コンピューターへ自動保存される。
 それは、誰でもが見られるわけではなく、パスワードを知っているものが、自分の保存データーだけにアクセスできるのである。
 話を元に戻そう。
 娘を呼び、
「何とかならないかなあ?」
というと
「無理ね。パパは悪いことばかりしているから、神様が罰を与えたのよ、そして、パパの身代わりとなってくれたのが、このクラッシュしたパソコン!」
「よかったじゃない!パパは元気で」
という。
「うーむ!そうかもしれない。車を出して、これからパソコンを購入しに行くから、おまえのも買ってあげるからね」
「ママに叱られるわよ」
と娘は言う。
 仕事の道具だから何も言わないだろう。

 娘の運転で大型電気屋さんへ着いた。
 デルのディスクトップでDVDデッキがついてあるものがあったので、それを1台、持ち運び用にデルのノートパソコンを1台、韓国のグラム(Lgram)が非常に軽く強く惹かれ、衝動買いで1台買った。
 

 娘は、デルではなく、NECの最新型のノートであった。
 全部で4台買った。軽々50万円を超えていた。
 衝動買いとは怖いものである。仕事のためというのが頭の中を占めているので、三人で食費1000円の貧困家庭なのだが、平気で買った。
 支払いは、現金は手持ちがないのでクレカである。
 ここで困ったことにアメックスのプラチナカードは、リボ払いが利かず、一括払いである。
 来月50万以上の請求の軍勢が押し寄せてきたときに、勝てるかというと自信が全くない。
 困って呆然としていると、娘が、
「わたしのクレカで分割で買うわ、10回払いにしておくから、パパちゃんとお金を入れてね」
という。
「助かった!さすがわ、わが娘、賢い!」
と思った。
 後は、妻の逆鱗に触れることはわかっている。
 じっと、耐え忍ぼう。

 

   パソコン衝動買いのその後!


 新しいパソコンを購入し、自分が使いやすい環境を整えるのに約一週間ぐらいかかった。以前使ってたソフトやメール、銀行などの金融関係や連絡先など、メモ帖を見ながら入力していった。

 以前の壊れたディスクトップパソコンは大画面で、壊れたまんま書斎のディスクを陣取っていた。
   片づけるが面倒だったので、リビングに新しいパソコンを一時的に設置した。
 ディスクトップに、ノート二台。リビングのテーブルの半分以上を占めている。
 妻は、テレビを観るとき邪魔だから、
「書斎を片づけて全部もってってくれます!」
と不機嫌であった。
「仕事なんだから仕方があるまい。娯楽でテレビを観ているのとは違うんだ!」
と精一杯の嫌味を言った。

 書斎のパソコンを処分するには、燃えるゴミとかで出す訳にはいかない。
業者を呼ぶか区に電話をして処分しなくてはならない。
 すぐ捨てることができないなんて不自由な暮らしになったなあ、と自分勝手丸出しであった。

 久しぶりに書斎に行き、
「このパソコンともお別れかあ」
といい、
スイッチを何気なくつけてみた。何と電源が入るではないか、
 そして、ウインドーズの音声と共に立ち上がったのだ、何と直っている。
 うーむ、壊れていると思ったから新しくパソコンを衝動買いしてしまったのに、これは妻にも娘にも決して言えない。
 あわてて、スイッチを切った。
 念のために電源を外し、電源コードをひもでくるくる巻きにした。これで電源は入らない。
 この電源コードさえ隠せば完全犯罪だ!と確信した。

 次の日、さらに悪いことにパソコンの業者から電話が入り、
「ハードディスクの故障かと思いましたが、ウインドーズのOSの故障かもしれません、ウインドーズ10、11はウインドーズが破損しても自動修復機能があるんです、申し訳ございませんが、サービスですのでパソコンを見させて頂けませんか」
と言ってきた。
 わたしは、あわてて、
「ウインドーズはもういいいんです、アップルにしましたから」
と支離滅裂なことを言った。
 相手は驚き丁重に電話を切った。

 早く、書斎のパソコンを処分しなくてはと思った。
 自宅にあるからいけないのだ。研究室へ自家用車に乗せて持っていくことにした。
 妻と娘には、
「職場で処分してくれるというから、その方が手っ取り早くてお金がかからなくていいだろう」
といった。

 特に、
「お金がかからなくていいだろう」と、
いうとき、強調していった。
 二人とも納得である。

 恐るべき完全犯罪の成功である。

 

   妻VS和牛専門店

たまには贅沢をしたものだ。そうでもしないと気が滅入るからである。
今日は、土曜日なので自由が丘の和牛専門店へ家族で行った。
 娘は、贅沢にも和牛は飽きたから行かないという。その分、安く済むので助かると思っていると、
「現金で和牛のランチ分、頂戴!」という。
 親だけ贅沢をし子供に苦労をかけていると思われたくないので、現金で一万円あげた。千円札、10枚であげた。その方が、使いやすいだろうし、一万円札を無くされては大変だからだ。
 娘は、
「イジメね!」と吐き捨てるように言った。
 
