スルガ銀行不正融資の被害者の手記。すごい、ひどい詐欺被害状況に言葉もでない。
障碍者の子供を持っている人が、子供のためにお金で困らないように資産をなんとか作ってあげようとする気持ちに付け込んだ詐欺でした。
何軒も無理して買った理由は、投資がうまくいっていないせいだったそうです。1件目でちょっとはずれを引いちゃったんで、どうしたらいいんだろうって相談した先にまたつかまされちゃったんです。で2件目はちょっとうまくいったと思ったら、サブリースがなくなって、行き詰まりに。3件目、ちょっと大きな物件だったんですかね。ひどいときは毎月34万も赤字になったそうです。
「これだから素人はだめだ」と批判する前に
すごいひどい事例ですが、こんな事例はたくさんあるようです。この方の投資は完全に失敗しています。レントロールの内容を事前に検証できていなかったり、リスクを軽くみてしまったり、うまくいってないのに、何棟も買って逃げ出せなくなってしまっています。
「これだから素人はだめだ」「失敗から学べなかったのが悪い」「自分で取り切れないリスクを背負った責任はとるべき」と批判することは簡単です。でも、でもです。だまされたこの人は、私たち外野が批判しなくても自分の失敗を誰よりも強く知っているし、責任を負うことになるでしょう。
これがFXや株式投資だったら、この方の損失は自己責任だったね、と言えると思います。なぜなら判断基準を狂わせる嘘がないだろうからです。相場の変動で損しちゃうことは、誰の責任でもなく、この方、ご本人がとるべき責任だといえるでしょう。
でも、この方は、いろいろ嘘の情報を提示され、それを信じ込まされてしまいました。そして、この人に売りつけた人はこんなことになることは知っていたはずです。間違いとかじゃなく、自分が営業成績を上げたり、利益を上げるためにだましたようです。
子供が障碍者で一生困らないようにちょっと無理してでも頑張りたいという気持ちをもって取り組んでいた人を騙す目的で買わせた人がいるようなんです。道義的にちょっと許せない気がします。それにそういう人が大手を振って儲けているのが許される世の中であることが怖いです。
法律的にこうして結んでしまった内容は問題なかったのでしょうか。契約内容に嘘が入っていて、だます目的で嘘をついている人には何の責任もないんでしょうか。
自分が得するために嘘をついて損害を与える行為が詐欺なんじゃないのか
初めてきくと、だました不動産業者が悪い、とおもうのですが、どの業者もスルガ銀行を使っています。スルガ銀行は個人向けローンを1兆円も貸し出しています。こうした不正な投資案件を知っていなかったのでしょうか?
知っていたはずです。知っていて無視することにしたようです。2018年にシェアハウスへの不正融資の問題が明るみになた際に、銀行を監督する金融庁は、スルガ銀行に社外の専門家を組織して「第三者委員会」を立ち上げ、調査するように命令しました。その第三者委員会の調査によると社内の審査を管轄する部門は数年間、社内でこの危ない投資を止めるべきと声を上げていたようです。
なにが危ないかというと、リスクを軽く見て失敗している投資である点もそうですが、論点はそこではなく、審査資料に嘘がある可能性が高い投資である点でした。フルローンである点、預金残高がありえない数字になっているが審査部門で原本確認していない点、三為取引とよばれる仲介業者が何社も介在する取引である点など、書類面でも緩く、銀行にとってリスクがある取り組みであることは周知の事実でした。
でも止まれなかった理由はひどい営業会社体質だったからです。
スルガ銀行、、、ブラックな営業現場と形骸化する審査プロセス
スルガ銀行は、地方銀行として静岡一円で営業していたわけですが、工場の海外移転など地場産業の空洞化で衰退していくトレンドに入っていました。日本の銀行は担保主義で、担保物件がないと貸さない。不動産購入の際も、担保となる資産があって、そこではじめて新規の購入を検討できるというスタンスでした。
