アストロスケールホールディングスの有価証券届出書を読んで
久しぶりの更新です。
とある資格試験に合格するまではNoteを控える予定なのですが、もう前回記事よりも1か月以上空いたので少し勘を取り戻したいのと、本日でGWも終わりなので、最近の新規上場案件で気になったアストロスケールホールディングスの有価証券届出書を読んで、思ったことを書きます(知人は同社に誰も所属しておらず、文中の意見に関する部分は完全に筆者の私見です)。
また当然ながら、投資勧誘を目的にしたものではなく、投資は自己責任でお願いします。
(最初に会社概要を書こうとしたのですが、理解が遠く及ばず省略させていただきます。気になる方は上記の参考資料をご確認下さい。)
1.オファリング概要
バリュエーション
まず気になるバリュエーションですが、想定仮条件ベースの時価総額は)(90,859,200株+13,888,900株+6,944,400株)×720円=約80,419百万円です。
一方、業績は以下のような感じであり、正直高いのか安いのかは全然わからないので、深入りは避けます。
一つだけ言えるのは、受注残が相当積みあがっていることですね。とはいえ、予定通り収益計上できるかに関するリスクも併記されています。
ディールサイズ
次に気になったディールサイズは、以下の通りです(OA除く)。
2~3年前までは海外比率80%超え!!なんてドヤっている会社もあったかと思いますが、随分落ち着いてきた感じがしますね。
所謂144A/Reg-S案件ですが、昔投資銀行の方から聞いたのは海外20,000百万円以上が割に合うサイズだったと記憶しており、その点本案件の海外5,000百万円はずいぶん小さいとも思いました。
(まあ、過去にはティムスの1,500百万円なんてのもありましたし、宇宙という業態上国内投資家は付いて行きづらいでしょうから、グローバルオファリングは何にせよ必須だったのでしょうね)。
代表以外の売出ゼロ
個人的に少しびっくりしたのが、代表以外の売出がゼロだったんですよね。
これが何を意味するか(既存株主がvaluationに不満、元々長期保有前提、etc.)は全くわからないのですが、元々資金需要が大きいビジネスでもあり新株発行を相当程度行っているので、流動性的にはクリティカルではないのかもしれません。
とはいえオーバーハング懸念はあり、事業等のリスクにも記載があります。
スプレッド
比較的大型の案件ということもあり、スプレッドは小型案件で一般的な8%おりも低いのはよく見る光景ではありますが、少し面白いなと思ったのは、国内と海外でスプレッドの水準が異なるんですね。
今後海外配分を増やすためのインセンティブなのか、海外の方が手間がかかるからなのか・・過去の事例を少し確認しようと思いました。
親引け
親引け先として以下が記載されています。MZ Space Fund投資事業組合だけ調べても出てこないのですが、イニシャル的にあの人絡みなのでしょうか・・?
2.その他
優先株⇒普通株⇒優先株
この会社に限らずですが、上場前に一度優先株が普通株に転換され、再度優先株に転換されているケースを時々見かけます。
これを行う経済合理性が投資家側にないので、あくまで想像ですが、普通株式に転換された2022年4月期に一旦上場申請を行い、その際に上場プロセスにおける要求事項に従い、(上場が延期になった場合は優先株に戻す旨の覚書等を締結の上で)普通株に一度転換したものの、何らかの理由で一度上場を見送り、当該覚書に従い優先株に戻したのではないかと思いました。
シンガポール法人⇒日本法人
印刷不鮮明なのですが、当初シンガポール法人として設立したものの、東証への上場を目指すに辺り日本法人化(所謂インバージョン)を行ったようです。
シンガポール法人のまま上場する、所謂JDRスキームもあり、既に日本でも何社か事例はありますが、下記で記載がある通り流動性への懸念はありますし、創業者も日本人ですから、(税金等の各種デメリットはさておき)日本法人化するのが一番きれいなんでしょうね。
決算日直後の上場承認
この会社の上場承認日は5/1、上場日は6/5なのですが、決算日は4/30と、まさに決算日直後の上場です。
2024年4月期決算はまさに今行われているところで、上場日までに監査を含め完了する可能性はほぼないと思いますが、今の届出書の内容(3Qまで)で進むのか、どこかのタイミングで(場合によっては未監査である旨を添えて)通期の数字も届出書の中で開示するのか、個人的には気になっています。
グローバルオファリングですし、海外投資家からすると、通期の数値は開示してほしいのだろうとは想像しています。
3.最後に
ビジネスモデルや経理の状況もそうですし、英文目論見書も含めもっとじっくり読みたかったのですが、時間の関係でかなりかいつまんだ内容になりました。
今後、上場日までに諸々大きなアップデートがありそうな会社でもあり、その内容によっては今後のIPO実務でも参考になるような事例もあり得るので、引き続き追いかけていきたいと思います。