 夫婦で和牛専門店へ行くのも良いと思った。
 わたしは、いつもの和牛が重箱に入っているものにした。
 妻は、贅沢で7000円のランチ特上セットであった。
 さらに、妻はサラダ、コーヒー、デザートの抹茶アイスを頼んだ。
 余りにも注文するのが手際よく早かったため、文句を言えなかった。
 
 

 わたしは、お重に入って来た薄い和牛を、なめるがごとくに味わった。
妻は、肉を焼かなければならなかった。
 簡単に言えば、高価な焼肉である。

 妻が、網に肉を載せて焼こうとすると、天井のエアコンの風で火が強くなったり、弱くなったり、斜めに炎が向いたりしたため、きれいに肉を焼くことができず、丸焦げになった肉が多かった。
 
 妻は、店員さんを呼ぶわ、と言った。
 店員さんが来ると、
「お宅のエアコンの風が肉を焼くときにあたって、炎が強くなったり弱くなったりするので、丸焦げになった肉や半分よく焼けず生の肉とかで困っているの。席を変えて、新しいお肉と交換して頂戴!」と言った。
 店員さんは、
「どうもすみません、お席を変えるのですね、分かりました。そして、お肉のセットを追加ということですね」と言った。
 
 妻は、
「お肉のセットの追加ではなくて、交換するのよ!」と、キツク言った。交換するのは構いませんが、新しく料金が発生いたします。無料で交換はできかねます」
というと、
「あなたが料金を払えばいいでしょう、こちらは、毎週来ているのよ、わかるわよね」と食い下がるように言った。
 まさか、こんなに焦げた肉を食べさせてお代は取れないわよね、と追い込むように詰め寄る。
 店員さんは、
「すみません」と何回も謝るばかりだ。
 妻は、
「謝るんじゃなくて、お肉のセットを交換するのよ、耳が悪いの?それとも頭が悪いの?」と興奮した口調で言う。
 何を言われても、返ってくる言葉は、すみません、だけだ。
 
 気が短い妻は、もういいわよ、これで我慢するわ、と言う。
 お会計の時、コーヒーとデザートが無料になっていた。
 中々、偉い店員さんだと思った。
 妻は、カスハラ・チャンピオン決定だ!

 

   我が家の和牛大作戦と終わりに

 せっかく建てた大きな家に住んでいるのに、実際その暮らし向きは、マンション時代と比べると相当悪い。
 そうはいっても、人は生きていかなければならない。

 一番大きく質素・倹約になったのは食費である。
 インスタントコーヒー、コメ、シャケを初め業務用を購入することが多い。単純に安いからである。味より値段が優先である。
 シャケの切り身。
 薄くて向こう側が見えそうな切り身だ。我が家は、必ずと言っていいほど、シャケの切り身の業務用をまとめ買いをする。
 我が家では、コメも業務用である。その主食となるコメと同じくらい重要な位置をしめているおかずが、そのシャケである。
 毎度のおかずである。
 
 今回は、GW、大型連休だ。
 妻に言われ、1000円渡されて娘とスーパーへ行った。
 今は、大型連休、どこの家でも旅行したり、食事をしたりだろう。
 それで、和牛を買うことにした。
 和牛は、自由が丘にある和牛専門店へたまにいく。
 そこの専門店へ行くのには深い理由がある。
 人は、満足のいかないものばかりを我慢して食べているとだんだんとストレスが募り、いらいらして来ると思う。
 それで、ほんの些細なことで喧嘩が起きる。
 我が家で言うなら、夫婦が別居したり、離婚したりせずに仲良くやって行く日頃の原動力が和牛であり、また、娘に対しても食べ物ぐらいで性格が悪くなり、ぐれられたらたまらないからである。
 

 和牛のステーキを三枚買った。もちろん、クレジットカード払いである。
 娘は喜んだ。
 1枚、3000円である。
 我が家では、クリスマスと正月と大型連休が一気に来たようなものだ。帰宅後、妻に事情を話しステーキを焼いてもらうように言うと、
「ご自由にどうぞ!」
とすごい剣幕でブチギレていた。
 和牛は、脂がのっていて格別である。
 娘から焼いてもらい食べていると、
「あなたがた、贅沢ね!」
という。
「わたしだけ、鶏の唐揚げ?」
という。
「和牛を食べたら?」
というと、
「脂が強いから少しだけね」
と言い、すごい速さで食べ切った。
 お腹が空いていたのであろう。
 食べ終わると、娘が、
「パパ、この和牛代金を、オークションで取り返そう」
という。
 そして、妻を残し娘とオークションの品を探しに納戸へ行った。
 
 和牛専門店も我が家の和牛も格別だ。

 業務用のシャケを毎日、食べてこれか。借金は増える一方ではないか。
 それでも、何とか家族円満なら、それでもいいのではないかと思えるようになって来た。
 我が家は貧しくなった分、家族の絆は強くなり、ユーモア精神だけは磨かれたようだ。わたしの家族はみなキャラクターが強い。そうでないと生きていけないからである。
 ない知恵を振り絞り、逞しく生きている。
  このお話には終わりはない。生きている限り、借金は続くからである。
 今晩からまた、何か思わぬことが起きるであろう。
 人生楽あれば苦あり、というではないか。

                 
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