ですが、スルガ銀行は投資の収益を計算する欧米型のプロジェクトファイナンス的な考え方で融資に取り組み始めます。2010年代初頭からそうして活動してきました。先進的な取り組みであったといえますが、リスク評価に関する考え方やノウハウは未成熟なままだったようです。またこうした取り組みを行って、新市場を開拓するという名目で、きちんとした評価をおこなわないだけではなく、悪質なチャネル
正当なリスク評価を行わず、提出されたレントロールの検証も、資金計画の評価も行わないままでした。
「この人は資産家で、自己リスクで不動産投資をおこなう。」「この人は頭金を差し入れている。ただその後の改修等に備えてフリーローンを組んでいる」など、社内ロジックに対して、検証を行いませんでした。実際は行っていたかもしれませんが、営業の強い圧力に、審査部門が骨抜きにされてしまっていたようです。役員レベルからの突き上げにまけちゃったようです。
「そうかもしれないけど、そうとは聞いていない」という言い訳で審査プロセスが形骸化していました。
「近隣相場よりも高値で貸していることになっているが大丈夫か」「相場よりも高騰している物件だが、収支上問題ないか」「サブリースで賃料保証があるが、数年で改訂されるリスクに対して評価を下方修正しないのか」「築年が古いが大規模修繕などを加味してリスク評価しないのか」「契約書で違うハンコが付かれているが、問題ないのか」などの懸案事項を考えないようにしていたようです。またスルガ銀行のクレジットカードや、定期預金をセット販売していました。これは必要なんですか?ときいた借り手に、これを契約してくれないと融資できませんと押し付けています。これは銀行法上、やってはいけない行為です。
第三者員会の報告は、こうしたスルガ銀行の行員のモラルや内部チェックが崩壊している点をしつこいくらいに明らかにしています。そしてその理由は経営層の方針によってもたらされていると明言しています。
スルガ銀行の行員は知っていたが見知らぬふりをしていた
組織ぐるみの犯罪、詐欺的行為と呼ばれる所以はこうした、知っていたが知らないふりをしていた点です。あまつさえ、指示をだして、営業が不動産業者にもっと案件をもってこい、うちの審査基準はこうだと教えていたという事実もあるようです。
「数字を変えてください」と明示的に指示したと第三者員会報告で証言した人が1人います。それ以外に数十人が、言葉を濁しながら、粉飾かも?とおもってもそのまま受け取ったと証言しています。
自分の会社が悪事で営業停止になり、連日テレビで報道されている中で行われた調査です。悪くすると自分も訴えられ、会社も訴えられてしまう調査なのです。よっぽど逃げられない証拠がない限り、私がやりましたと言えないはずです。それでもこうして証言せざるを得ないほど不正が横行していました。
貸し手責任?いや共犯である点が問題
銀行は営利企業なので、銀行の得を追及します。そこはよいと思います。でも、嘘をついている人をノールックで受け入れ、そこに乗っかって業績をのばしたら、それはまずいでしょう。こうした姿勢も問題ですが、詐欺の片棒を銀行が担いでいたことが問題です。
よく知られているように、銀行と不動産会社は協調関係にある場合があります。スルガ銀行は不動産業者と共催セミナーを何度も開催しています。またこのスキームであれば、リスクがないとおもわせるような表現「デフォルトゼロ」のような打ち出し方でセミナーを行っています。
騙したやつが悪いに決まっています、よね?
殺人事件では、殺した側が悪いです。嘘をついて人に損させたら、嘘をついた方が悪いです。じゃないと社会がうまく回りません。自分の利益のために嘘をつくひとを支援する人は、共犯者です。だました側は罪があります。だました側が悪いんです。その点を言葉を濁してごまかそうとしているスルガ銀行には、自浄能力がないと言わざるをえません。
2018年に失墜したスルガ銀行の株価は年々回復しています。スルガ銀行のブランドは棄損していますし、あそこにお金を借りているということは、ほかのどこもお金を貸してくれない人だ、と思われるくらいに地に落ちているそうです。誰よりもスルガ銀行自身がそのことを知っているはずです。経営再建に向けて一時手を組んだ大手家電量販店には逃げられてしまいましたが、いまは海千山千のクレディセゾンと関係を深めています。
なんだかんだと言いましたが、被害者も行員も救われるといいな、と思います。